第一証人「黒鬼・大和」
俺は三千世界に佇みながら、一度、大きく溜め息を吐いた。
秋水は俺の最初の弟子。
俺の過去そのものであり、関わりたくない存在だ。
できれば会いたくなかったんだが……
あっちは俺を斬るつもりだ。
なら、斬るしかないだろう。
俺が溜め息を吐いている原因は、別にある。
この師弟対決を楽しんでいるクソ野郎がいるんだ。
三千世界に結界を張って、ステージを作ってくれやがった。
超越者・グランドソウル。
金獅子。
古今東西あらゆる魔導を極めた魔人。
心底むかつく。
「大和様、勝負を始める前に、聞かせてください」
「何だ」
「……何故あの時、私を殺さなかったのですか。仲間を全て殺したのに、何故」
「お前が弟子だったから、理由はそれだけだ。特別な感情は一切ない」
俺は二刀を抜く。
「あの時見逃してやったのに、わざわざ斬られに来やがって……」
「……ッ」
「なぁ、どうしてだ? どうして俺の前に現れた。超越者、白羅刹様よ」
「……大和様ッ!!」
秋水は今にも泣きそうな顔で叫ぶ。
「何故!! どうしてですか!? 理由を教えてください!! 何故あなたは、そこまで豹変してしまわれたのですか!!」
「世界を救う過程で、強者を殺すことが好きになった」
「あなたほどの御方なら、精神力で狂気を抑えられたはずです! どうして殺戮の鬼になったのですか!」
「……ハァ」
俺は唾を吐き捨てる。
「かまえろ秋水。テメェと語り合うことなんざ何もねぇ。斬り殺してやる」
「……やはり、もう、無理なのですね。わかっていました。けど、でも……ッ」
秋水は顔を俯けた後、長刀を取り出し、抜刀の構えをとる。
「……斬るしか、ないようですね」
「ああ、テメェも剣客なら、言葉じゃなく剣で語れ」
「では、仕方ありません。グランドソウル、出てきてください」
「……は?」
俺が呆けていると、秋水の後ろに現れる。
金色の獅子のような美丈夫が。
鬣のような黄金色の髪、同じ色の瞳。
特注の黒いローブに身を包んでいる。
顔立ちは端正を通り越して、もはや神々しい。
間違いない。
「久しぶりだな。大和」
「グラン……どうしてテメェが」
グランドソウル、グランは柔和に微笑む。
「秋水に頼まれたのだよ。貴殿を封印してほしいと」
「あなたを封印できるのは、三千世界でもグランドソウルだけです。古今東西あらゆる魔導を極めた魔人の力を、借ります」
「おいおい、真剣勝負じゃなかったのかよ」
「誰がそんなことを言いましたか?」
秋水は体制を低くする。
なぁるほど……。
「ク、ククク……」
俺は俯き、総身を震わせる。
「クハハハハハ!! ハーッハッハッハッハッハ!!!!」
そして、高笑いした。
「超越者が二人がかりか!! ああ、素晴らしいな!! 俺は今、歓喜に打ち震えている!! 最高の獲物を二人同時に味わえるんだからなァ!!」
秋水は悲痛に満ちた表情をする。
「何が楽しいんですか……ッ。私は、こんなに辛い思いをしているのに……ッ」
「笑えよ秋水! 今から始まるんだぜ!! 最高の殺戮ショーがな!! お前も俺の弟子なら、ちったぁ楽しめよ!!」
「……ッッ、わかりました」
「サムライマスター、ヤマトは、世界を救った英雄は、もう何処にもいないのですね」
秋水の目から焦り、不安の色が消える。
おうおう、やっとその気になりやがったか。
「グラン、テメェも本気で来いよ」
「無論だ。我も久々に闘争を愉しみたい。二対一とは気乗りしないが、貴殿が嬉しそうなら何よりだ」
「おうよ。遠慮すんな」
俺は心の底から笑い、殺気を開放した。
黒き鬼が三千世界を破壊しながら秋水とグランを威嚇する。
秋水の背後に白い羅刹が顔を出し、鋭い気を飛ばしてくる。
グランの背後に金色の獅子が現れ、唸り声を鳴らす。
ククク。
「……楽しませてくれよ」