第一部「最終話」
俺は兄貴の帰りを待っていた。
超越者同士の戦い、凄かった。
まさか本気の兄貴があそこまで強いなんて……
くぅぅ~♪
よっしゃぁ!!
兄貴のために、もっと頑張らねぇと!!
修行したいところだが、まずは帰ってくる兄貴を出迎えねぇと!
あれだけ凄い戦いをした後だ! 疲れてるに決まってる!
マッサージとかしてやらねぇとな!
「犬、お主はどっかに行ってよいぞ。妾が出迎える」
「うっせババァ、テメェこそどっか行け」
「あ?」
「んん?」
睨み合っていると、次元の狭間が開く。
俺達はすぐに笑顔を作って出迎えた。
「兄貴~! お帰り~!」
「大和様、お疲れさまですじゃ」
俺は抱きつこうとするが、出てきたのは兄貴じゃなかった。
さっきまで兄貴と戦っていた魔導師、グランドソウルだった。
「なんでテメェが……」
「大和から手紙を預かった。貴殿宛てだ」
「??」
何で手紙なんて?
とりあえず、中身を見る。
爪牙へ。
お前には教えることを全て教えた。
お前が俺から学ぶことは何もない。
だからこれからは俺に頼らず、一人で強くなっていけ。
なぁに、また何時か会える。
そん時には、俺が背中を預けられるくらい強くなっておけよ。
じゃあな。
大和より。
「そ、そんな……っ」
俺はその場でへたり込んだ。
「大和は一人旅に出たよ」
「……っ」
うううっ……
「兄貴ぃ……」
何でだよ、兄貴。
俺、邪魔だったのか?
「ざまぁないのぅ♪」
クソババァがほくそ笑んでいる。
殺してやりてぇ……
でも、今はそれどころじゃねぇ。
俺は溢れそうだった涙を拭って、顔を上げる。
「兄貴を探しに行く!!」
俺は屋敷を出ていく。
「金太郎! 行くぞ!!」
「うん!」
外で待機させておいた金太郎を呼び、頭に乗せる。
「くぉぉぉらぁぁぁぁぁぁぁ!! 金太郎は置いていけクソジャリィィィィ!!!!」
「へっ! ばーか!!」
あっかんべーして、走り去る。
「……待ってろよ兄貴! 絶対追いついてやるからな!!」
◆◆
むぅ、金太郎を連れて行きおったか。
……まぁ、金太郎もそろそろ外界で修行するべきじゃろうて。
犬に任せるのは心配じゃが、信じるしかないのぅ。
それよりも。
妾は安心しておる。
何故か? 大和様はおのずと妾の元にやってくる。
力を制御する封印を解けば、妾が封印せねばならないからな。
つまり、魔獣界で待っているだけで、自然と大和様は帰って来る!
しかも、封印を解除した数に応じて……くふふー♪
「ふははははははは!! 妾こそ勝ち組!! 勝者!! 妾以上に大和様にふさわしい女などおらん!!」
妾は高笑いした。
「ああ、あと、貴殿宛ての手紙も授かっているぞ」
「む?」
差し出された手紙を受け取る?
何じゃ? 愛の囁きかのぅ?
万葉へ。
グランに高性能の封印を施してもらった。
おかげで封印を自在に操作できるようなった。
だからお前の力は必要ない。
暫らくは魔獣界に戻らないから。
達者でな。
大和より。
「………………」
……。
……。
……。
「なんじゃとーッッ!!!?」
妾は絶叫した。
「うむ、まぁ、大和の封印は我が施した。それだけだ」
「このバナナ野郎!! なんてことをしてくれたんじゃ!!」
「そんなことを言われてもだな……」
大和さまーっ!!
そんなの無しじゃー!!
うわーんっ!!!
◆◆
ふぅ。
逃げることに成功した。
爪牙と一緒に旅を続けても良かったんだが、アイツは俺に依存している。
適度に距離を取らなきゃな。
というのは建前で、やっぱり旅は一人のほうがいい。
自由に戦える。
だから悪ぃな、爪牙。
また縁があれば、一緒に旅をしよう。
万葉は、まぁ、アレだ。
正直、子供は生みたくないし。
愛も重いっていうか。
……な?
『マスター、もうそろそろ、目的の異世界へ到着します』
「おう」
次元の狭間を走行していたら、相棒の魔導カスタムハーレーが告げてくれる。
……さぁて、気を取り直して。
「今度の世界には、俺を楽しませてくれる強者はいるのかねぇ」
俺は鼻歌を交えながら、次元の狭間を走り去った。
《完》