第一証人「真祖王・ノーラン」
私は些か困惑している。
ヴァンパイアとは、人類の上位種族の筈だ。
驚異的な怪力と再生力、永久を生きる不死性、優れた容姿、多種多様な能力。
どれをとっても、人間に劣る部分はない。
太陽の光を克服できないのは、私達が闇の眷属故。
それを誇りに思わずして、何がヴァンパイアか。
私達は太陽を憎み、嫌悪する。
故に私達は常世の都、夜の帝国を築き上げた。
なのに……
「ククク、確かに人間よりゃスペックは上だな。しかし、技術がなぁ」
獰猛に、静かに笑いながら、私の部下を灰へ変えていくサムライ。
そう、サムライだ。
サムライが突如、奇襲をしかけてきたのだ。
部下達が葬ろうとしたが、逆に葬られている。
これはどういう状況なのだ?
サムライは人間だ。
……ヴァンパイアが、人間に負けている?
そんな馬鹿な。
ありえない。
ありえないぞ。
「……貴様ら、真面目にやっているのか?」
「ハッ、申し訳ございません……ッ」
「謝る前にサムライを殺せ。血の一滴も残すな」
「ハッ」
ヴァンパイア達は飛びかかる。
しかし……
「だから、突撃してくるだけじゃ俺は倒せないぜ」
変幻自在の太刀筋で、ヴァンパイアの首を飛ばしていく。
首と胴が離れたヴァンパイアは、そのまま灰になって消えていく。
……流石のヴァンパイアも、首と胴が離されれば死ぬ。
普通のヴァンパイアであればの話だが。
はぁ……
「貴様ら、下がれ」
「しかし、王のお手を煩わせるなど!」
「いい、下がれ」
「……ハッ」
私は前へと出る。
サムライは口笛を鳴らした。
「お出ましか。真祖王ノーラン殿」
「貴殿は何者だ? 本当に、人間なのか?」
「人間だとも。正真正銘、人間さ」
「何故、私を襲う? ……いや、愚問であったか。人間が私を襲う理由など、考えるまでもない。私が憎いか? 親兄妹を殺されたか? それとも夜の帝国の崩壊が望みか?」
「……ん? 何見当違いなことを言ってんだ。テメェは?」
サムライは首を傾げた。
「俺は強者と闘いてぇだけだ」
「……」
私は目を見開く。
……そのような理由で、私の前に立ったのか。
「……ふは」
初めてだ。
このような馬鹿な人間に出会ったのは。
「まぁ、そのような戯言を吐くだけの強さはある」
「やる気になったかい?」
「無論だ」
私は拳をかまえる。
「名乗ろう。大和だ」
「ノーランだ。ヴァンパイアの誇りにかけて、負けん」
「いいぜ、真剣勝負だ」
互いに睨み合う。
改めて、大和の強さを確認する。
確かに、人間の中では最上級の使い手だろう。
力ではなく技に優れている。
あの太刀を担いでいる、一見隙だらけの構えから繰り出される、縦横無尽の太刀筋。
部下達が苦戦するのも頷ける。
しかし、それだけだ。
「!」
私は初手で左手を突き出す。
大和は辛うじて左手を斬り飛ばした。
「速ぇな」
「そうか、ならこれはどうだ」
私は速度を上げ、右手を突き出す。
大和は認識できなかった。
私はそのまま大和の頭を掴み、投げ飛ばす。
「チィ、まだ上がるのかよ」
「フッ、貴殿はマッハ10に対応できても、マッハ30には対応できないようだな」
上空に上がった大和の元まで跳び、かかと落としで地面へ落す。
大和が着地する前に地面へと急降下し、渾身の右ストレートを溜める。
「フン!!」
直撃。
大和は回転しながら高層ビルに突撃、そのまま突き抜けていく。
五つの高層ビルを突き抜け、崩した後、私は首を傾げた。
パンチをヒットさせたのに五体が四散しなかった。
それに、殴った瞬間に手に伝わった感触。
芯をズラされた。
威力を大幅に削いだな。
「クソ、いてぇ。いてぇぞこの野郎!」
遠くで、大和は鼻血をぶちまけながら立ち上がる。
「おっと、鼻が曲がってやがるな」
ボキ、と嫌な音が鳴る。
大和が折れた鼻を無理やり元に戻したのだ。
「フン!」
鼻血を全て吹き出し、大和は獰猛に歯を剥く。
……おかしい。
今の一撃は山河を砕く一撃だった筈だ。
現に、高層ビルを五つも貫き、崩壊させた。
とても人間が耐えられるものではない。
いやそもそも、ヴァンパイアですら耐えられないだろう。
跳躍してきた大和に、私は問いかける。
「……貴様、本当に人間なのか?」
「ああ人間だとも。しかし剣術を極めすぎたせいで、人間をやめかけてはいるがな」
大和は構えをとる。
正眼だ。
「テメェには、構えないと危なそうだ」
「……手加減は無用。全力でこなければ、死ぬぞ」
「殺してみやがれ、ククク」
いいだろう、少し本気を出す。
「ハハ!! ハーッハッハッハ!!!!」
哄笑を上げて、斬りかかってくる大和。
全てが一撃必殺だ。
私も防御に徹していたが、容易に首を飛ばされる。
しかし、残念だ。
真祖は、首を飛ばされた程度じゃ死なない。
「ハァァァァァァァ!!」
私は大和に連撃を加える。
本当に残念だよ、大和。
貴殿は今まで戦った人間の中で一番強い。
技術だけで言えば、ヴァンパイアを含めても一番だ。
しかし、それだけなのだよ。
百戦錬磨の蟻が、子象に勝てないように。
カスタムされたスポーツカーが、ロケットに敵わないように。
貴殿と私では、火力が圧倒的に違いすぎる。
芯をズラしていても、いずれ限界を迎える。
私はズタボロになった大和にボディーブローをくらわす。
大和は大量に吐血し、膝をついた。
「終わりだ」
私は渾身の蹴りを見舞う。
大和は高層ビルに突っ込み、瓦礫の中へ消えていった。
……最後まで芯をズラしたか。
だが、あの瓦礫の海に飲まれたのだ。
さすがに生きてはいられないだろう。
規格外に強かったが、所詮人間。
「……愉しかったよ、大和。久々に、闘争の快楽を思い出した」
私はマントを翻し、自身の寝床へ帰っていった。