プロローグ
大和様は布団の中で眠っておられる。
妾はそれを見守っていた。
先日行われた超越者同士の戦い。
三千世界に甚大な被害を齎したそれは、魔獣界も無論注目しておった。
皆、大和様の強さに惚れ惚れしておったよ。
魔獣界で大和様の虜になった魔獣が増えてしまった。
鬱陶しい反面、誇らしい。
妾の愛する男が、こうも益荒男であるのだと。
同時に思う。
龍咲秋。
あの小童、妾の愛しい君をここまで痛めつけおって。
ああ殺してやりたい。
しかし、大和様は楽しんでおられた。
心の底から。
戦いを楽しんでおった。
大和様は、あんな表情を妾に見せぬ。
ああ、憎らしや。
あの喉元、噛み千切ってやりたいわ。
「はぁ……」
大和様。
妾はその髪を撫でる。
子供のような寝顔を見ていると、胸が締まる。
頬が熱くなる。
「……ゆっくりと休んでくだされ。ここはどんな場所より安全故」
◆◆
数日後。
大和様が目覚めた。
「……悪いな、万葉。いきなりだった」
「いいえ、問題ありませぬ。大和様が無事で、何より」
妾は大和様に抱きつく。
大和様は辺りをきょろきょろと見渡した。
「爪牙は?」
「爪牙?」
「俺の弟子だ」
「ああ、あの小娘か」
「……まさか、追い出したのか?」
「いいや、勝手に出て行った。修行してくるらしい」
「……そうか、ならいい」
「っ」
妾は気に食わず、頬を膨らます。
「大和様、弟子をとるならしっかりと選んでほしい。何であんな小娘なんぞ」
「アイツはまだ原石だが、いずれ七色に輝く」
「本当か? 妾にはそう見えんかったが」
「信じろって、俺の目を」
「……まぁ、大和様がそう仰るのであれば」
そもそも、弟子などどうでもいい。
妾は大和様を愛することができれば、それでいいのじゃ。
「万葉。封印を全部解いた。また頼む」
「わかった。全部解いてしまったんじゃな」
そうかそうか~。
むふふー♪
「大和様、約束、覚えておるよな?」
「……」
大和様はそっぽを向く。
妾は顔を抑え、無理やりこちらに向かせた。
「魔獣界にはしばらく滞在してくだされ。たっぷりと愛してもらうぞ?」
「……はぁ」
妾は大和様の胸板に頬ずりする。
ふふふふ、龍咲よ、少しだけ感謝する。
貴様のおかげで、大和様にいっぱい愛していただけるのだからな。