2話
前半は一人称ですが後半から三人称になっています。うっかり、文章を間違えてしまいました。
次からは気をつけたいと思います。すみません。
私が夕食を終えて後片付けを母さんとしている時だった。姉さんが私に声をかけてきた。
「…イルゼ。あんたに手紙が今日届いていたのだけど」
「…手紙?」
水ですすいだ皿をシンクの近くに備え付けてある食器用の籠に入れた後で姉さんに振り向いた。
「私に手紙って。誰からなの?」
尋ねてみると姉さんは難しい顔をしながらも手紙の裏面に目を通した。
「えっと。アマーリア侯爵と書いてあるわ。イマーヌエル・アマーリア様」
アマーリアと聞いた後、母さんが顔色を青くさせて私の方を向いた。
「…アマーリア侯爵様ですって?」
母さんが掠れた声で呟く。姉さんは慌てて近づいた。
「か、母さん。大丈夫?」
「…イルゼ。それにイリア。皿洗いは私がやっておくから。手紙は二人で読んでちょうだい」
「…わかった。そうするわ。イルゼ、応接間に行きましょう」
私は姉さんに引っ張られながらも皿をシンクのたらい桶の中に入れてから応接間に行った。手紙は姉さんが持ったままだった。
そうして、応接間として使っている部屋に入ると薄い木製のドアを閉める。イリア姉さんは難しい顔をしながらも私に手紙を渡してきた。置いてある椅子にそれぞれ座ると手紙の封を机の上にあったハサミで切った。
それには丁寧に綺麗に綴られた文章があって私は目を通す。
<イルゼ殿へ
初めて手紙を送りますね。わたしはクリスティアーノ・アマーリア侯爵と申します。
つい先日にあなたの母御であるルイーゼ殿が見つかり、わたしの邸に呼ぶ事が決まりました。あなたや姉君のイリア殿も共に来ていただけると嬉しいのですが。では、会える日を楽しみにしています。
クリスティアーノ・アマーリア>
そう書かれた内容にイルゼは驚きのあまり、固まってしまう。イリアも困ったような表情をしている。
会った事もない侯爵様から手紙をもらう謂われはない。なのに、先方は自分たちを知っているようだ。
イルゼとイリアは頭を悩ませたのだった。
あれから、姉妹二人で話し合い、とりあえずは手紙の返事を書こうという事になった。だが、返事を誰が書くかで揉めてしまう。仕方なく母のルイーゼが書く事に決まった。
ルイーゼは昔、さる侯爵家に侍女として仕えていたらしくて文字の読み書きはできた。しかも、彼女の書く文字はなかなかに綺麗な事から代筆を頼まれた経験もあるらしいのだ。そこから、イリアとイルゼは無理に母にペンやインク、便箋と封筒一式は自分たちで買うから返事を書いてほしいと頼み込んだのだった。
最初は渋っていたルイーゼだったが二人の娘からの熱心な説得により折れてくれた。そうして、イルゼとイリアの二人は給料の半分を生活費に回して半分は貯金しておいた。こつこつと貯めて羽根ペンとインクを買い、便箋と封筒も揃えた。
そうして、やっと手紙のお返事を母に書いてもらい、送る事ができたのはアマーリア侯爵から手紙が届いて二ヶ月後のことだった。
しばらくして侯爵から返事が届いた。ルイーゼの書いた手紙では侯爵家へ母子三人で押し掛けるのは夫人や子息たちに迷惑をかけるし申し訳ないとやんわり断ってもらう内容だったが。
侯爵はそんなことを気にする事はない、夫人は既に病で亡くなっているし息子たちは結婚して邸を出ているから気にする事なく来てほしいとあった。これには三人で首を傾げるしかない。
仕方なく、もう一度ルイーゼが手紙を書いて断る事にしたのだった。
ある日、イルゼは普段通りにカフェで仕事をしていた。店主のユリアと二人でお昼の休憩時間にしゃべっていたのだが。
話題はいつの間にかイルゼたちに届いた手紙の事になる。ルイーゼに二回ほど断りの手紙を書いてもらったことを話した。
「…ふうん。ルイーゼさんに断りの手紙を二回も書いてもらうとは。よっぽど、あんたたちは嫌なのかい?」
ユリアは片眉だけを器用に上げて問いかける。イルゼは苦笑いしながら答えた。
「嫌というわけではないんですけど。ただ、母さんと三人で貴族様のお邸に行くのは気が引けるというか」
「なるほどね。迷惑というところか。まあ、気持ちはわからなくもないよ」ユリアの言葉にイルゼは肩を竦めたのだった。