14話
私はオリビア先生の授業が終わるとサラデイアナ先生を待った。少し休憩にしましょうかとルアンさんが言う。
紅茶とシフォンケーキが出される。それを味わいながら、王太子様がどんな方なのか尋ねてみた。
「ねえ。ルアンさんは王太子様の事を何か知ってるかな?」
「あら。王太子様の事ですか。わたくしは噂程度の事しか存じませんけど」
「それでもいいから教えてもらえるかな。私、王太子様の事何にも知らないから」
私が言うとルアンさんはそうですねと考え込んだ。
「…王太子様は穏やかで真面目な方だと聞いております。冷静でとても有能でいらっしゃるそうですよ。見目も金の髪に緑色の瞳のかなりの美男であるとか」
「へえ。じゃあ、もてるだろうね。私ごときがそんな方の婚約者になれるとは思えないね」
ふうと息をつきながら言う。ルアンさんは苦笑する。
「お嬢様。そうおっしゃらずに。旦那様がお聞きになったらお怒りになります」
「ルアンさんが言うんだったら気をつける。それより、母さんと姉さんはいつになったら来るのかな」
私が質問するとルアンさんはお茶を淹れる手を止めた。
「ルイーゼさんとイリア様は今日のお昼になったらこちらに着くそうです。それまでは授業を受けてください」
「そっか。わかった」
頷くとルアンさんはほっと息をつくと紅茶のおかわりをくれたのだった。
一時間ほどしてサラデイアナ先生がやってきた。背が高くてすらりとした女性だ。髪も赤毛で瞳が茶色だった。まっすぐな髪をバレッタで後ろにまとめてオリビア先生よりは華やかな感じにしている。
「初めまして。わたしがサラデイアナです。オリビア先生とは知り合いなんです。その縁で紹介していただきました。お嬢様、サラと呼んでくださって構いませんよ」
にこやかに言ってくれたので私も立礼をしながら挨拶をした。
「初めまして。イルゼといいます。今日からよろしくお願いします。サラ先生」
「ええ。わかりました。お嬢様、ダンスは初めてですか?」
「…そうですね。叔母のユリアさんが旦那さんと踊っていたのを見たくらいで。実際にはこれが初めてです」
「そうでしたか。だったら、簡単な曲から教えた方が良さそうですね」
「お手柔らかにお願いします」
サラ先生はええと言ってダンスホールに行きましょうと言ってくれたのだった。
サラ先生は厳しいけど私がちゃんとできるまで辛抱強く教えてくれた。基本のステップを中心にやり男性と踊る時は背をまっすぐにして全てを委ねない事と言われた。
男性役もサラ先生が引き受けてくれた。顔の位置なども手取り足取りで教わりそれは昼食まで続いたのだった。
昼食で一旦休憩して午後からはウィルソン先生の授業が始まった。
ウィルソン先生は五十過ぎの穏やかな物腰の男性だった。髪を短く切り揃えて髭も生やしていない。黒髪で瞳もオークレール王国には珍しい琥珀色だ。
顔立ちは普通の人だけど笑うと優しそうな雰囲気になる。ほっとさせてくれる感じの先生だった。
授業も数学や国語など多岐に渡り、お昼の一時から夕刻の六時頃まで休憩を挟みながらみっちりと教わる。
「…お嬢様。わしの事はウィルと呼んでください」
「わかりました。ウィル先生」
休憩の時にウィル先生が言った。私も笑顔で頷いた。ウィル先生は若い時は文官として王宮で働いていたらしい。
そのせいか政治や外交の事も教えてくれる。なかなかに充実した時間になった。
夕刻の六時にやっと授業が終わる。ウィル先生は宿題を全科目出すとにこやかに明日また来て教えますと言った。全部は無理があるからと言ったが先生は少しずつにしたからやりなさいとのたまう。
仕方なく、頷いておいた。夜になり夕食を急いで食べて宿題に取り掛かる。数学が一番苦戦した。
それでも自力で解いた。全部終わる頃には夜中の二時近くになっていて驚いたのだった。