表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/25

ラッキー?

『お・き・ろーっ! おきろっ!』

 声と痛みが、俺の意識を揺り動かす。

『こらーっ!』

「!!」

 痛み……頬を叩かれているのがわかった。

 目を開くと、そこには早苗さんが今まさにビンタって振り上げたところだった。

「あ、目、醒めた?」

「さ、早苗さん、ポンポン叩かないでください」

「神代くん、君は早速問題を起こしてくれたね」

「はぁ?」

 って、早苗さんが視線を逸らす。

 そんな視線の先には、浴室にいた女の子。

「あ……その、ごめん」

 女の子はゆっくりと近くに来ると、

「はじめまして、神代さん」

「え、あ、はい……名前、知ってるんだ」

「神代太市さん、はじめまして、穂のかです」

「穂のか? 穂のか……はじめまして」

 穂のか……小学生くらいか、じっと俺を見つめて、

「ラッキースケベは許す」

「は? ラッキースケベ?」

「浴室で女の子の裸、ラッキースケベ」

 なんだそのラッキースケベって、

「いや、ラッキーって、わざとじゃないよ、本当にごめん」

「いいです、早苗ちゃんの声もしてた」

 この子、お姉さんを早苗ちゃんよばわりなんだ。

「でも、穂のかは神代さんの事をラッキーさんと呼びます」

「すごい嫌だな~」

「じゃ、スケベさん」

「もっと嫌だな~」

 俺は穂のかちゃんの頭を撫でてやりながら、

「本当にごめん、だから許して」

「……」

「小さい子が入ってるなんて、思ってなかったんだ」

「!!」

「小学六年くらいかな?」

「!!」

 見つめていた穂のかちゃん。

 頷いた……んじゃなくて、構えてた。

 繰り出されるパンチが俺の腹部にめり込んだ。

「うぐっ!」

 ゆがむ視界。

 俺はパンチを見て、わずかに体を動かすしかできない。

 でも、その「ちょっと」が効いた。

 わずかにポイントを外れてくれたパンチ。

 俺はなんとか意識を保って、穂のかちゃんを見つめた。

「ほほほ穂のかちゃん、すごい痛いんだけど!」

「!!」

 びっくりした顔で見つめる穂のかちゃん。

 すぐに早苗さんが穂のかちゃんを羽交い絞め。

 ひかりさんが引きつった顔で、

「くくく神代さん、大丈夫っ!」

「え、ええ、なんとか……」

「穂のかのパンチで生きてるなんて」

「た、確かにいいパンチです、小学生なのに」

 って、羽交い絞めされてる穂のかちゃんが頭から湯気を立てていた。

 ひかりさん、引きつった顔で、

「穂のかは中学生なんですよ、二年」

「え!」

 俺がびっくりして目をやると、

「根に持ってやる」

 どうやって穂のかちゃんの機嫌とろうかな~


 朝、まだパンチの痛みが残っているのをさすりながらリビングに。

 でも、痛いのよりおいしそうな匂いに心が弾んだ。

「おはようございます」

「はい、おはようございます」

 予想通り、ひかりさんがエプロン姿で台所に立っていた。

 テーブルには早苗さんと穂のかちゃんが食事中。

「おはよう、神代くん」

「おはようございます、ラッキーさん」

「うう……おはようございます」

 俺はひかりさんが目で合図してくれるのに空いている所に腰を下ろした。

 すぐにゴハンと味噌汁、シャケの切り身と卵が出てくる。

 でも、俺の目はそれよりも「食事の後」に釘付けだ。

「あの、ひかりさん……」

「はい、なんですか?」

「これは?」

 二人分の「食事の後」。

「ああ、それはまいと籾」

「まい? 籾?」

 ひかりさんも腰を下ろすと、茶碗を手に、

「ここは『越野姉妹』で住んでるって言ってませんでしたっけ?」

「八人……そうだった、他にもいるんですよね」

「ええ、妹達は先に出ました」

「見たかったな……」

「ふふ、学校は一緒ですから、会えますよ」

「同じ高校なんですね」

「ええ、まいと籾は双子で、高校はわたし達と同じ七米高」

 途端に向かいに座っている穂のかちゃんの刺すような視線。

「何かな?」

「ラッキーさん、穂のかは小学校に通えばいいですか?」

 まだ昨日の事、根に持ってるみたい。

 今日の穂のかちゃんはセーラー服を着ている。

 さて、ここで選択肢だ。

 1・セーラー服をほめる。

 2・ともかくあやまる。

 3・黙って微笑む。

 俺の選択肢は「2」だ!

「昨日はゴメンね」

 とりあえずオプションで微笑んでおけ、っても、多分引きつってる笑顔だろうけど。

 でも、なんだか正解だったみたいだ。

 穂のかちゃん、俺をじっと見つめた後で、

「好感度+1」

「で、今の好感度はどれくらい?」

「マイナス199」

 まだまだ先は長いぞ~


 でも、穂のかちゃんは俺と隣の席で通学してくれた。

 前の席に座ったひかりさんの肩が微かに動く。

 俺の携帯が鳴った。

「?」

『穂のかの機嫌、直ったみたいですよ』

『どこで俺のメアドを?』

『ご両親から教えていただいたの』

『穂のかちゃんの機嫌、直ってるんですか?』

『隣に座ったりしないと思うけど』

 って、俺の操作している携帯を穂のかちゃんが隣で見ている。

 穂のかちゃん、俺が見ているのに気付いて、

「なんですか?」

「いや、機嫌、直してくれたのかな~って」

「穂のか、小学校に行きます」

「機嫌直ったんじゃないの?」

「穂のか、小学生サイズです」

「えっと、ごめんって」

 むう、機嫌直ってないって思うけど……

 ひかりさん、ちらっとこっちを見て微笑んだ。

 これが機嫌直っている状態なのかな?

 ちょっと仕掛けてみるか。

「じゃ、何で俺の隣に座ってくれるの?」

 穂のかちゃん、頭上に「!」を浮かべる。

 でも、すぐに目を細めて、

「ラッキースケベさんがチカンさんにならないように、穂のかが見張ってるんです」

「今度はチカン扱いか~」

「ずっと穂のか、見張ります!」

「!!」

 穂のかちゃんは俺の腕に腕を絡めた。

「ずっと見張ります!」

 うん、機嫌、直っていそう。

 もで……

「穂のかちゃん」

「何ですか、ラッキーさん」

「許して、腕、折れそう」

 穂のかちゃん、すごい腕力、小さい体のどこにこんなパワーが?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ