第二証人「黒鬼・大和2」
さぁて、愉しもうじゃねぇか。
弟子が最高のステージをセッティングしてくれたんだ。
これに応えなきゃ、師匠失格だ。
鍔鳴りの音が響く。
俺は咄嗟に首を逸らして、飛んでくる斬撃を回避した。
秋水の剣術は抜刀。
鍔鳴りの音が鳴った時にはもう斬り終わっている。
超越者随一のスピードと攻撃力を誇る、白羅刹。
極大の焔が俺を包み込む。
俺は身体を捻じって、その回転力を斬撃に変換し、解放した。
「旋風巻き」
焔の波を吹き飛ばす。
全く、三千世界に結界を張っていなかったら、相当数の大千世界が燃え尽きていたぞ。
グラン、金獅子。
恐らくこれはただの炎魔術。
小手調べだ。
ククク。
本当に愉しみだなぁ。
これからの死闘を想像し、俺の口元は自然と半月に歪む。
「……」
秋水は無言で鍔を鳴らす。
コイツが一度の抜刀で放てる斬撃は優に無量大数を超える。
ほら、来た。
切創の嵐が。
俺はその全てを丁寧に合気で受け流す。
そして、突撃した。
秋水は迎撃の構えをとる。
コイツの抜刀術は近中遠距離に対応できる、剣術と呼べるかわからない万能戦闘術だ。
俺はというと、遠距離技は限られているので、近づくしかない。
近距離は俺の土俵だ。
チンチンチンとリズムよく音が鳴れば、四方八方から斬撃が襲いかかって来る。
無駄無駄。
俺に剣術に挑むのは自殺行為だ。
俺は三千世界全ての剣術を極めた剣豪だぜ。
そして、テメェに剣術を教えたのは誰だ?
テメェの太刀筋は手に取るようにわかるんだよ。
「っ」
秋水が思わず距離を取る。
俺は緩急の入ったステップ「縮地」で距離を詰める。
しかし、秋水も縮地を使って距離を詰めさせない。
抜刀術は足捌きが命。
秋水の縮地は独自にアレンジが加えられていて、俺の縮地に勝るとも劣らない性能を誇っていた。
技の質で互角であれば、あとは基本性能がモノを言う。
秋水の速度は俺より速いので、必然的に距離をとられてしまった。
面倒くせぇ。
そう思っていると、秋水の真紅の瞳が輝きを帯びる。
魔眼だ。
相手の癖、技能、呼吸のリズム、その他全てを読み取る。
秋水は昔から目が良かったからな。
そして、殺気を飛ばしてくる。
殺気を用いたフェイント。
俺は「魔風」と名付けている。
弱者なら、それだけでダメージを与えられる。
俺達は剣を交差させる。
打ち合いの始まりだ。
俺は技術全般で秋水に勝っているが、コイツはスピードと魔眼で何とか食らいついてくる。
追い詰めようと思っても逃げられるし、技術で勝ってもあの目でカバーされる。
全く、我が弟子ながら中々やる。
俺と本気で剣を打ち合える剣士なんざ、おそらく三千世界で五人もいない。
いいぜぇ。
それでこそだ。
斬り甲斐がある。
「五分五分と言ったところか。超越者の中では新参者でありながら、流石は大和の弟子。育て方が違うということか」
グランは秋水の背後で揺蕩いながら傍観していた。
こんにゃろ、何余裕かましてやがる。
テメェも来い。
そしたらもっと面白くなるじゃねぇか。
「そんな顔をするな、大和。楽しませてやる」
グランは指をくるくると回す。
すると、秋水の身体を摩訶不思議なオーラが包み込んだ。
「補助系の魔導呪術のオンパレードだ。ステータスが爆発的に上がった筈だが?」
「助かります」
あーそういう戦い方する?
別にいいよ。
最初はそれで。
後で絶対引きずり出す。
「っと、余計な思考を巡らせていたらやられるか」
秋水のステータスが大幅に上昇した。
拮抗した打ち合いが崩れる。
合気や剣術だけでは対抗しきれない。
これは、使うしかないな。
風林火山陰雷を。
「疾きこと風の如く」
気を身体に纏う。
身体能力が五感機能が上昇する。
ようはステータスアップだな。
これで、元の拮抗した状態に戻った。
秋水はここに来て、また表情を出す。
「気ですか。遂に技にまで昇華したんですね」
「最近開発したんだよ」
「そうですか……」
秋水は再び構えをとる。
「手遅れになる前に確実に封印します」
「やれるもんならやってみな」
さぁ、第二ラウンドだ。