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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
第九章《超越者VS超越者2》
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第三証人「白羅刹・秋水」

 私は生まれながらに忌み子として迫害されていた。

 赤い瞳、死人のような白い肌と髪。

 世間一般でいうアルビノだが、私の村では周知されていなかった。

 何時も、独りぼっちだった。


「どうした? そんな死人みてぇな面しやがって」


 紅葉の森で隠れていた私を見下ろしていたのは、褐色肌のサムライだった。

 彼は私を見て、苦笑していた。


「腹は空いてるか?」

「……」


 私はコクリと頷いた。

 サムライは懐からおむすびを取り出した。


「食え」

「っ」


 涎が出る。

 数日ぶり、いいや、数週間ぶりのまともな食料が、目の前にあった。

 しかし私は、手を出さなかった。

 毒が入っているかもしれない。

 警戒していた。


 今まで、食料を渡されたことなんてなかった。

 自給自足か、盗むか、どちらかだった。


「警戒してるのか? おら、俺も食べてる。毒は入ってねぇぞ」


 一口頬張って、差し出すサムライ。

 私はそれを取って、隠れて食べた。

 サムライはまた苦笑した。


「お前、名は?」

「……ない」

「そりゃ不便だ。なら、そうだな……」


 サムライは周囲を見渡す。


「秋水」

「?」

「お前の名だ」

「しゅう、すい?」


 サムライは踵を返す。


「ついてきな。生きる術くらいは教えてやる」

「……」


 私は暫く悩んだが、サムライの背中がどんどん遠ざかっていくのを見て、追いかけた。

 彼なら、今の状況を変えてくれるかもしれない。

 そう思ったから。



 ◆◆



「大和様!」

「どうした、秋水」

「水を持ってまいりました!」

「ありがとう」


 頭を撫でられる。

 気持ち良くて、私は瞳を細めた。


 あれから私はサムライ、大和様の従者として、傍に仕えていた。

 大和様はサムライマスターと呼ばれる伝説の剣豪で、世界を救う旅をしている最中だった。

 私はその途中で拾われたのだ。


 大和様の日課の鍛錬を邪魔しないよう、私は何時も離れて彼を観察していた。

 大和様は優しい。

 最初は警戒していた私を、嫌な顔一つせずに可愛がってくれた。

 今では依存しきっている私を、大和様は変わらず愛でてくれる。


 私は何時しか、大和様と同じく剣士になりたいと思い始めていた。

 大和様のように、困っている人々を救いたい。

 守ってあげたい。

 かつて自分が大和様に助けてもらったように。

 今度は自分が、無辜な民達を守りたいと。


 大和様に話すと、複雑な表情をなさった。


「お前のその純粋な心を俺は尊重したい。剣術、教えよう」


 私は嬉しさのあまり大和様に抱きついた。



 ◆◆



 私にはどうやら天賦の才能があったらしく、ほんの数年しない内に、大和様から免許皆伝をいただいた。


「俺が教えることは何もない。……いいか? 秋水。弱き者達のために剣を振るえ。悪を倒すために剣を振るえ」

「承知しております」

「ならいい」


 それから数十年、大和様の御供をしながら剣の腕を磨いていると、世界がざわめきはじめた。

 世界を滅ぼす存在、邪神が、活発に活動しはじめたのだ。

 私と大和様は世界を転々としながら、邪神討伐に専念していた。


 その頃からだろうか。

 大和様が夜中、酒を飲みながら、一人で悩んでいる様子を見るようになった。

 私が声をかけても、心配するなの一言で終わる。

 私はその一言を聞いて安心してしまい、深くは聞かなかった。


 大和様を慕う者達が集い始めた。

 大和様は皆可愛がっていた。


 邪神討伐の旅は続いていた。

 邪神は三千世界に生きとし生ける全ての生物の負の感情。

 三千世界から生物がいなくならない限り、邪神が消えることはない。

 幾ら討伐してもキリがない。


 私達は大本である邪神王を封印することを決意した。

 しかし、私達は剣士。

 封印する術を持たない。


 大和様は、超越者と呼ばれる埒外の強さを持った人間。

 その一角であるグランドソウルの元へ赴いた。


 グランドソウル。

 古今東西あらゆる魔導を極めた魔人。


 大和様はグランドソウルと二人きりで話し、戻ってきた。

 交渉は成功し、封印を手伝ってくれるのだそうだ。


 喜んでいるのもつかの間。

 今度は他の超越者が大和様に襲い掛かってきた。


 リナ。

 ジョニー。


 この二名を、大和様は同時に相手した。

 周囲の被害など全く気にしない二人に、終始押されていた。


 最終的に大和様は負けてしまい、殺されかけたところを私と仲間たちが決死の覚悟で突撃。

 なんとか大和様を救出し、逃げることに成功した。


 いいや、見逃してもらったのだろう。


 しかし、そんなことはどうでもいい。


 私の心にモヤモヤを残したのは、飛龍とジョニーと戦っている最中、大和様は笑っていたのだ。

 まるで子供のような、無邪気な笑みだった。


 寒気を覚えた。


 殺されかけていたというのに、何故笑っていたのだろうか?

 私は問おうとしたが、怖くて聞けなかった。



 ◆◆



 グランドソウルの手助けのおかげで邪神王を封印した後。

 つかの間の平和が訪れると思っていた。


 だが、私の目の前は鮮血で染め上げられていた。

 仲間達が無残な姿に変わり果てていた。

 大和様は、二刀を手に持って、笑っていた。


「駄目だ。もう限界だ」


 大和様は呆然とする私の首を飛ばそうと刃を奔らせたが、寸前のところで止まった。


「秋水。俺のことは忘れろ。……もう二度と、俺の前に姿を現すな」


 それだけ言い残して、大和様は去っていった。


 私はその後、数カ月間、空っぽの状態になった。


 何がなんだか全くわからなかった。

 何故大和様が他の仲間達を殺したのか。

 何故、私の元から去って行ってしまったのか。


 全くわからなかった。


 その後、サムライマスター・ヤマトは行方不明になり、かわりに超越者が一人増えた。

 大和。

 誰だか、すぐにわかった。


 私は必死に考えた。

 何故、大和様が豹変してしまったのか。

 考えても考えてもわからず、苦悩していた時、グランドソウルが突如私の前に現れた。


「大和は邪神を封印する最中に、強者と戦う狂気に囚われてしまったのだよ。誰かを救う結果よりも、その過程で強者を殺すことが楽しくなってしまったのだ」


 アア。

 アアア……


 私のせいだ。

 大和様は苦悩していた。

 サインは出ていた。

 見逃していた。

 大和様なら大丈夫だと安心していた、私の責任だ。


 それから私は、旅に出た。

 大和様を止めるために。


 だが被害は増すばかり。


 被害にあった世界を回っていくうちに、私は大和様が既に手遅れなところまで来ていることを悟った。

 だから、せめて、私の手で斬ってあげようと。

 それが弟子である私の責務だ。


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