第三証人「赤修羅・龍咲秋2」
インフィニット・アストラルの真の能力。
それは破壊と創造。
万物を創り出し破壊することができる。
総ての星の記憶、宇宙観を共有しているため、再現できない能力は無く、概念だろうが意志一つで破壊可能。
起点と終点を矛盾なく体現している。
この能力を使うと大抵の敵は瞬殺してしまうので使わないのだが……
大和は違う。
コイツは、超越者であり、俺の好敵手だ。
「万物破壊」
インフィニット・マテリアルに本来の力の一つ、破壊属性が加わる。
この状態は維持しているだけで三千世界が滅びていく。
あまり長時間使うと、三千世界が滅びるが……
そんなことはどうでもいい。
俺は今、この至福の刹那を味わえるなら、どんなものもいらない。
三千世界なんぞ、知ったことか。
破壊属性のインフィニット・マテリアルを大和に向かって放つ。
大和はそれを苦渋の顔で受け止め、左右へ受け流した。
……成程、気を刀身に込めて、破壊属性を緩めた。
刀身が破壊される前に、合気で左右に衝撃を流したというわけか。
流石だな。
しかし、そんなギリギリの回避を何時まで続けられるかな?
俺はインフィニット・マテリアルを無数の球体に変化させ、放つ。
追尾性能付きだ。
「チィ!」
大和は逃げる。
逃がさねぇよ。
追尾させる。
大和はさっきと同じように球体を逸らす。
しかし、数個逸らしただけだ。
球体は小さいが、一つ一つが大千世界を大量に破壊できる威力を内包している。
気を武器に纏わなければ、今頃跡形もなく消滅している筈だ。
いいや、本来、気を纏っていても無理やり消し飛ばせるはずなんだが。
大和の気の錬度が高すぎるんだ。
恐らく、三千世界で一番の気の使い手。
全く、本当に最高だよ、テメェは。
でもな? 逸らすだけでも大変だろう?
ほら。
大和は逸らしきれずにまた逃げ出す。
しかし、大和のスピードより球体のほうが早い。
緩急を用いたステップにも騙されずに、一直線に大和に向かっていく。
よし、当たった。
そう確信したと同時に、俺は自分の目を疑った。
大和がこっちに向かってくるのだ。
球体を足場にして。
……ッ、気を足に集中し、合気で力のベクトルを調整しつつ、足場にしてるのか。
少しでもミスったら致命傷どこではないというのに。
いや、今は考えている暇はない。
俺は迫りくる大和の刃を受け止める。
「この出鱈目野郎が。普通球体を足場にするとか考えるかよ」
「ククク!」
しかしだ。
大和はバックステップを踏む。
これ以上俺に近づいていたら、刀どころか身体も破壊されるからな。
いい判断だ。
「……今のお前には、気と合気ではどうにもならねぇな」
大和は瞳を細め、全身から力を抜く。
そして一度深呼吸をした後、異変は起こった。
大和の身に纏うオーラが変貌していく。
気ではない。
もっと純粋で、恐ろしいモノに変わっていく。
あれは……
そうか、大和。
ようやくテメェも、全力全開で来るってわけか。
「必殺・色即是空」
突如として大和の総身から溢れ出したオーラを、俺はインフィニット・マテリアルで防ぐ。
オーラがぶつかり合い、刹那、三千世界に切創と破壊が刻まれた。
「アキ、ありがとう。お前という存在に心から感謝する。この状態で、よもや戦うことができるなんてな……」
色即是空。
大和が強敵を斬り続けた末に行きついた境地。
森羅万象、三千世界あらゆるものを切断する、絶対法則。
「……やっとだ。やっとテメェにそれを出させることができた。前まではそれを出す前に終わっていたからな」
「お前がまだ未熟だったり、時には邪魔が入ったり、散々だったもんな」
「ああ。……やっとだ。やっと待ち焦がれたこの時がやってきた」
俺と大和は互いに微笑み合う。
「「全力でお前を殺してやれる」」
俺達は全力で踏み込み、対峙する。
その衝撃で三千世界の滅びが加速する。
視線、呼吸、殺気だけで、今の俺達は絶対破壊と絶対切断を発動できる。
存在そのものが、破壊と切断という概念なのだ。
「「ハハハハハハハハ!!!!!」」
全力で打ち合う。
俺が大和の身体を破壊し、大和が俺の身体を切断する。
互いに技術もへったくれもない。
攻撃しか頭にない。
全力で、相手を殺そうと魂を唸らせる。
「「ハーッハッハッハッハッハ!!!」」
互いに血まみれになっても手を止めない。
ああ、最高だ。
最高の気分だぜ!! 大和ォォォォォォ!!!!
「アキィィィィィィィ!!!」
「大和ォォォォォォ!!!」
俺達は全力の一撃を浴び合う。
「ガ、ハァ……ッ」
「グゥ、ア……ッ」
俺も大和もフラフラだった。
致命傷をとっくに通り過ぎている。
何時死んでもおかしくない。
それでも俺達は、精一杯の力を振り絞って、殺し合いを続ける。
絶対、絶対に殺す。
俺が勝つんだ。
勝つんだ。
勝つんだ。
「俺が勝つんだァァァァァァ!!!!!!!」
「楽しもうぜェ!! この刹那を!!!!」
楽しいという気持ちは一緒だが、互いに戦う目的が違う。
それを再認識したと同時に、最後の力を振り絞って、一撃を繰り出した。
「「死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」」
つき抜ける。
今放てる、最強の一撃だった。
「ぅお……っ」
大和が全身から血を噴き出す。
そのままフラフラとよろけながら、倒れた。
ふ、フフフ、ハハハハ!!!!
「ハーッハッハッハッハッハッハ!!!!! 俺の勝ちだァ!!!!」
そう高笑いした瞬間。
俺の胸に袈裟懸けと逆袈裟の傷が浮かび上がる。
激しい音と共に舞う血飛沫。
俺は何も言えず、倒れ伏した。
「が、ハァ……ッ!?」
そんな、そんな馬鹿な……!!
「効いたぜぇ。でも、今回も、俺の勝ちだ」
大和はよろよろと立ち上がる。
「最後の最後で技術の差が出たな」
「……クソッ」
クソ、クソ……ッ。
「糞がァァァァァァァァ!!!!!!!」
俺は三千世界を揺るがす怒号を放った。
「また俺が負けたのか!? またか!!? 何時になったらテメェに勝てる!!」
「さぁな、次は勝てるんじゃねぇの?」
「アアアアアアアアアア!!!!!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!!!!」
チクショウチクショウチクショウ!!
あんなに修行したのに!! あんなに!!
「次に会う時が楽しみだ。じゃあな」
「……次こそは!! 絶対に俺が勝つ!! 絶対だッ!! テメェは俺が倒す!! 大和ォォォォォォ!!!!」
俺は光の粒子となって消えていった。
◆◆
アキのやつは強制的に冥界送りにされたか。
まぁ、アイツのことだ。
ほんの数日とせずに現実世界に戻って来る。
そして、修行するのだろう。
血反吐を撒き散らして。
俺を、倒すために。
「ククククク」
ハハハハ!!
「ハーッハッハッハッハッハ!!!! アーッハッハッハッハッハッハ!! 面白かったぜぇ!! 最高だった!! アキ、また何時か殺し合おう!! 絶対だ!! ハーッハッハッハッハ!!!」
歓喜に打ち震えるままに、俺は哄笑を上げた。