第四証人「大和の弟子・爪牙」
俺はただ唖然として、兄貴の戦いを見守っていた。
兄貴は強い。
それは知っていた。
だが、ここまで強いなんて……
次元が違う。
見れたのは宇宙空間で戦っているところまで。
その時でも、兄貴は封印を二つしか開放していなかった。
兄貴は残り八つ、封印を残していた。
今も兄貴は戦っている。
衝撃が星を揺らしているんだ。
「……兄貴」
俺は信じてるぜ。
兄貴が勝つって。
……負けないでくれ。
「……!」
人影が地面に映った。
俺は顔を上げる。
すると、そこには……
「あに……き?」
兄貴は血まみれで、傷だらけだった。
ここから見てもはっきりわかる。
瀕死の重傷だ。
幾ら兄貴でも、あんな傷負ってたら……ッ
兄貴はゆっくりと降りてきた。
地面に降りた時、俺はすぐに兄貴の元に駆け寄る。
「兄貴!?」
兄貴はそのまま倒れた。
俺はそれを抱き止め、寝かせてやる。
「心配かけたな。爪牙……」
「ううん、いいんだ。それよりも傷、早く手当てしねぇと……っ」
俺は自分の衣服を引きちぎって血を止めようとする。
しかし、血は一向に止まらない。
何で……何でだよ!
「無理だ。アキのインフィニット・アストラルの破壊属性の傷だ。普通の手当てじゃ治らねぇ」
「な、なら、どうすりゃぁ」
「動けるうちに行くぞ」
「どこへ?」
「魔獣界だ。そこにいる万葉ってやつが、この傷を治せる」
兄貴はふらふらと立ち上がり、魔導カスタムハーレーを呼び出す。
『マスター、自動運転に切り替えます』
「頼む。……爪牙、乗れ」
「お、おう!」
俺は兄貴の後ろに乗る。
兄貴の身体は、冷たかった。
「スカアハ、急いでくれ。かなりヤベェ」
『Yes』
魔導カスタムハーレーはエンジンを吹かしながら爆走する。
俺は、今にも倒れてしまいそうな兄貴の背中を支えていた。
◆◆
魔獣界という世界に赴くと、すぐに道を開けられた。
住民は皆、大和を心配そうに見つめている。
街を通り過ぎて、大きな屋敷まで向かう。
すると、門前に一際美しい女が立っていた。
稲穂のような金髪と瞳、頭には同じ色の狐耳が。
お尻には九本の尻尾が生えていた。
「大和様!」
女は兄貴に近づく。
兄貴は魔導カスタムハーレーから降りると同時に、女に寄りかかった。
「悪い、もう歩けねぇ」
「大丈夫じゃ、ここで治療する。絶対に死なせはせんぞ……!」
女が治療に入った。
俺は何もできずに、その光景を見つめていた。
◆◆
数時間後。
俺は屋敷で、先ほどの女と対峙していた。
「兄貴の容態は……」
「一命はとりとめた。しかし、数ヵ月は安静にしなければならぬ。何せ、ただでさえ瀕死だったのに、戦い続けたのじゃ。身体にガタが来ている。大和様でなければ、とっくに死んでおるわ」
「……」
女は瞳を鋭く細めた。
「お主、大和様のなんじゃ?」
「……弟子だ」
「ハッ」
女は鼻で笑う。
「弟子? 弟子じゃと? 貴様のような非力な娘が? 冗談もここまで来ると笑えんわ」
「……」
俺が何も言い返さないと、女は首を傾げた。
「何じゃ、悔しくないのか? まさか、そのような気概さえ無くしてしまったのか?」
「……確かに、テメェの言う通りだ。俺は弱い。今のままじゃ、兄貴の足手まといだ」
俺は立ち上がり、女に背を向ける。
「この世界で修行できる場所はあるか?」
「……勝手にせぃ。しかし、一つだけ忠告しておこう。ここ魔獣界は弱肉強食の世界。魔獣達は皆百戦錬磨じゃ。貴様ほど弱い魔獣は、この世界におらん」
「丁度いい、俺より強い魔獣と戦って、経験値を溜めて、強くなる。兄貴と旅を再開する前に」
「……勝手にしろ。妾は止めん。貴様が大和様の弟子であろうと、どうでもいい」
「ああ、勝手にするさ」
俺は屋敷を出ていく。
兄貴……待っていてくれ。
俺、絶対強くなって戻ってくるから。