第二証人「ヴァンパイアハンター・リナ」
「クソ!! 無茶苦茶だよ!!」
僕は瓦礫を退かして悪態を吐く。
今、サムライとヴァンパイアの王が戦っていた。
常軌を逸した戦いだった。
まるで戦争だ。
幾千幾万の殺意のぶつかり合い。
見ていて鳥肌が立った。
動けなかった。
……クソ。
情けないことに、僕は改めて、ヴァンパイアの王との実力差を感じていた。
あまりに次元が違いすぎる。
あんなバケモノにどうやって勝てばいいんだ?
「チッ、あーあ、負けちまった」
「!」
まさか!
この声は!
「調子に乗るんじゃなかったぜ」
瓦礫を吹き飛ばし現れたのは、サムライだった。
服も体もボロボロだが、生きている。
……。
「ん? お前誰?」
サムライと目が合い、僕は硬直した。
◆◆
「イヤ、マジでサンキューな。もう全身ボロボロでよ。ククク、マジでやられたぜ」
包帯だらけのサムライはカラカラと笑う。
現在、僕のアジトだ。
サムライを連れ込んで、応急処置を施した。
「もぐもぐもぐもぐ」
サムライは物凄い勢いで料理を平らげていっている。
同時に酒の飲む量も半端ではない。
既に一週間分の備蓄がなくなっていた。
「君、食い過ぎだろう」
「スマンスマン、この借りは必ず返す。何をしてほしい?」
「ならヴァンパイアを滅ぼしてくれ、一匹残らず、駆逐してくれ」
「嫌だね」
「おい、借りを返すんじゃなかったのかい?」
「俺が殺す相手は俺が決める。だから悪い。他はないか?」
「……なら、ノーランはどうなんだい?」
「いいぜ、殺せばいいんだろう」
「なら、それでいいよ。しかし、殺せるのかい? あんなボロボロにやられたのに」
「殺せるとも、次は多少本気でやるからな」
「多少って……」
頭が痛くなってくる。
僕も、馬鹿な奴を拾ったものだ。
「お嬢ちゃん、名前は? 俺は大和」
「リナだ。ヴァンパイアハンターをしている」
「へぇ、ヴァンパイアハンター」
「細々と活動していたんだが、さっき君が派手にやってくれたおかげで結構な数のヴァンパイアが駆逐できたよ、ありがと」
「どういたしまして」
大和は約三週間分の食料を平らげた後、ゴクゴクとラムを呷る。
コイツ……底なし胃袋の上に酒豪か。
はぁ。
それにしても……
いい男だ。
素直に素晴らしいと思う。
いや、ヴァンパイアで美男美女は見慣れているんだが。
コイツは特別だ。
ヴァンパイアの男はひょろっこいのばかりなんだが、コイツはガッシリとしている。
顔付きも肉食系だ。
それに、なんというか……
女を惹くフェロモンっていうのか? それをバンバン出してる。
正直、頭がクラクラする。
顔が熱い。
「なぁ」
「? な、なんだい?」
「お前、ヴァンパイアをどう思っているんだ?」
「……憎いね。私の両親はヴァンパイアに嬲り殺された。だから、復讐してやるんだ」
「ん、そっか」
「……聞いておいて全く興味ないって感じだね」
「ああ」
「……はぁ」
僕は大きくため息を吐く。
大和はニパっと笑った。
「じゃ、俺は寝るから。明日には出る」
「はいはい」
全く。
何なんだ、コイツは。
◆◆
翌日。
僕は目覚まし時計ではなく、爆発で目を覚ました。
「な、なんだァ!?」
横に置いてあったショットガンを抱え、周囲を確認する。
屋根が吹き飛んでおり、ヴァンパイア共がうようよ沸いていた。
「チィ!」
私はショットガンでヴァンパイア共を灰にしつつ、大和の寝床を目指す。
「おい大和! 大丈夫かい!?」
瞬間、首筋に刃を突き付けらた、かのような殺気に襲われた。
一瞬、本当に突き付けられたかと思った。
冷や汗をかいていると、目の前で大和が一匹のヴァンパイアと対峙していた。
アイツは……
「真祖第三位、テオ」
何故あんな大物がこんなところに……ッ
テオは大和を見て、顔を青ざめさせていた。
……??
「俺の占いは必ず当たる。お前はヴァンパイアを滅す凶星だ。ここで確実に消しておく」
占い? 凶星? 意味がわからない。
大和は大和で、包帯を引きちぎり、伸びをしていた。
「よし、全快。今度は負けないぜ」
「俺はノーランのようにスロースターターじゃない。初めから本気で潰すぞ」
「かまわねぇよ。俺も、テメェ等真祖相手には多少本気になることにした」
大和は刀を二本抜いた。
大太刀と脇差、二本。
構えは特になく、あくまで自然体。
「数カ月ぶりだな。二刀を抜くのは」
大和は嬉しそうにほほ笑む。
テオは眉間に皺を寄せた。
「それがどうした? 刀が一本増えたところで、俺に勝てるとでも?」
「ああ」
「……お前はノーランに敗れている。俺もノーランには及ばないが、それに近い実力を持っている。勝てると思うなよ」
「どうかねぇ、もう勝負は終わってる」
「……は?」
テオの首が跳んでいた。
なんて早業だ。
僕も、おそらくテオも認識できなかった。
しかし、
「ふははは! 速いな! だが無駄無駄! 俺達真祖は首を飛ばされた程度では」
「本当に、死なねぇのか?」
「……!!?」
転がるテオの首が困惑色に染まる。
「何故だ!! 何故回復しない!!?」
「気を送り込んだのさ。お前の体内をぐちゃぐちゃにした。再生能力は発揮されないはずだ」
「そ、そんな馬鹿な!?」
「再生能力が高いバケモノを倒す方法は、細胞の一つ一つに一瞬でダメージを与え消し炭にするか、気や魔力を流し込んで機能を停止させるかの二つだ。これでも効果がなかったらどうしたもんかと悩んだところなんだが……どうやら、効くみてぇだな」
「そんな! そう簡単に真祖の不死性を攻略できる、はずが……ァ」
「地獄で修行しなおしてこい」
灰になって消えていくテオ。
大和は納刀し、俺に振り返ってにっこり笑った。
「終わったぜ」
「……あ、ああ」
一瞬の出来事で、あまり理解できていない。
大和は僕に近づき……ほっぺにキスしてきた。
「!! !!?」
「看病してくれて、ありがとうな」
大和は去っていった。
僕はわけがわからず、そのまま呆けていた。