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10話

私は馬車からウィルに手助けしてもらいながら降りた。


邸の門前らしき場所には濃い茶色の髪と榛色といえる瞳の中年らしき男性とウィルによく似た初老の男性が立っているのが見えた。ルアンさんが小声で言った。

「茶色の髪の方がアマーリエ侯爵様です。隣にいるのがウィルさんのお父さんで家令のウォーレンさんですよ」

それには頷いておいた。

濃い茶色の髪の男性がにこやかに笑いながらこちらに近寄ってきた。

「やあ、初めまして。君がイルゼさんかな?」

「はい。そうです」

「やはりな。ルイーゼに面差しが似ている。わたしがこの邸の主でクリスティアーノ・アマーリエという。君から言うと父親になるな」

アマーリエ侯爵と名乗った男性はそう言ってウォーレンさんに目配せをする。

「初めまして。わたしはアマーリエ侯爵様の家令でウォーレンと申します。そちらのウィルは聞いておられると思いますが息子になります」

二人が挨拶を終えると私はルアンさんから教えてもらったやり方で礼をした。ドレスの裾を摘まんで膝を曲げ、頭を下げる。

「こちらこそ初めまして。イルゼ・ウィンリーと申します」

「ああ。そんな堅苦しい挨拶は不要だよ。イルゼさん、とりあえず中に入ろう。ウォーレン、ウィル。荷物を頼む」

侯爵にそう指示をされたウォーレンさんとウィルは馬車に向かって歩いていく。ルアンさんも頭を下げて挨拶をした。

「旦那様。ただいま帰りました」

「ああ。よく無事で帰ってきてくれた。イルゼさんの世話は頼むぞ」

「かしこまりました」

侯爵はそう言うと私にも微笑みかけた。

「では、荷物は御者やウォーレンたちに任せて。我々は中に入るとしようか」

「わかりました」

頷いて邸の中に入ったのだった。




サロンでルアンさんに紅茶を淹れてもらいながら、侯爵と話をする。侯爵はなかなかに明るい人で話題が尽きない。

「イルゼさん。いや、イルゼと呼んでいいかな?」

「構いませんよ。私も侯爵様とお呼びしても?」

「…せめて父と呼んでほしいね。イルゼ」

苦笑しながら言われる。私は慌てて言い直した。

「ごめんなさい。父上でいいですか?」


「ああ。それでいいよ」

侯爵こと父上は満足そうに笑う。私は正解だったのでほっと息をついた。

「イルゼ。ウィルから王太子様の話は聞いたかな?」

「ええ。聞きました。婚約者を探しておられるとか」

「そうなんだよ。君か姉のイリアになってもらおうと考えていてね。王太子殿下は今年で二十四歳になられる。そろそろ、結婚をと陛下や王妃様がやっきになられていて。我が家にも使者が来てね。だが、息子しか夫人との間にはいない。それで思い出したのがルイーゼだった」

そこで父上は一旦言葉を切る。紅茶で口を潤してから言う。

「だから、彼女の行方を探したんだ。そしたら、侍女の内の一人が王都で有名なカフェにルイーゼに顔立ちがよく似ている娘がいると知らせてきた。ウィルに様子を見に行かせたら確かに髪や瞳の色はアマーリエ侯爵家のものだが顔立ちがルイーゼに似ていたと言っていて。だったらとルイーゼの居所も調べさせた。姉のイリアもいたからね。これ幸いと迎えに行かせたというわけだ」

父上はそう言って紅茶のカップをソーサーに置いた。私をじっと見つめる。

「君たちの暮らしを壊すような真似をしたことは謝るよ。けど、陛下はルイーゼとイリア、イルゼの事を何故かご存知でね。君たちをこの目で見たいとおっしゃった。もし、ルイーゼたちを王宮に連れて来なかったら我が家を潰すとまで言われてね。仕方なく、命に応じるしかなかった」

本当にすまないと父上は頭を下げた。私はどうしたものかと悩んだ。

「頭を上げてください。父上のせいではないのはわかっています。悪いのは脅してきたおっさ、いえ。陛下ですから」

おっさんと言いかけたのを陛下と直して父上にいった。

父上は頭を上げると何ともいえない表情をした。

「すまないね。会ってまもないけど。イリアとルイーゼは明日になったらこちらに来るから。その間、我が家で寛ぎなさい」

私は頷いた。けど、一つ気になる事があって尋ねてみる。

「あの父上。奥方様がいらっしゃるのに私や母さんたちを邸に招いてもいいのですか?」

「…ああ。ウィルやルアンは話さなかったのか。奥方はいないよ。私の正妻だったヴェルヴェットは亡くなっていてね。息子も二人いたが。彼らは婿入りしたり寄宿舎にいて邸にはわたし一人なんだ」

父上はそう言うと立ち上がりルアンさんに目を向けた。

「ルアン。今からイルゼを客間に案内しなさい。イルゼの部屋は後日に整えさせるように」

「わかりました。旦那様」

ルアンさんは是と答えた。

父上もいいね?と言ったので私は頷いたのだった。

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