第六証人「黒鬼、大和」
俺達が行く頃には、既に街は崩壊していた。
高層ビルは殆ど薙ぎ倒され、民家もほぼ倒壊。
周囲の人間は殆ど重症で、うめき声が所々から聞こえてくる。
子供の泣き声と血の臭い。
ん~。
「嫌いじゃないな。この感じ」
「俺は大好きだぜ。最高じゃねぇか」
爪牙はこの現世地獄の中を鼻歌交じりにスキップしている。
ったく、コイツに普通の女の子の感性を求めるほうが間違っているか。
「あ、兄貴。あそこ、中央武力局があった場所に、誰かいるぜ?」
「んん」
歩みを進めると、瓦礫の上に、確かにいた。
近付いてみると、つい最近会った少女、ジーナだったか? がいた。
ジーナは血まみれの青年を膝枕し、泣いていた。
その青年は……
「ふむ」
ついさっき俺達に交渉しに来た、赤髪の青年だった。
既に息絶えている。
ジーナは彼の頬を撫でながら、涙を流し続けていた。
「よぅ、お嬢ちゃん」
「アンタ、は……」
「運が悪かったな。アイツが、アキの奴が襲撃してきたんだろう?」
「……ッッ!!」
ジーナは憤怒の形相で俺に喚き散らす。
「アンタのせいだッ!!!! アンタなんか!! アンタなんかが、この世界に来なければ!!!!」
「おいおい、とばっちりはやめてくれよ。この惨状を作ったのは俺じゃねぇだろう。それに、俺はそこの坊主と約束していた。ちゃんとしたステージで殺し合おうってな」
「龍咲秋って奴はアンタを殺しに来たんだろう!? 大体、アンタが七騎士のメンバーを殺さなかったら平和だったんだ!! あたしが革命を起こす前に蔵人が来てくれて、全て解決してたんだ!! 平和な世界が訪れるはずだったんだ!! なのに、なのにぃ……っ」
「……」
俺はやれやれと頭をかく。
「そう言われてもねぇ。正直どうでもいいっていうか」
「!!?」
「俺は強者と戦えればそれでいい。お前らのことなんて知ったこっちゃねぇんだよ。お前らが悲しんでも、俺はなんとも思わねぇ」
「……アンタ、それでも人間なの!? この人でなし!! ロクデナシッ!!」
「クックック、言われ慣れてるさ」
喉を鳴らしながら、お嬢ちゃんに近づく。
「ところでよ。アキの奴はどこだ? 見当たらないんだが」
「……」
「無視、か。いいさ、自分で探すから。爪牙、行こうぜ」
さぁて、アキの奴は何処にいるのかねぇ。
「よぅ、大和」
目の前の次元が裂ける。
そして、青年が出てきた。
「久々だな、アキ」
「ようやく自分の力量に満足が行ったから、会いに来たぜ」
青年、アキは抱えていたものを投げ飛ばす。
それは、金髪の男だった。
見知らぬ顔だな。
既に死んでいる。
「クリス……っ」
後ろのお嬢ちゃんの声が掠れる。
なんだ、知り合いか。
「序列二位、次元操作の能力を持ってるってんで期待したんだが、正直クソつまんかなったぜ。五分も遊べねぇの」
「クックック、一位はどうだった?」
「八分くらいか? 大してかわんねぇよ」
「そうか……」
あーあ。
「アキ、おめぇ、そいつらとは俺が楽しむ予定だったのに、横取りしやがって」
「うっせ、こんな雑魚共と遊ぶくらい、テメェは暇を持て余してんのかよ」
「雑魚って言ってやんなよ。一応この世界じゃ最強なんだから。手加減した状態ならいい勝負ができたかもしれねぇだろ?」
アキは鼻で笑う。
「相変わらずだな。勝つことよりも楽しむことが優先か」
「勿論。戦いは楽しんでこそなんぼだ。強者と互いの血肉を削り合う。たまらねぇじゃねぇか」
「俺にはわからねぇ、戦いは勝ってなんぼだろう。勝たなきゃ意味がねぇ。それが戦いってもんだ」
「そんな考えだと中々楽しめねぇだろ、戦いを」
「それでいい。負けるより数百倍マシだ。俺は、負けてもヘラヘラしているクソ野郎とは違う」
「それぁ、俺のことかい?」
「ああ」
「……」
「……」
俺は片目を閉じる。
「お前も相変わらずで安心したぜ」
「でよぉ、大和。お前、連れが一人増えてるじゃねぇか」
「ああ、コイツは俺の弟子でよ。爪牙ってんだ」
「ふぅん……」
アキは瞳を細めて、肩を竦める。
「興味ねぇ。雑魚じゃねぇか」
「ああ? なんだテメェ、やるか?」
「やめろ爪牙」
俺は爪牙の頭に手を置く。
アキは獰猛に笑った。
「なんだ、やんのかテメェ。いいぜ、殺してやるよ」
「ああ?」
「はぁ?」
「やめろテメェ等」
「おい大和……俺に指図すんじゃねぇよ」
「ピリピリすんじゃねぇよ。今から相手してやっから」
「……おい、そこの犬っころ。大和に感謝するんだな」
「こんのクソ……ッッ、ぜってぇ殺してやるッ!!」
「やめろってんだ馬鹿。死ぬのはテメェだぞ」
「あぅ!」
頭にチョップして無理やり止める。
「だって、兄貴ぃ、あいつがぁ……」
「あいつは昔からああいう奴なんだよ」
爪牙の頭を撫でてやって、俺は前に出る。
「よく見ておけ、爪牙。今から始まる超越者同士の戦いってのを」
「っ……」
俺は二刀を抜く。
アキはここに来て、初めて嬉しそうに笑った。
「待ってた。ずっと待ってた。この時を……今日こそテメェに勝つ。テメェに勝って、俺が最強になるんだ」
「最強の称号には興味ねぇが、テメェは手加減すると怒るだろう?」
「当たり前だ。少しでも手加減してみろ。マジで殺す」
「ハハ、いいぜぇ。こっちは何時でもオーケーだ♪」
俺は嗤う。
さぁ、楽しい楽しい殺し合いのはじまりだ。