第四証人「白羅刹・秋水2」
「さぁ、第二ラウンドのはじまりだ」
私は魔眼を更に集中させる。
大和様の身に纏う気。
最早極限まで練磨されている。
私が弟子の頃とは比べものにならない。
あの時はまだ合気も未完成だった。
先ほど手合わせをして、合気は既に完成しているとわかった。
そして、気までも……
大和様。
あなたは、成長し続けているんですね。
「ふぅ……」
私も、成長したんですよ。
サムライマスター、ヤマトの教えを、守ってきたんですよ。
弱き者を守るために剣を振るえ、悪を倒すために剣を振るえ。
正義に順じろ。
故に、悪であるあなたを斬る。
それが私にできる、唯一の孝行だから。
「お前も新参者とはいえ、曲りなりにも超越者だ。俺が多少本気になっても、ついてこれるだろう?」
大和様は気を練る。
「奥義、風林火山」
第一に、大和様の身体が気に覆われる。
第二に、大和様を中心に私を包み込むように気のドームが形成される。
第三に、大和様のオーラが何百倍も跳ね上がる。
第四に、大和様の身体の硬度が埒外なほど増した。
なんだ、あれは……
強化、なんてものではない。
ただでさえ強かった大和様の力が、異次元のレベルに達している。
これは……ッ
「風林火山陰雷、その内の四つを同時発動させた。この状態だと手加減できねぇから、気張れよ」
大和様が消える。
駄目だ! 速すぎる! 私の魔眼で追えない!
……いいや、大和様が強化されただけではない。
私の身体能力も落ちているのか!
この気のドーム。
どうやら私の力を吸収し、大和様に譲渡しているらしい。
このドームの中にいては絶対勝てない。
このドームは、大和様の領域だ。
「逃がさないぜ」
大和様の剣が迫る。
咄嗟にガードしたが、重い、なんてものではない。
何だ、この一撃は……ッ
ただでさえ強化されている大和様の力が、数百倍に跳ね上がったのだ。
当たり前といえば当たり前か。
私は抜刀術で斬り結ぶ。
しかし大和様は避ける素振りも、合気でベクトル操作する素振りも見せなかった。
ガキン、と硬質な音が鳴る。
そんな、馬鹿な。
私の刃が、大和様の身体に弾かれた。
硬度が埒外に増したのはわかっていた。
しかし、ここまでとは……
「フフフ、そうか、大和。貴殿は気の扱いを極めたのだな。これでは、秋水には荷が重いか」
グランドソウルは魔性の微笑みを漏らす。
彼のサポート魔導が切れたわけではない。
いいや、切れていたら、私はとっくのとうに首を跳ばされていた。
自力が違いすぎる。
技術ですら勝てない私が、地力で勝られたら勝てる筈がない。
「グランドソウル、力を貸してください」
「構わないよ」
グランドソウルは拘束魔術で大和様を拘束する。
私はその隙に、縮地で大和様に近づいた
今の大和様に生半可な斬撃は効かない。
であれば、最大最強の一撃を放つしかない。
首筋へ無量大数、渾身の斬撃を叩き込む。
一か所に重なった斬撃は無敵の刃となり、大和様の首筋を斬り裂く。
「おお!」
大和様は驚きながらも、拘束魔術を力づく外した。
「むっ、凄い力だ。我の魔力でも抑えられないか」
「ククク、そうら秋水。お返しだ」
大和様の出血はいつの間にか止まっていた。
気の活性化があまりにも強すぎて、回復力も桁違いになっているのか。
来る、攻撃が。
避ける? いいや、スピード負けしているから、避けられない。
鞘でガードの態勢に入る。
「大車輪」
先ほどの技、旋風巻きと同じ要領で身体を捻じり、突撃してくる。
遠心力のたっぷり乗った斬撃の嵐に見舞われた。
なんという、威力。
私は遥か彼方へと吹き飛ばされる。
すぐに立ち上がるが、目の前に大和様がいた。
「修行が足りねぇ。戦闘経験も足りねぇ。つまらん……死ね、秋水」
そのまま、逆袈裟に斬り裂かれた。
「……っ」
落ちていく私を、大和様は冷たい瞳で見下ろしていた。
◆◆
私は虚ろな意識のまま、三千世界に揺蕩っていた。
私は、負けたのだろうか。
首を傾ければ、大和様とグランドソウルが熾烈な争いを繰り広げていた。
「ハハハハ!!」
「フフフ!」
グランドソウルが放つ魔導呪術のミックス波動を、大和様は掻い潜る。
そして、大和様の刀とグランドソウルの蹴りが交差した時、三千世界が震撼した。
「大和、様……」
私は手を伸ばす。
数秒後に私は死ぬ。
輪廻転生の輪に組み込まれてしまう。
あそこから脱出するには相当時間がかかる。
だから……っ
「ハーッハッハッハ!!!!」
アア……
あなたを止めることができない。
不甲斐ない。
自分の無力さに腹が立つ。
でも、何回でも挑みます。
あなたを必ず止めてみせます。
私の決意は、揺らぎません。
鬼の高笑いが木霊する。
私の意識はそこで途絶えた。