表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第八章・魔獣界編2》
39/48

第二証人「黒鬼・大和2」

 あれから数ヶ月経った。

 体調は戻った。

 何時でも旅に戻れる

 しかし、爪牙が戻ってこない。

 心配になって探しに行こうとした。

 しかし、万葉に止められた。


「大和様、どうせあの小娘は死んでいる。探しに行くなど無意味じゃ」

「わからねぇよ。まだ生きてるかもしれねぇ。生きていたら、修行の邪魔をしねぇよう帰ってくる。死んでたら、墓を作ってやりてぇ」

「……妾はまだ認めておらん。あんな野良犬のような小娘が、大和様の弟子だなんて」

「俺の弟子かどうかは俺が決める。お前にどうこう言われる筋合いはない」

「っ」


 万葉は泣きそうな顔になる。

 あ~くそ、何だよ、そんな顔すんなよ。

 卑怯だよなぁ、女ってのは。

 泣きっ面一つで男の心を左右できちまうんだから。


 だがな、俺は女の泣き顔には慣れてるんだよ。

 踵を返して、屋敷を出ようとする。

 すると、屋敷の前に、一人の女の子が立っていた。


「帰ってきたぜ、兄貴」

「爪牙……」


 右目には眼帯を付けており、首には真紅のマフラーを、背中には数多の武器を背負っていた。

 纏う空気が変わっているが、本質は変わっていない。


「爪牙、おいで」

「~っ」


 強気に笑っていたが、俺が腕を広げると、途端に表情を崩した。


「……ううっ、兄貴~!」


 抱きついてくる。

 俺はバランスを崩した。

 おお、パワーもかなり上昇しているな。


「兄貴~! 兄貴、兄貴だ~!」


 俺の胸に顔を埋めている。

 俺は抱き寄せながら、爪牙に言った。


「よく死ななかったな」

「おう! 何度も死にかけたけど、必死に頑張ったぜ! だから褒めてくれ!」

「頑張ったな。えらいえらい」

「~っ♪」


 爪牙のお尻にもし尻尾があったら、パタパタと振られていたのだろう。

 コイツは本当に小動物みたいで可愛いな。


「相当強くなったな。一瞬見違えたぞ。それに、魔獣逹をかなり認めさせたみてぇだ」

「まぁな! 武器はかなり多くなっちまって、これでも厳選したんだぜ!」

「そうか……」


 どうやら、俺の予想以上にコイツは才能があったようだ。

 背負っている武器のオーラからしてわかる。

 全て、伝説クラスの魔獣逹の武装だ。

 万葉と同等クラスの魔獣逹を認めさせたわけか。

 全く、コイツは……


「その眼帯はどうしたんだ?」

「え? ああ、これは、ある奴と戦ってる時に抉られちまって、同時に呪いみてぇなもんもかけられて、義眼になっちまったんだ……」


 爪牙は瞳を潤ませて俺を見上げる。


「な、なぁ、兄貴。こんな物騒な目になっちまったんだ」


 爪牙は恐る恐るといった様子で眼帯を取る。

 そこには、金色の龍眼がはめ込まれていた。

 生きている。

 爪牙の目となって、確かに活動していた。


「驚いた……黒龍王の目じゃねぇか」

「勝ったから貰ったんだ。……兄貴」


 爪牙は俺の袖を掴む。


「こんな不気味な目になっちまったけど、兄貴は、その、まだ俺を可愛がってくれるか?」


 何だ、それが心配で、そんな反応してんのか?

 俺は苦笑して、爪牙の頭に手を置く。


「当たり前だろう? お前は俺の可愛い弟子だ。目が変わった程度で態度を変えるかよ」

「~っ、兄貴~!」

「おおっと、お前、力が本当に強くなってるな」

「兄貴~! 大好き大好き~!」


 コイツは……

 ちょっと前まで野良犬みてぇだったのに、何時の間にこんなに懐かれちまったのかね。


「ふん……生き延びたか、小娘」


 万葉は不機嫌ここに極まれりといった様子で爪牙に喋りかける。

 爪牙は俺から離れると、表情を一変させ、舌を出し挑発する。


「ご愁傷様、生き延びちまったよ」

「てっきりそこらで野垂れ死んでいるかと思ったが、残念じゃ。非常にな」


 万葉は爪牙の武装を見て、舌打ちする。


「妾以外の区長に認められたようじゃな。他にも伝説の魔獣に見始められたようじゃが、調子に乗るでないぞ。妾は貴様を決して認めぬ」

「俺もテメェが大嫌いだよ。俺がいねぇ間に兄貴にデレデレしやがって。このビッチ」

「……なんじゃと?」

「何だ、やんのか? アア?」

「このジャリ……大和様の庇護下にいるからと言って調子に乗るでないわ。呪い殺すぞ」

「やってみろ。他んところの姐さん逹と違って、俺もテメェみたいな種類の女が大嫌いなんだよ。なよなよしなやがって」

「ああ?」

「あん?」


 二人のオーラが膨れあがる。

 爪牙の顔は悪鬼羅刹を通り越し、万葉も端正な顔立ちを変えていないものの、額に青筋が何本も立っている。


 あー、どうしよう。

 これって止めるべき?

 でもなぁ、なんかこっちにまで火の粉が飛んできそうだし、嫌なんだよなぁ。


 そう思っていると、爪牙の胸元から、小さな子犬が出てきた。

 金色の体毛を持っている。

 変わっているところと言ったら、頭が三つあることくらいか。

 ケルベロス、それも稀少種だな。


「駄目だよ爪牙お姉ちゃん! 万葉様! 喧嘩しちゃ!」

「金太郎……」

「金太郎!? なぜそのようなジャリの胸元に隠れておる!!」


 万葉が珍しく目を丸めている。

 爪牙はニヤニヤしながら、金太郎という名前の子犬を頭に乗せた。


「コイツは俺の使い魔になったんだ」

「ぐぬぅ……おのれ、その子は妾が隠れながら育てていたというのに、この泥棒猫!」

「なぁに言ってんだよ。金太郎が俺を主と認めたんだ。異論を言われる筋合いはねぇな」

「金太郎! 今すぐ考え直せ! このような野良犬を主にしていたら、貴様も品のない犬になってしまうぞ!」

「なんだテメェ! このクソババァ! やんのかゴラァ!」

「上等じゃジャリ! 屋敷の外へ出ろ! 消滅させてやるわ!」



「駄目だよ二人とも! 喧嘩しないでぇ!」



「「……」」


 金太郎の一言で、二人がふっと収まる。


「……チッ、ここは金太郎に免じて、許してやらぁ」

「ふん、こっちの台詞じゃ」


 二人で睨み合う。


 恐るべし、子犬の癒やしぱうわー。

 ヤベェ。

 まじぱねぇ。


「なぁ兄貴! こいつ可愛いだろう! 金太郎ってんだ! 旅に連れてっていいだろう!」

「……まぁ、別にいいぜ」

「やったー!」

「おいこら待て、それは許さん。金太郎は魔獣界に残るんじゃ」

「嫌だね!」

「認めん」


 二人がまた喧嘩を始めそうなったので、俺は手を叩く。


「爪牙、疲れてるだろう。一緒に温泉入ろうぜ」


 俺を爪牙をお姫様抱っこする。


「……うん!」


 爪牙は嬉しそうに頷いた。


「待ったぁぁぁぁぁ!! 大和様!! 妾も入るぞ! そのような犬っころと二人きりになどさせるかぁぁぁぁ!!!」

「ついてくんなババァ!! 金太郎だけ付いて来い!!」

「うっさいわジャリ! 黙っておれ!!」

「ぶち殺すぞこのクソババァァァァァァ!!」


 爪牙が怒声を上げる。

 俺はやれやれと肩を竦めた。


「何でこう、仲が悪いのかね。お前達は」


 俺の頭に金太郎が乗っかる。


「なぁ、お前もそう思うだろう、金太郎」

「うん! お姉ちゃん達、凄く仲が悪い! どうしてだろう?」

「俺にもわからん」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ