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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第二章・ヴァンパイア編》
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第一証人「真祖王・ノーラン」

 私は些か困惑している。

 ヴァンパイアとは、人類の上位種族の筈だ。

 驚異的な怪力と再生力、永久を生きる不死性、優れた容姿、多種多様な能力。

 どれをとっても、人間に劣る部分はない。

 太陽の光を克服できないのは、私達が闇の眷属故。

 それを誇りに思わずして、何がヴァンパイアか。

 私達は太陽を憎み、嫌悪する。

 故に私達は常世の都、夜の帝国を築き上げた。

 なのに……


「ククク、確かに人間よりゃスペックは上だな。しかし、技術がなぁ」


 獰猛に、静かに笑いながら、私の部下を灰へ変えていくサムライ。

 そう、サムライだ。

 サムライが突如、奇襲をしかけてきたのだ。

 部下達が葬ろうとしたが、逆に葬られている。

 これはどういう状況なのだ?

 サムライは人間だ。

 ……ヴァンパイアが、人間に負けている?

 そんな馬鹿な。

 ありえない。

 ありえないぞ。


「……貴様ら、真面目にやっているのか?」

「ハッ、申し訳ございません……ッ」

「謝る前にサムライを殺せ。血の一滴も残すな」

「ハッ」


 ヴァンパイア達は飛びかかる。

 しかし……


「だから、突撃してくるだけじゃ俺は倒せないぜ」


 変幻自在の太刀筋で、ヴァンパイアの首を飛ばしていく。

 首と胴が離れたヴァンパイアは、そのまま灰になって消えていく。

 ……流石のヴァンパイアも、首と胴が離されれば死ぬ。

 普通のヴァンパイアであればの話だが。

 はぁ……


「貴様ら、下がれ」

「しかし、王のお手を煩わせるなど!」

「いい、下がれ」

「……ハッ」


 私は前へと出る。

 サムライは口笛を鳴らした。


「お出ましか。真祖王ノーラン殿」

「貴殿は何者だ? 本当に、人間なのか?」

「人間だとも。正真正銘、人間さ」

「何故、私を襲う? ……いや、愚問であったか。人間が私を襲う理由など、考えるまでもない。私が憎いか? 親兄妹を殺されたか? それとも夜の帝国の崩壊が望みか?」

「……ん? 何見当違いなことを言ってんだ。テメェは?」


 サムライは首を傾げた。



「俺は強者と闘いてぇだけだ」



「……」


 私は目を見開く。

 ……そのような理由で、私の前に立ったのか。


「……ふは」

 

 初めてだ。

 このような馬鹿な人間に出会ったのは。


「まぁ、そのような戯言を吐くだけの強さはある」

「やる気になったかい?」

「無論だ」


 私は拳をかまえる。


「名乗ろう。大和だ」

「ノーランだ。ヴァンパイアの誇りにかけて、負けん」

「いいぜ、真剣勝負だ」


 互いに睨み合う。

 改めて、大和の強さを確認する。

 確かに、人間の中では最上級の使い手だろう。

 力ではなく技に優れている。

 あの太刀を担いでいる、一見隙だらけの構えから繰り出される、縦横無尽の太刀筋。

 部下達が苦戦するのも頷ける。

 しかし、それだけだ。


「!」


 私は初手で左手を突き出す。

 大和は辛うじて左手を斬り飛ばした。


「速ぇな」

「そうか、ならこれはどうだ」


 私は速度を上げ、右手を突き出す。

 大和は認識できなかった。

 私はそのまま大和の頭を掴み、投げ飛ばす。


「チィ、まだ上がるのかよ」

「フッ、貴殿はマッハ10に対応できても、マッハ30には対応できないようだな」


 上空に上がった大和の元まで跳び、かかと落としで地面へ落す。

 大和が着地する前に地面へと急降下し、渾身の右ストレートを溜める。


「フン!!」


 直撃。

 大和は回転しながら高層ビルに突撃、そのまま突き抜けていく。

 五つの高層ビルを突き抜け、崩した後、私は首を傾げた。

 パンチをヒットさせたのに五体が四散しなかった。

 それに、殴った瞬間に手に伝わった感触。

 芯をズラされた。

 威力を大幅に削いだな。


「クソ、いてぇ。いてぇぞこの野郎!」


 遠くで、大和は鼻血をぶちまけながら立ち上がる。


「おっと、鼻が曲がってやがるな」


 ボキ、と嫌な音が鳴る。

 大和が折れた鼻を無理やり元に戻したのだ。


「フン!」


 鼻血を全て吹き出し、大和は獰猛に歯を剥く。

 ……おかしい。

 今の一撃は山河を砕く一撃だった筈だ。

 現に、高層ビルを五つも貫き、崩壊させた。

 とても人間が耐えられるものではない。

 いやそもそも、ヴァンパイアですら耐えられないだろう。

 跳躍してきた大和に、私は問いかける。


「……貴様、本当に人間なのか?」

「ああ人間だとも。しかし剣術を極めすぎたせいで、人間をやめかけてはいるがな」


 大和は構えをとる。

 正眼だ。


「テメェには、構えないと危なそうだ」

「……手加減は無用。全力でこなければ、死ぬぞ」

「殺してみやがれ、ククク」


 いいだろう、少し本気を出す。


「ハハ!! ハーッハッハッハ!!!!」


 哄笑を上げて、斬りかかってくる大和。

 全てが一撃必殺だ。

 私も防御に徹していたが、容易に首を飛ばされる。

 しかし、残念だ。

 真祖は、首を飛ばされた程度じゃ死なない。


「ハァァァァァァァ!!」


 私は大和に連撃を加える。

 本当に残念だよ、大和。

 貴殿は今まで戦った人間の中で一番強い。

 技術だけで言えば、ヴァンパイアを含めても一番だ。

 しかし、それだけなのだよ。

 百戦錬磨の蟻が、子象に勝てないように。

 カスタムされたスポーツカーが、ロケットに敵わないように。

 貴殿と私では、火力が圧倒的に違いすぎる。

 芯をズラしていても、いずれ限界を迎える。

 私はズタボロになった大和にボディーブローをくらわす。

 大和は大量に吐血し、膝をついた。


「終わりだ」


 私は渾身の蹴りを見舞う。

 大和は高層ビルに突っ込み、瓦礫の中へ消えていった。

 ……最後まで芯をズラしたか。

 だが、あの瓦礫の海に飲まれたのだ。

 さすがに生きてはいられないだろう。

 規格外に強かったが、所詮人間。


「……愉しかったよ、大和。久々に、闘争の快楽を思い出した」


 私はマントを翻し、自身の寝床へ帰っていった。


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