第五証人「七騎士序列一位・佐敷蔵人2」
クリスに交渉が成功したことを話した。
そして俺は会議室で一人、大和を封印する作戦を練っていた。
一日という猶予を貰った今、異世界創造はクリスに任せておいていい。
俺はその間、大和を如何に封印するかを考えなければならない。
あのバケモノを……
万能の力を使って、大和の経歴を隅々まで調べた。
やはり大和はスロースターターで、相手が強いほどギアを上げていくみたいだ。
必然的に早期決着になる。
殺されるか、封印できるか。
しかしだ。
大和の情報を調べれば調べるほど、勝機が無くなっていく。
大和、過去は高潔な武人で、サムライマスターと呼ばれていた。
三千世界を滅ぼそうとした邪神を封印した英雄。
消息を絶った後、異世界を巡って強者を殺して回っている謎の狂剣士が現れた。
かつての英雄は、人斬りの魔物に落ちてしまったんだ。
しかし、世界を救った力はまぎれもなく本物。
剣技のみで人間を超越した奴は、自他共に認める三千世界最強の剣士。
確固たる鍛錬と幾多の戦闘経験で培われた戦闘技術は、まさしく百戦錬磨。
奴に殺された強者は数知れず、また仮に奴を殺したとしても、冥界から戻ってきて、殺される。
クリスの横、縦、奥行きの三次元空間、時間の四次元、平行世界の五次元を操作できる「次元干渉」。
俺の、ほぼ何でもできる「万能」。
こんなに強力な手札を持っているのに、勝利するビジョンが殆ど浮かばない。
……。
どうすればいいんだ。
もしかしたら、降伏したほうがいいのかもしれない。
そしたら大和は俺達に興味を無くして、去るかもしれない。
俺達が泣いて媚びたら、おそらくは……
……。
いやだ。
仮に、七騎士の面々が全員生きていたら、俺は迷わず泣いて土下座しただろう。
首が欲しければ渡しただろう。
だがな、俺が守りたかったあいつ等はもういない。
大和に殺された。
絶対に許さない。
復讐だ。
俺はあいつ等の仇をとらない限り、死んでも死にきれない。
でも……
怖いんだ。
相手は圧倒的強者で、俺達は死にに行くようなものだ。
九割九分の確立で俺達は殺されるだろう。
怖い……
全身の震えが止まらない。
こんな感情、初めてだった。
今まで俺の異能、万能さえあればなんでもできた。
敵対するものを全て蹂躙できた。
けど、今度の敵は違う。
俺が、蹂躙される側なんだ。
何よりも恐ろしいのが、奴の目的が俺達を殺すこと、ただそれだけだということだ。
理解できない。
強者と戦って何が楽しい?
怖いだろう、普通は。
それより、殺すことに嫌悪感を抱かないのか?
俺は全く理解できない大和という男に、心底恐怖を抱いていた。
家族の仇をとりたい。
でも、怖い。
相反する二つの感情に、俺は押しつぶされそうになっていた。
「ふぅん」
「!」
俺は反射的に振り返る。
馬鹿な、気配が全くしなかった。
扉のほうには、壁に寄りかかっている青年がいた。
歳は俺と同じか、いいや、年下だな。
十七歳ほどか。
適当に伸ばされた真紅の瞳、同じ色の瞳。
服装は黒のジャケット、赤のシャツ。
顔立ちも平均的の、言ってしまえばどこにでもいそうな青年だ。
だが、なんだ……
青年を見た瞬間、全身の毛穴が開いた。
氷の中に閉じ込められたみたいに、動けなかった。
「アンタがこの世界の№1か……」
青年は値踏みをするように俺の足先から頭先を見た。
「悪くはねぇが、大和と戦うには弱すぎる。何よりも、メンタルが駄目だ」
青年は肩を竦める。
「アンタ、完全にビビってるだろ? 勝負以前の問題だ」
「……何なんだ、お前。いきなり出てきて、お前に、俺の何がわかる?」
「わかるさ。ビビッてる奴は絶対に勝てない。これは勝負の鉄則だ」
「……お前、何者だ?」
俺のストレートな疑問に、青年は鼻で笑った。
「龍咲秋。……一応、超越者ってことになってる」
「!!」
超越者!?
まさか、そんな……
「ところでアンタさぁ」
龍咲秋が消える。
瞬間、胸に熱いものが突き刺さった。
「……?」
「大和は俺の獲物なんだよ。邪魔だから、死んどけ」
龍咲の手刀が俺の胸に深々と突き刺さっていた。
龍咲は手刀を引き抜く。
俺はよろけながらも万能の力で回復した。
「龍咲秋……超越者「赤修羅」かッ」
「ご名答。物知りじゃねぇか。しかもアンタ、中々死ににくそうだ。丁度いい、大和と戦う前のアップだ。嬲り殺してやるよ」
「……ッッ」
予想の範疇を大きく超えた出来事に、頭が追い付かない。
だが、わかることは、今目の前の超越者と戦わなければ、死ぬということだ。
さっきの一撃も、間違いなく殺しに来ていた。
「……やれるものならやってみろ。お前も、大和も、俺が倒す」
不敵に笑ってみせる。
龍咲秋は口角を吊り上げた。
「ハッ、言うじゃねぇか。なら、精々俺を楽しませろよ」
俺は突撃する。
悪い、クリス。
緊急事態だ。
俺はコイツをなんとかしてみせるから、お前は異世界創造に集中しろ!
◆◆
「なぁ、兄貴」
「ん?」
爪牙は俺の膝上に乗りながら、質問してくる。
「超越者ってなんだ? 黒鬼ってなんだ?」
「……俺は剣技を極めすぎて人間をやめちまった。他にもそういう奴等がいるのさ。十人ほどな」
「そいつ等、兄貴と同じくらい強いのか?」
「んー、どうだろう? 全員とは戦ったことあるしなぁ」
「兄貴は一番強いのか?」
「……いいや、そうでもねぇよ。近い将来、追い抜かれる可能性がある」
「誰にだ?」
「そうだな、例えば龍咲秋。「赤修羅」だ」
「強いのか!?」
「滅茶苦茶。俺も手加減してたら危ない」
「そんなに強いのか……へへへ♪」
「ったく、お前。ワクワクしてるのか?」
「おう、だってさぁ! 兄貴と同じくらい強い奴だろう! 戦ってみてぇよ!」
「俺はお前の意見をなるべく尊重するつもりだが、アキに挑むのはやめておけ。今のお前なら一瞬で冥界送りだぞ。もう少し強くなったらな」
「ぶぅぅ」
頬を膨らます爪牙の頭を撫でる。
しかしな。
もうそろそろなんだよな。
アイツが俺の元に現れるの。
もしかしたらこの世界か、次の世界で戦うことになるかもしれねぇな。
そしたら、世界が滅びることになる。
アイツも俺も、周囲のことは一切気にしないからな。
……そうなったら、まぁ、ご愁傷さま。
その世界の住民は、運が悪かった。
そう思っていた矢先、爆発音と共に廃墟ビルが揺れる。
「何だ!?」
「外だな。見てみようぜ」
廃墟ビルからは中央武力局がある街が一望できる。
見てみると、中央武力局が崩壊し、煙が上がっていた。
崩壊は火花と一緒に四方に散りばり、摩天楼を薙ぎ倒していく。
あれは……
「誰か戦ってるな」
「さっきの奴じゃねぇか?」
「……いや、この気配」
間違いない。
「爪牙、出るぞ」
「どうしたんだよ、兄貴?」
「どうやら、アイツが来たみたいだ」
「アイツ?」
「龍咲秋、赤修羅だよ」
「!」
「行くぞ」
「お、おう!」
ハァ、ややっこしくなってきたぜぇ、これは……