表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/25

米神荘ってどこ?

 窓の外には田んぼが広がっていた。

 風が吹くと、そんな田んぼが波打つのがキラキラしていた。

 田舎……それが俺の感想。

 バスの振動がまぶたを重くする。

 名古屋から九州へ乗り継ぎでやって来た俺はつい、ウトウトしてしまった。

 ハッとして目を見開くと次のバス停「米神荘前」の表示。

 すぐにボタンを押して、改めて窓の外に目をやった。

「米神荘前」のバス停も小さく見えている。

 でも、「米神荘」って建物らしいものは、さっぱり見当たらなかった。

 バス停の周囲は一面田んぼ……

 ずっとずっと田んぼ……

 どこを見回しても田んぼ……

「米神荘」ってどこなんだろ?

 バスが停まって、

「お客さん、着きましたよ」

「あ、はい、どうも……」

 俺は小銭を出しながら、

「ここ、『米神荘前』……ですよね?」

「ええ」

 運転手さんはニコニコしながら、

「お兄さん、この辺の人じゃないね」

「はい……米神荘に行きたいんですが」

 運転手さんは吹き出した。 

「ぱっと見田んぼしかないからね」

「ええ……米神荘、どこに?」

 途端に運転手さんは真顔になって、

「さぁ?」

「さぁ……って」

「私も運転ばかりで、米神荘がどこにあるかまではね」

「でも、ここって米神荘前ですよね?」

「実は私も前から『どうして』って思ってたんですよ」

「……」

 俺は戸惑いながらもバスを降りた。

「またの御乗車お待ちしております」

 そんなアナウンスを聞きながら、俺は改めてバスの方を見た。

 運転手さんが会釈をして、バスは走り出す。

 俺はバス停の小さな建物の前で、改めて周囲を見回してみる。

「田んぼしかない……よな」

 ポケットに手を入れてスマホを出す。

「調べれば……うっ」

 って、思ったけど圏外だ。

 電話もつながらないし、ネットもダメだからタクシーも呼べやしない。

「どうしよ……」

 そう、画面をなぞって「米神荘」の番号を出してはいた。

 でも、圏外だ。

 これならバスに乗る前に電話をかけていればよかった。

「これ、おぬし」

「!」

「これ、おぬしじゃ、おぬし、少年よ」

「えっと……」

 バス停の建物。

 薄暗い中にはベンチがあって、女の人が一人、座っていた。

「俺ですか?」

「ここにはわらわとおぬししかおらぬ、少年よ」

 最初はバス停の中がちょっと暗くて判らなかったけど、ハタチくらいの女の人が出てきた。

 ちょっと眠たそうな感じで俺を見ながら、

「待っておったぞ……確か名前は……太市であったのう」

「あ、はい……俺の名前を知っている……米神荘の人ですか?」

「うむ、そうじゃ……太市は……太市は……」

 女の人は何かを思い出そうと難しい顔になった。

「俺、米神荘にお世話になる事になった神代太市です」

「おお、そうじゃ、『くましろ』じゃ、『くましろたいち』じゃ!」

「よろしくおねがいします」

「うむ、今どきの若者にしては挨拶できるのう」

「はぁ」

「米神荘はこっちなのじゃ、着いて来るがよい」

 彼女は手をヒラヒラさせながら歩き出した。

 俺はそんな彼女の背中を見ながら、

「あの……」

「なんじゃ?」

「この辺は、田んぼばっかりですね」

「そうなのじゃ、田んぼばかりなのじゃ、めずらしいかの?」

「電話がつながらないから、びっくりしました」

「おお、この辺は電波が弱いかのう」

 さっきから聞いていると、彼女のしゃべり方、ちょっと古めかしい。

 見た感じはハタチくらいなんだけど、時代劇かかっている感じだ。

 聞いていると、なんだかちょっとおばあちゃんっぽい。

 そんな彼女が急に振り向いてコワイ目をして、

「太市、おぬし、高校生であろう」

「はい」

「確か2年であろう」

「はい……詳しいですね」

「おぬしの事はバス停から連れて来るように言われておるでの」

「それで……ですか」

「うむ、おぬしの事は知ってはおるが、一つ聞きたい事があるのじゃ」

「何ですか?」

「高校2年……中途半端な時期に何事かの」

「!!」

 聞かれて俺自身も返事に困った。

 首を傾げながら、

「俺もいきなりで……」

「問題でも起しておったかの?」

「別に……いきなり親から一人暮らししろって言われたけど……」

「ふむ」

「『米神荘』はシェアハウスって事だから一人暮らしなのかなぁ」

「まぁ、親元を離れてって事であろう」

「そう言われると、そうかもしれませんね」

「それに、いきなり一人暮らしでは、乱れるというものであろう」

「……」

「おぬしも高校生、桃色生活にあこがれるであろう」

 この女の人、さっきから言葉使いもなんだけど、中身もなんだか……

 ……おっさん?

 ……おばさん?

 逆らわない方がよさそうだ。

 とりあえず愛想笑いしとこう。

「あはは、そうですね、だからですかね」

「しかしこの米神荘、おぬしの理想かも知れぬ」

「は?」

 どれだけ歩いたか、話していて感じなかった。

 いきなり現れた米神荘。

 見とれていると、その女の人はいつの間にかいなくなっていた。

「あれ……どうしたんだろ?」

 でも、話している感じからここの住人らしい。

 これからも何度も顔を合わせる事になりそうだけど……

 なんとなく、だけど、あんまり関わりあいになりたくないなぁ~思った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ