崖っぷちナース・芽衣さん
早退して病院に……受付するかと思ったら、ひかりさんはまっすぐナースステーションに向かう。
「あの、ひかりさん、受付は?」
「神代さんごめんなさい、穂のかのせいで」
「い、いや、いいんですが……受付……」
「穂のかのせいだから……受付行けない」
「行けないって……じゃあ、どこに?」
「芽衣姉さん!」
ナースステーションに向かって手を振りながら名前を呼ぶひかりさん。
一人やって来て、
「なに、ひかり、どうしたの?」
「芽衣姉さん、神代さんを診て」
「神代……ああ、新しい同居人」
芽衣姉さん……って、どうもひかりさんのお姉さん。
「はじめまして、神代太市です」
「うん、知ってる、どうしたの?」
言ってから芽衣姉さんの頭上に「!」が浮かんだ。
すぐに俺のシャツをめくると、
「あちゃ、穂のかか、そっか」
芽衣姉さんの指が痕を撫でる。
それから芽衣姉さんは俺をじっと見つめると、
「先生には見せられないわね、私が診るわ」
言いながら俺を「宿直室」に連れ込む。
「あ、ひかりは外で待ってて……見たい?」
芽衣姉さんが言うのにひかりさんはプルプルと横に首を振った。
俺と芽衣さん二人きりで部屋に入る。
「施術中に入ってこられると困るから」
言いながら部屋に鍵を回してロック。
宿直室の中は真っ暗だったけど、明かりが点くと布団が敷かれている。
さっきまで誰か寝ていたのか、掛け布団が半分めくれたりしていた。
「服脱いで、横になって!」
言われるままに掛け布団を押し退けて横になる。上着を脱いでいると、
「ひどいわね……痛かったでしょ」
「今は痛くないんですけど……叩かれた時は意識が」
「穂のか、力だけはすごいから」
言いながら芽衣さんは痕をさする。
それから俺の顔をじっと見つめて、
「ねぇ、今、付き合ってる娘、いるの?」
「は?」
「お姉さんが結婚してあげよっか?」
「は!」
って、芽衣さんどこからともなく一升瓶出してきてラッパ飲み。
俺、時代劇なんかで焼酎を「プッー」って吹きかけるのを想像したけど……
芽衣さん「ごっくん」って飲んでしまう。
「ちょ、ちょっと、今、仕事中じゃないんですか?」
「……」
俺が見つめるのに、芽衣さんも見つめかえしている。
芽衣さんプルプル首を横に振ると、
「だめ、こっぱずかしい、もっと飲もう」
って、今度はグビグビ、ゴキュゴキュ飲み干し始める。
水でも飲むように、一升瓶の中が減っていくのがわかった。
「ぷはーっ!」
「ちょ、ちょっと! あのっ!」
「よーし、はずかしくない」
って、一升瓶、空になってる!
「毎日まいにち仕事しごとで、ずっと男日照りなのよっ!」
酒くさい息で顔を近づけてくる芽衣さん。
俺の肩をしっかとつかんで、
「いい、私がしたいんじゃなくて、あんたの為にやってやってんだからねっ!」
な、何言ってんだ!
「ここで私がやってあげないと、あんた、家で変な気おこしちゃうでしょ!」
今、芽衣さん、変な気おこしてますよね?
「いい、私がエッチ、したいんじゃないんだからっ!」
ナース服脱ぎながら、
「今、ここで私が大声あげたら、どっちのせいになると思うっ!」
うーん、普通に考えるなら俺なんだけど……芽衣さん酒くさいからどうなのかな?
「さ、お姉さんが診てあげるんだからねっ!」
芽衣さんすごい美人だから嬉しい筈なんだけど……
誰か助けてほしい……思ったら、さっきロックした鍵が回る。
「パチン」なんて音がして、目のすわったひかりさんがいた。
すっと右手の手刀が振り下ろされる。
芽衣さんの頭から「☆」が3つ弾けて、芽衣さんは崩れ落ちてしまった。
「まったく、芽衣姉さんはっ!」
ひかりさんは芽衣さんを布団です巻きにしてしまった。