15話
私は翌朝の六時頃に起こされた。ルアンさんは身支度が出来ると食堂に向かうように言う。
どうしてと聞いても答えてくれない。仕方なく眠い目を擦りながらルアンさんに食堂まで案内してもらう。
食堂に入ると濃い赤茶色の髪と榛色の瞳の控えめながらも凛とした女性と同じような髪と瞳の色の派手な感じの若い女性の二人がいた。二人共私を見て驚いた顔をしている。
年長らしき女性は薄く化粧を施していて落ち着いた藍色のワンピースを着ていた。ヒールも低めのものを履いているが。私は近くで見て既視感を覚える。
派手な感じの若い女性も薄い水色のワンピースと少し高めのヒールで化粧は濃い。けど、この二人はどこかで会った事がある。
「…あの。あなた、もしかしてイルゼなの?」
年長の女性が恐る恐ると言った感じで尋ねてきた。声を聞いて私はすぐに女性が誰なのかわかった。
「え。母さんなの。確かに私はイルゼだけど」
「ああ。やっぱりそうだったのね。良かった、元気そうで」
母さんは涙ぐみながら私に近づいてくる。両手をそっと握って呟いた。
「ユリアからイルゼがいきなり侯爵家を名乗る人たちに連れて行かれたって聞いたの。それで心配して町の騎士団に捜索願いを出したのよ。だけど、その心配はないってアマーリエ侯爵ご本人がいらして。わたしとイリアで付いて来たんだけど」
母さんが出てきた涙を拭くともう一人の女性ー姉さんも苦笑しながら近づいてきた。
「まあ、粗方は母さんの言う通りよ。その後、三日掛けてこちらの邸まで来たの。昨日の夕刻に着いて。明日になったらイルゼに会えるっていうから。それで朝方になってからここで待ってたの」
「そうだったの。母さん、姉さん。心配かけてごめんなさい」
私が頭を下げると母さんも姉さんも謝る事はないと言う。頭を上げると姉さんが明るく笑った。
「まあ。無事で良かったわ。こちらの邸の人たちは信用できるみたいね」
「うん。父上、侯爵様も優しい方よ。姉さんと母さんはもう会ったの?」
私が尋ねると母さんは頷いた。
「ええ。会ったわ。クリス様もお元気そうで。わたしとイリアにもこちらに住んでほしいとおっしゃったわ」
そうと言うと母さんは立ち話も何だからと椅子に座るように促す。今まで壁際に佇んでいたルアンさんが紅茶の用意と朝食をお持ちしますと言ってくれた。
他のメイドさん達も入ってきて食事を用意してくれる。朝食は母さんや姉さんも食べやすいようにと黒パンを薄く切ったものやあっさりとした野菜スープ、オムレツにサラダ、ミネストローネが出された。
スープの代わりに母さんはミネストローネを姉さんはスープを選んだ。私も野菜スープを食べた。
「懐かしいわ。侯爵家のミネストローネはメイド長が得意でね。よく作っておられるのを見かけたものよ」
「へえ。母さんは侯爵家のメイドをしていたから昔の事はよく知っているわね」
イリア姉さんが言うと母さんはそうねと笑う。和やかな中で朝食は終わった。
朝食の後で私はゲストルームに行くと言ったら姉さんも付いてきた。何でも姉さんもオリビア先生やサラ先生、ウィル先生に同じように授業を受けるように言われたらしい。
母さんはメイドに復帰したいと言ったけど。それは父上が却下したと姉さんは教えてくれた。
「…仕方なく、侯爵夫人としてのお勉強をすると決めたんですって。だから、わたしやイルゼ、母さんはこれからすごく忙しくなるわね」
「そうね。昨日はウィル先生の宿題に手間取って。寝るのが遅くなってしまったわ」
「そう。だったらわたしも腹を括っておかないとね」
姉さんの言葉に私もそのつもりでいてねといったのだった。
そうして、オリビア先生の授業を二人で受けることになった。姉さんは真面目な表情で授業を受けたのだった。
やっと、イルゼの家族が合流しました。ここまでで5日は経っています。長かったですね…。