プロローグ
龍咲秋……アキとは、何度も殺し合った仲だ。
何度も殺し損ねて、逃げられている。
いい加減殺してぇんだが、如何せん、アキの奴、強い上にしぶとい。
でも、今日という今日は逃がさねぇぜ。
「さぁて、はじめるか」
「ああ」
互いに無構え。
俺はアキの僅かな動きに反応し、上空に刀をかざした。
瞬間、ふってくる、重力の塊が。
見えない。
だが確実に俺を潰しにかかっている。
俺の半径三メートル以内の地面が陥没する。
アキの得意技、重力だ。
重力を操作するという単純な技だが、それ故に強力。
でもな……
「そら」
脱力、刹那に筋肉を引き締めることによって、衝撃波を生む。
筋肉の爆発、とでも言えばいいのか? 技名はない。
重力から解放された俺は前方を見るが、既にアキの拳が迫っていた。
刀では間に合わない。
自分から顔を近づけ、頬で拳の側面に触れ、衝撃を真横に流す。
するとどうだろか。
衝撃は瓦礫になっていた摩天楼を吹き飛ばし、遠くの海までも裂き、干上がらせた。
風圧と爆音は、爪牙や異能力者のお嬢ちゃんを吹き飛ばす。
はぁ……
「牽制の一発、それも殆ど力を入れてなくてそれだろう? えぐいわ~」
「それに顔色を変えることなく自ら突っ込み、力のベクトルを変える奴に言われたくねぇ」
アキはゴキゴキと指を鳴らし、突撃してくる。
俺はそれに応戦した。
剣と拳が交差する。
それによって生まれた爆発が周囲にある瓦礫を吹き飛ばし、尚も余力を残して地割れを引き起こす。
続けてやってくる怒涛の連続攻撃に、俺は刀を振り回し対処する。
目にも止まらない連撃の応酬。
二手三手先とは言わず、十手以上先を読む。
隙を突いたり、回避したり、防御したり
俺の脳内には、既に数秒先の未来が映っていた。
端から見れば俺とアキは拮抗した打ち合いをしているように見えるだろうが、実は違う。
アキの暴力的すぎる攻撃を、俺が合気でベクトル操作してそのまま返しているだけだ。
アキの攻撃は地殻変動どころではない、優々と星を砕く。
まともに打ち合ったらこっちが負ける。
「チッ、合気か。面倒くせぇ! 俺の攻撃をそのまま返してきやがって。自分の力で戦え!」
「無理言うな。それに、合気は正真正銘俺の力であり、技術だ」
「ハン、技術なんて、圧倒的暴力の前にはカス同然だ」
確かに、このままじゃ合気でベクトルを操作しきれない。
アキがギアを上げてきてやがる。
星を砕く以上の威力を出してきてやがる。
そのまま返さなくて適当に流すだけなら、できなくはないんだが……
それじゃ、爪牙がなぁ……
「何だ、弟子が心配か?」
「ま、可愛い弟子だからな」
「ケッ……」
アキは舌打ちした後、蹴り上げを放ってくる。
殺意のこもった蹴りだが、これは……
俺は威力を殺さず、そのまま受ける。
そして遥か上空に打ち上げられた。
大気圏を突破し、すぐに宇宙空間にたどり着く。
やれやれ……
「気をつかわせちまったな……」
「守るものがある奴は弱い。……前にテメェが言ってだろう。テメェの放った言葉を忘れてんのか?」
「ククク」
痛いところつくねぇ。
「ありがとうよ。これで気兼ねなくやれる」
アキは肩を竦める。
「もうそろそろアップは済んだだろう? 封印、解けよ」
「え~、もうちょっと楽しもうぜ」
「……」
アキは手を掲げる。
すると、降ってきた。
巨大隕石の群れが。
「大流星群」
俺は思わず声を上げる。
「ばっか! こんなん地球に落ちたら、俺の弟子が無事じゃ済まねぇだろうが!」
「封印解かないとヤベェんじゃねぇの?」
「このクソったれ!!」
隕石の大きさは一つ一つが大陸クラス。
一個でも落ちたら地球がヤベェ。
しかも、百個近くある。
これぁ……解くしかねぇな。
封印解除……二つ、いっとくか。
「よっ」
隕石を全て素粒子レベルにまで切断する。
そして、アキの背後に回り、隕石にしたような斬撃を浴びせた。
しかし、
「やっぱり、無理か……」
アキの纏っているオーラが俺の斬撃を全てはじき返した。
アキは振り返ると同時に裏拳を放ってくる。
俺はそれを避けて、後ろに飛び退いた。
「無限なる星々の極光「インフィニット・アストラル」。……やっぱチートだな」
無限なる星々の極光。
ありとあらゆる力の頂点にある究極の力。
過去、現在、未来において存在する全ての星々の力の結晶。
それは、生物の負の感情の具現化である邪神を封印するための力。
アキは三千世界でたった一人、この力を宿している。
アキは生まれながらにして、邪神を封印する宿命を背負っていたんだ。
しかし、邪神は俺が封印してしまった。
アキの存在価値は無くなってしまった。
しかし、アキは元々救世主の器ではなかった。
その気性は苛烈で高慢。
弱肉強食が世の理と憚らず、弱者は問答無用で蹂躙する。
また勝利至上主義者であり、敗北は死以上の屈辱だと考えている。
救世主には程遠い、獣のような男だ。
「インフィニット・アストラルを抜けるには、まだ封印解除の数が足りないんじゃねぇか?」
アキは笑いながら拳を振るってくる。
全く、コイツは……
「徐々にギアを上げていくさ。そうしねぇと、つまらねぇだろ?」
「……ハァ」
アキは落胆の溜息を吐いたかと思うと、周囲に散らばっている星を手の平サイズにまで圧縮する。
おっと、アレは不味い。
「超新星大爆発」
直後に起こる、宇宙開闢クラスのエネルギーを孕んだ破滅の劫火。
避けきれる規模ではない。
合気でベクトル操作できるエネルギー量ではない。
そして、迎え撃たなければ後ろの地球が一瞬で蒸発する。
「だぁから! 飛ばしすぎだっての! せっかちだなぁもう!」
俺は刀身に気を込める。
赤いオーラを帯びて輝き始める二刀を、思いっきり振り下ろした。
「そらぁ!!」
圧縮された気は開放され、莫大なエネルギーを生み出す。
放たれた気は波濤となった、劫火に当たる。
せめぎ合い、絡み合って、次の瞬間、大爆発が起こった。
俺はやってきた衝撃波を、二刀で左右へ流す。
左右の銀河団が破壊されるが、まぁいい。
「ハァ」
「さっさと封印解けよ。つまらねぇぞ」
アキの手の平にまた星が集っていく。
その量は先ほどの比ではない。
万、億、京……いいや、もっとか。
あれは……
「暗黒天体創造」
無限に等しい数の星を圧縮して創造される、極大のブラックホール。
この野郎ぉ……
「……あーわかったよ。なら封印全部解除してやらぁ! 大盤振る舞いだ。呆気なく終わってくれるなよ!」
俺は残り八つの封印を解除する。
合計十の封印を解除した。
さぁ、久々の全力全開だ。
……なぁアキ。
テメェなら、俺の全力を受け止めてくれるよな?
テメェの要望に応えてやったんだ。
簡単に死んだら、許さねぇからな。