第二証人「黒鬼・大和2」
あれから数ヶ月経った。
体調は戻った。
何時でも旅に戻れる
しかし、爪牙が戻ってこない。
心配になって探しに行こうとした。
しかし、万葉に止められた。
「大和様、どうせあの小娘は死んでいる。探しに行くなど無意味じゃ」
「わからねぇよ。まだ生きてるかもしれねぇ。生きていたら、修行の邪魔をしねぇよう帰ってくる。死んでたら、墓を作ってやりてぇ」
「……妾はまだ認めておらん。あんな野良犬のような小娘が、大和様の弟子だなんて」
「俺の弟子かどうかは俺が決める。お前にどうこう言われる筋合いはない」
「っ」
万葉は泣きそうな顔になる。
あ~くそ、何だよ、そんな顔すんなよ。
卑怯だよなぁ、女ってのは。
泣きっ面一つで男の心を左右できちまうんだから。
だがな、俺は女の泣き顔には慣れてるんだよ。
踵を返して、屋敷を出ようとする。
すると、屋敷の前に、一人の女の子が立っていた。
「帰ってきたぜ、兄貴」
「爪牙……」
右目には眼帯を付けており、首には真紅のマフラーを、背中には数多の武器を背負っていた。
纏う空気が変わっているが、本質は変わっていない。
「爪牙、おいで」
「~っ」
強気に笑っていたが、俺が腕を広げると、途端に表情を崩した。
「……ううっ、兄貴~!」
抱きついてくる。
俺はバランスを崩した。
おお、パワーもかなり上昇しているな。
「兄貴~! 兄貴、兄貴だ~!」
俺の胸に顔を埋めている。
俺は抱き寄せながら、爪牙に言った。
「よく死ななかったな」
「おう! 何度も死にかけたけど、必死に頑張ったぜ! だから褒めてくれ!」
「頑張ったな。えらいえらい」
「~っ♪」
爪牙のお尻にもし尻尾があったら、パタパタと振られていたのだろう。
コイツは本当に小動物みたいで可愛いな。
「相当強くなったな。一瞬見違えたぞ。それに、魔獣逹をかなり認めさせたみてぇだ」
「まぁな! 武器はかなり多くなっちまって、これでも厳選したんだぜ!」
「そうか……」
どうやら、俺の予想以上にコイツは才能があったようだ。
背負っている武器のオーラからしてわかる。
全て、伝説クラスの魔獣逹の武装だ。
万葉と同等クラスの魔獣逹を認めさせたわけか。
全く、コイツは……
「その眼帯はどうしたんだ?」
「え? ああ、これは、ある奴と戦ってる時に抉られちまって、同時に呪いみてぇなもんもかけられて、義眼になっちまったんだ……」
爪牙は瞳を潤ませて俺を見上げる。
「な、なぁ、兄貴。こんな物騒な目になっちまったんだ」
爪牙は恐る恐るといった様子で眼帯を取る。
そこには、金色の龍眼がはめ込まれていた。
生きている。
爪牙の目となって、確かに活動していた。
「驚いた……黒龍王の目じゃねぇか」
「勝ったから貰ったんだ。……兄貴」
爪牙は俺の袖を掴む。
「こんな不気味な目になっちまったけど、兄貴は、その、まだ俺を可愛がってくれるか?」
何だ、それが心配で、そんな反応してんのか?
俺は苦笑して、爪牙の頭に手を置く。
「当たり前だろう? お前は俺の可愛い弟子だ。目が変わった程度で態度を変えるかよ」
「~っ、兄貴~!」
「おおっと、お前、力が本当に強くなってるな」
「兄貴~! 大好き大好き~!」
コイツは……
ちょっと前まで野良犬みてぇだったのに、何時の間にこんなに懐かれちまったのかね。
「ふん……生き延びたか、小娘」
万葉は不機嫌ここに極まれりといった様子で爪牙に喋りかける。
爪牙は俺から離れると、表情を一変させ、舌を出し挑発する。
「ご愁傷様、生き延びちまったよ」
「てっきりそこらで野垂れ死んでいるかと思ったが、残念じゃ。非常にな」
万葉は爪牙の武装を見て、舌打ちする。
「妾以外の区長に認められたようじゃな。他にも伝説の魔獣に見始められたようじゃが、調子に乗るでないぞ。妾は貴様を決して認めぬ」
「俺もテメェが大嫌いだよ。俺がいねぇ間に兄貴にデレデレしやがって。このビッチ」
「……なんじゃと?」
「何だ、やんのか? アア?」
「このジャリ……大和様の庇護下にいるからと言って調子に乗るでないわ。呪い殺すぞ」
「やってみろ。他んところの姐さん逹と違って、俺もテメェみたいな種類の女が大嫌いなんだよ。なよなよしなやがって」
「ああ?」
「あん?」
二人のオーラが膨れあがる。
爪牙の顔は悪鬼羅刹を通り越し、万葉も端正な顔立ちを変えていないものの、額に青筋が何本も立っている。
あー、どうしよう。
これって止めるべき?
でもなぁ、なんかこっちにまで火の粉が飛んできそうだし、嫌なんだよなぁ。
そう思っていると、爪牙の胸元から、小さな子犬が出てきた。
金色の体毛を持っている。
変わっているところと言ったら、頭が三つあることくらいか。
ケルベロス、それも稀少種だな。
「駄目だよ爪牙お姉ちゃん! 万葉様! 喧嘩しちゃ!」
「金太郎……」
「金太郎!? なぜそのようなジャリの胸元に隠れておる!!」
万葉が珍しく目を丸めている。
爪牙はニヤニヤしながら、金太郎という名前の子犬を頭に乗せた。
「コイツは俺の使い魔になったんだ」
「ぐぬぅ……おのれ、その子は妾が隠れながら育てていたというのに、この泥棒猫!」
「なぁに言ってんだよ。金太郎が俺を主と認めたんだ。異論を言われる筋合いはねぇな」
「金太郎! 今すぐ考え直せ! このような野良犬を主にしていたら、貴様も品のない犬になってしまうぞ!」
「なんだテメェ! このクソババァ! やんのかゴラァ!」
「上等じゃジャリ! 屋敷の外へ出ろ! 消滅させてやるわ!」
「駄目だよ二人とも! 喧嘩しないでぇ!」
「「……」」
金太郎の一言で、二人がふっと収まる。
「……チッ、ここは金太郎に免じて、許してやらぁ」
「ふん、こっちの台詞じゃ」
二人で睨み合う。
恐るべし、子犬の癒やしぱうわー。
ヤベェ。
まじぱねぇ。
「なぁ兄貴! こいつ可愛いだろう! 金太郎ってんだ! 旅に連れてっていいだろう!」
「……まぁ、別にいいぜ」
「やったー!」
「おいこら待て、それは許さん。金太郎は魔獣界に残るんじゃ」
「嫌だね!」
「認めん」
二人がまた喧嘩を始めそうなったので、俺は手を叩く。
「爪牙、疲れてるだろう。一緒に温泉入ろうぜ」
俺を爪牙をお姫様抱っこする。
「……うん!」
爪牙は嬉しそうに頷いた。
「待ったぁぁぁぁぁ!! 大和様!! 妾も入るぞ! そのような犬っころと二人きりになどさせるかぁぁぁぁ!!!」
「ついてくんなババァ!! 金太郎だけ付いて来い!!」
「うっさいわジャリ! 黙っておれ!!」
「ぶち殺すぞこのクソババァァァァァァ!!」
爪牙が怒声を上げる。
俺はやれやれと肩を竦めた。
「何でこう、仲が悪いのかね。お前達は」
俺の頭に金太郎が乗っかる。
「なぁ、お前もそう思うだろう、金太郎」
「うん! お姉ちゃん達、凄く仲が悪い! どうしてだろう?」
「俺にもわからん」