第四証人「服部家・服部善蔵」 ※主人公の挿絵あり
儂は久方ぶりに忍装束に身を包んでいた。
今からサムライの首をとる。
服部、風魔、伊賀、甲賀、四大忍衆はサムライによって壊滅的なダメージを負った。
上忍はほぼ殺され、中忍も半減。
下忍は残っておるが、それはサムライに向かわせても結果が見えているから、向かわせなかっただけじゃ。
くノ一の色仕掛けも試してみたが、皆骨抜きにされて帰ってきおる。
情けない。
……全く、歯が立たん。
剣客も殆ど殺されてしもうた。
「……儂が、引導を渡すしかないのぅ」
孫の仇も、とらせてもらう。
京也……
あ奴は天才じゃった。
あと数年すれば、儂を追い越していたじゃろう。
サムライさえ現れなければ……
忍の世界は無情。
わかっておる。
しかしじゃな……
愛しい孫を失って、悲しまない爺がどこにおる。
悲しまないというのなら、そんなもの、人間ではない。
ただのバケモノじゃ。
儂はバケモノにはなりとうない。
「サムライ、覚悟してもらおう」
武装を整え、儂は屋敷を出た。
◆◆
「ほぉ、こいつは重畳。やっとまともな奴が出てきやがったな」
サムライは心底嬉しそうに破顔した。
「……ッ」
相対した瞬間、亡者の大軍が押し寄せてくるような錯覚を覚えた。
その奥に鎮座しているのは、鬼。
黒き鬼じゃ。
……人間は。
人間は、ここまで至れるものなのか?
その領域に、足を踏み入れることができるのか?
「一つ聞きたい」
「何だ?」
「お主は、人間か?」
「人間だぜ。一応な」
「……」
「俺の名は大和、アンタは?」
「服部、善蔵」
「善蔵か、良い名前だ。覚えたぜ。じゃ、斬り合うか? やっと出会えた上物だ。楽しませてもらうぜ」
サムライ……大和は刀を抜く。
構えは、無し。
刀を担いでいる。
……無防備すぎる。
隙だらけじゃ。
しかし、わかる。
長年培ってきた経験が告げておる。
あれはわざと隙を作っておるんじゃ。
無闇に攻めるのは危険じゃ。
儂と大和が正面から斬り合えば、おそらく大和が勝つ。
儂は儂らしらを全面に押し出さなければならない。
でないと、勝てん。
懐から煙玉を取り出し、投げる。
煙幕が視界を覆う。
「ククク、忍者らしいな」
煙幕の中で十二体の分身を作り、突撃させる。
まずは牽制じゃ。
「視界が遮られているのに、よく動きやがる。見えているのか? 服部善蔵」
ああ、そうとも。
儂には見えているよ、お主のことが、はっきりとな。
逆にお主は何も見えんじゃろう。
ただの剣客だったらこれで終いじゃ。
じゃが、お主は違うんじゃろう?
「まぁ、目にばっかり頼ってたらいけねぇわな」
大和は分身を両断していく。
見えていないはずだ。
第六感?
いいや違う、もっと確実な方法だ。
「……戦闘経験の差、か?」
「正解」
風の流れを読む力、相手の攻撃を予測する力。
力の配分、足捌きの方向。
戦場で培うことができる、経験。
経験は戦士にとって力以上に大切なものじゃ。
現に儂は力こそ衰えておるが、経験でそれら全てをカバーしておる。
だからこそか。
経験で勝っている相手には、絶対に勝てない。
まさかとは思ったが……
この境地まで来て、経験負けしてしまうとは。
相手は正真正銘のバケモノじゃった。
最後の分身を斬り裂かれ、煙幕を断たれる。
儂はもう一度分身の術を発動し、特攻した。
経験で負けている場合、どうすればいいか。
力押ししかない。
物量で圧倒するしかない。
長引かせることはできない。
儂にそこまでの体力は残っていない。
なら、今できる全ての力を使って、こ奴を仕留めにかかる。
チャンスは一回じゃ。
「カァァァァァァァァァ!!!!!!」
「クッ、ハハハハ! そうだ。もっとこい。もっとだッ」
口の端を歪ませながら、大和は儂の攻撃をいなしていく。
拮抗した状態が続いておったが、儂のほうが徐々におしてきた。
「いいねいいねぇ、ゾクゾクしてきた♪」
大和は構えをとった。
正眼だ。
「この世界で構えをとらせたのは、テメェが初めてだ。誇っていいぜ」
瞬間、他の分身逹を一瞬で斬り伏せられた。
同時に儂の両腕が飛ばされる。
儂は地面に伏した。
「クッ……まさか、ここまで差があるとは」
「お前が全盛期なら、もっといい戦いができた筈だ。惜しいなぁ。時期を間違えた」
「……お主、歳は幾つじゃ?」
「途中で数えんのやめた。少なくとも、テメェよりは歳上だよ」
喉をならし、儂の喉元に刃を突き付ける。
「遺言は?」
「……ない。じゃが」
「?」
「お主は、楽しそうじゃのぅ」
「……ああ、凄く楽しかったぜ。おかげさまでな」
「……人を殺すのは、楽しいか?」
「テメェは勘違いをしている。人を殺すのが楽しいんじゃねぇ、強者を殺すのが楽しいんだよ」
「……そうか。お主は、悪鬼羅刹じゃったか」
「じゃあな」
「ああ……しかし、お主も道連れじゃ!」
儂は腹に敷き詰めていた起爆札を点火する。
同時に周囲に張り巡らせておいた起爆札も姿を現す。
「何時の間に」
「煙幕を張っておる時じゃよ。お主に勝てないことは、初対面でわかった」
さらばじゃ、鬼よ。
地獄でまた会おう!!
◆◆
「あークソ、一張羅がボロボロだぜ」
俺は瓦礫を斬り裂き、出てくる。
「……残念だったな。服部善蔵。俺は、爆発くらいじゃ死ねねぇんだよ」
形のなくなった強敵に笑いかける。
俺は納刀して、空を仰ぐ。
夜空だった。
しかし、
「曇ってるな。空気が汚いからか? 星が見えないのは残念だ。こんなに晴れやかな気持ちなのによ」
溜め息を吐いて、腕を組む。
「この世界じゃ、もうすることがなくなっちまったな。服部善蔵より強い奴はいなさそうだ。ま、平和ボケした世界にしちゃ、ある程度楽しませてもらった。感謝してるぜ」
俺は指を咥え、口笛を吹く。
すると、次元を斬り裂き現れた。
巨大な黒金の塊。
俺の愛車、800㏄魔導カスタムハーレー「スカサハ」
核に魔導プログラムを搭載した俺専用のバイク。
並の人間じゃ到底扱えねぇじゃじゃ馬姫だ。
姫と言ったのは、コイツが雌だからだ。
『参上しました、マスター』
「次の異世界へ行く」
『了解しました』
俺は車体へ跨る。
一トン以上の重量を誇るが、俺にかかればちょちょいのちょいよ。
「さぁて、次の世界はどんな世界だ? バケモノが跋扈している世界か? 戦乱のまっただ中な世界か? どっちでもいい。どっちでもいいから、俺を楽しませろ。強者と闘わせろ! ハハハハ!!」
笑いながら発進させる。
後ろからパトカーのサイレンが聞こえてきたが、無視する。
俺は新たな世界へ、胸躍らせながら向かった。
『第一章・完』
《キャラ紹介》
・大和
主人公。超が何個も付く戦闘狂であり、強者との闘争を生き甲斐とする。強者であれば正義であろうが悪であろうが襲いかかる。根っからの悪人というわけではないが、戦闘の際は周囲の被害を一切気にせず、戦意を向けてきたものは女子供、老人であろうが容赦なく殺す。愛車は800CC魔導カスタムハーレー「スカアハ」。
挿絵↓