七米高
「そういえば、ひかりさんはどうして家にいたんです?」
学校に向かうバスに揺られながら、俺はひかりさんに聞いた。
米神荘に着いたのはまだ午前中だったから、なんでいるのか不思議だった。
「今はちょうど試験休みだったの」
「ああ、それで」
「七米町の中学高校は今の時期、どこも試験休みのはずよ」
「よかった~」
「ふふ、どうしたの?」
「ほら、さっき早苗さんが?」
「早苗姉さんが?」
「俺の成績筒抜けなんですよね? 試験の後の転校でよかったです」
って、途端にひかりさんはクスクス笑うと、
「神代くんって勉強、苦手なの?」
「普通、そうなんじゃないです?」
「じゃあ、次のテストまで頑張らないとね」
「七米高って成績いいんです?」
「他の学校と比べた事はないけど、お姉ちゃんが言うくらいだから、そこそこかも」
「うわ……」
「ふふ、その時は一緒に勉強しよう」
微笑むひかりさん。
すごいかわいいんだけど、成績絡みのおしゃべりだから気分「楽しい」「重い」は半々だ。
と、アナウンスがあって「七米校前」でバスが停まった。
俺はひかりさんに続いてバスを降りると、
「こっちが七米高校、向かいが七米中学、あっちが小学校で、こっちが大学」
「学校、集まってるんですね」
「そうなの……たまたまとは思うけどね、むこうの方には幼稚園や保育所もあるわ」
職員室に通されて、担任の先生や校長先生と話した後、学校を一巡りした。
それからひかりさんはニコニコ顔で、
「ね、一緒にお買い物、つきあってくれる?」
初めての土地で、俺一人では何もできないから着いて行くしかない。
ひかりさんはすごい笑顔で、
「ふふ、今日、神代くんがいて、よかった」
そんな笑顔にちょっとドキドキ……
でも、すぐに、
「お買い物、荷物を持つのが大変なのよね~」
俺は荷物持ち。
でも、こんなかわいい女の子と買い物なら、いいかな。
あてにされるのも、なんだか嬉しかった。
買い物はすごい量で、帰りは早苗さんを呼んで自動車で帰って来た。
そんな大量の食材を運び込みながらひかりさんは、
「すぐ夕飯の準備をするから……」
ちょっと視線を泳がせてから、
「先にお風呂、入っちゃってください」
そして買い物の中から下着やらを出して、
「男の人の下着ってこんなのでいいのかしら?」
顔を真っ赤にしてトランクス。
「男の人の寝巻ってこんなのでいいのかしら?」
真剣な顔でジャージの上下。
「あの、パンツとかちゃんと持ってますから」
「そ、そうなんだ、えへへ」
踵を返して台所に行ってしまうひかりさん。
早苗さんが眉間にしわを寄せて、
「神代くん、早速新婚ゴッコかね!」
「あの、早苗さん、何でもそっちに持っていってません?」
「初対面の女の子にパンツ買わせるかな?」
「俺、ただ後ろを着いてまわってただけですって」
「ま、まさかコンドーさんとか買っていまいな、な!」
「本当にワイドショー好きですね」
って、早苗さんは俺にチョップを一発くれると、
「ふん、そのうち化けの皮を剥いでやるからな、早く風呂に入るのだ」
「はい、お先に失礼します」
今、ここにしか居場所のない俺。
追い出されたりしたら、どうしていいかわからない。
ここは石にかじりついてでも、ここにいないと!
追い出されないように注意しないといけない。
でも、ちょっと気がかりな事もあった。
「あの、早苗さん」
「何?」
「買い物してて思ったんですけど……」
「うん?」
「すごい量だったから……」
「ああ、神代くんは知らなかったっけ?」
「はい?」
「米神荘は七人……神代くんも入れると八人だからな」
「!!」
俺は着替えを確かめながら、
「八人って、さっきの食材八人分なんです?」
「そうだ、八人分になる、ゴハンはひかりが作るからな」
「ゴハン、作ってくれるんだ」
「なんだ、また新婚ゴッコ妄想か?」
「ちがいますよ~」
でも、ひかりさんの料理は楽しみだ。
さっき行ってしまう時に見た背中。
今はその後ろ姿で調理の最中なんだろう。
さっき早苗さんに言われたせいで、勝手に想像してしまう。
そんな早苗さんに案内されて風呂場まで行くと、
「洗濯物は洗濯機に入れておくといい……」
「あ、はい」
「ちょっと待て、一緒に洗濯したら妊娠しないかな」
「あの……でも、別にしときます?」
早苗さん、ちょっと考えてから、
「別々に洗濯なんて面倒くさいから、一緒にしてていいよ」
「いいんですか?」
「神代くんは家で別々に洗濯していたのかね?」
「いえ、一緒でしたけど」
「なら、別に問題ないではないか」
言うと早苗さんはすぐに出て行ってしまった。
俺はさっさと脱いで浴室のドアを開く。
「「えっ!」」
先客発見。
泡まみれの女の子がじっと俺を見つめていた。
「あ、ごめっ!」
俺が動くよりも先に女の子が動く。
座って体を洗っていた。
立ちあがる。
繰り出されるパンチ。
俺のレバーをえぐるようにHit!
「ぐっ!」