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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第七章・超能力編2》
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第五証人「七騎士序列一位・佐敷蔵人2」

 クリスに交渉が成功したことを話した。

 そして俺は会議室で一人、大和を封印する作戦を練っていた。

 一日という猶予を貰った今、異世界創造はクリスに任せておいていい。

 俺はその間、大和を如何に封印するかを考えなければならない。

 あのバケモノを……

 万能の力を使って、大和の経歴を隅々まで調べた。

 やはり大和はスロースターターで、相手が強いほどギアを上げていくみたいだ。

 必然的に早期決着になる。

 殺されるか、封印できるか。


 しかしだ。


 大和の情報を調べれば調べるほど、勝機が無くなっていく。

 大和、過去は高潔な武人で、サムライマスターと呼ばれていた。

 三千世界を滅ぼそうとした邪神を封印した英雄。

 消息を絶った後、異世界を巡って強者を殺して回っている謎の狂剣士が現れた。

 かつての英雄は、人斬りの魔物に落ちてしまったんだ。

 しかし、世界を救った力はまぎれもなく本物。

 剣技のみで人間を超越した奴は、自他共に認める三千世界最強の剣士。

 確固たる鍛錬と幾多の戦闘経験で培われた戦闘技術は、まさしく百戦錬磨。

 奴に殺された強者は数知れず、また仮に奴を殺したとしても、冥界から戻ってきて、殺される。


 クリスの横、縦、奥行きの三次元空間、時間の四次元、平行世界の五次元を操作できる「次元干渉」。

 俺の、ほぼ何でもできる「万能」。


 こんなに強力な手札を持っているのに、勝利するビジョンが殆ど浮かばない。


 ……。

 どうすればいいんだ。


 もしかしたら、降伏したほうがいいのかもしれない。

 そしたら大和は俺達に興味を無くして、去るかもしれない。

 俺達が泣いて媚びたら、おそらくは……


 ……。

 いやだ。


 仮に、七騎士の面々が全員生きていたら、俺は迷わず泣いて土下座しただろう。

 首が欲しければ渡しただろう。

 だがな、俺が守りたかったあいつ等はもういない。

 大和に殺された。

 絶対に許さない。

 復讐だ。

 俺はあいつ等の仇をとらない限り、死んでも死にきれない。


 でも……


 怖いんだ。

 相手は圧倒的強者で、俺達は死にに行くようなものだ。

 九割九分の確立で俺達は殺されるだろう。

 怖い……

 全身の震えが止まらない。

 こんな感情、初めてだった。

 今まで俺の異能、万能さえあればなんでもできた。

 敵対するものを全て蹂躙できた。

 けど、今度の敵は違う。

 俺が、蹂躙される側なんだ。


 何よりも恐ろしいのが、奴の目的が俺達を殺すこと、ただそれだけだということだ。

 理解できない。

 強者と戦って何が楽しい?

 怖いだろう、普通は。

 それより、殺すことに嫌悪感を抱かないのか?

 俺は全く理解できない大和という男に、心底恐怖を抱いていた。


 家族の仇をとりたい。

 でも、怖い。


 相反する二つの感情に、俺は押しつぶされそうになっていた。


「ふぅん」

「!」


 俺は反射的に振り返る。

 馬鹿な、気配が全くしなかった。

 扉のほうには、壁に寄りかかっている青年がいた。

 歳は俺と同じか、いいや、年下だな。

 十七歳ほどか。

 適当に伸ばされた真紅の瞳、同じ色の瞳。

 服装は黒のジャケット、赤のシャツ。

 顔立ちも平均的の、言ってしまえばどこにでもいそうな青年だ。

 だが、なんだ……


 青年を見た瞬間、全身の毛穴が開いた。

 氷の中に閉じ込められたみたいに、動けなかった。


「アンタがこの世界の№1か……」


 青年は値踏みをするように俺の足先から頭先を見た。


「悪くはねぇが、大和と戦うには弱すぎる。何よりも、メンタルが駄目だ」


 青年は肩を竦める。


「アンタ、完全にビビってるだろ? 勝負以前の問題だ」

「……何なんだ、お前。いきなり出てきて、お前に、俺の何がわかる?」

「わかるさ。ビビッてる奴は絶対に勝てない。これは勝負の鉄則だ」

「……お前、何者だ?」


 俺のストレートな疑問に、青年は鼻で笑った。


「龍咲秋。……一応、超越者ってことになってる」

「!!」


 超越者!?

 まさか、そんな……


「ところでアンタさぁ」


 龍咲秋が消える。

 瞬間、胸に熱いものが突き刺さった。


「……?」

「大和は俺の獲物なんだよ。邪魔だから、死んどけ」


 龍咲の手刀が俺の胸に深々と突き刺さっていた。

 龍咲は手刀を引き抜く。

 俺はよろけながらも万能の力で回復した。


「龍咲秋……超越者「赤修羅」かッ」


「ご名答。物知りじゃねぇか。しかもアンタ、中々死ににくそうだ。丁度いい、大和と戦う前のアップだ。嬲り殺してやるよ」

「……ッッ」


 予想の範疇を大きく超えた出来事に、頭が追い付かない。

 だが、わかることは、今目の前の超越者と戦わなければ、死ぬということだ。

 さっきの一撃も、間違いなく殺しに来ていた。


「……やれるものならやってみろ。お前も、大和も、俺が倒す」


 不敵に笑ってみせる。

 龍咲秋は口角を吊り上げた。


「ハッ、言うじゃねぇか。なら、精々俺を楽しませろよ」


 俺は突撃する。

 悪い、クリス。

 緊急事態だ。

 俺はコイツをなんとかしてみせるから、お前は異世界創造に集中しろ! 



 ◆◆



「なぁ、兄貴」

「ん?」


 爪牙は俺の膝上に乗りながら、質問してくる。


「超越者ってなんだ? 黒鬼ってなんだ?」

「……俺は剣技を極めすぎて人間をやめちまった。他にもそういう奴等がいるのさ。十人ほどな」

「そいつ等、兄貴と同じくらい強いのか?」

「んー、どうだろう? 全員とは戦ったことあるしなぁ」

「兄貴は一番強いのか?」

「……いいや、そうでもねぇよ。近い将来、追い抜かれる可能性がある」

「誰にだ?」

「そうだな、例えば龍咲秋。「赤修羅」だ」

「強いのか!?」

「滅茶苦茶。俺も手加減してたら危ない」

「そんなに強いのか……へへへ♪」

「ったく、お前。ワクワクしてるのか?」

「おう、だってさぁ! 兄貴と同じくらい強い奴だろう! 戦ってみてぇよ!」

「俺はお前の意見をなるべく尊重するつもりだが、アキに挑むのはやめておけ。今のお前なら一瞬で冥界送りだぞ。もう少し強くなったらな」

「ぶぅぅ」


 頬を膨らます爪牙の頭を撫でる。

 しかしな。

 もうそろそろなんだよな。

 アイツが俺の元に現れるの。

 もしかしたらこの世界か、次の世界で戦うことになるかもしれねぇな。

 そしたら、世界が滅びることになる。

 アイツも俺も、周囲のことは一切気にしないからな。

 ……そうなったら、まぁ、ご愁傷さま。

 その世界の住民は、運が悪かった。


 そう思っていた矢先、爆発音と共に廃墟ビルが揺れる。


「何だ!?」

「外だな。見てみようぜ」


 廃墟ビルからは中央武力局がある街が一望できる。

 見てみると、中央武力局が崩壊し、煙が上がっていた。

 崩壊は火花と一緒に四方に散りばり、摩天楼を薙ぎ倒していく。

 あれは……


「誰か戦ってるな」

「さっきの奴じゃねぇか?」

「……いや、この気配」


 間違いない。


「爪牙、出るぞ」

「どうしたんだよ、兄貴?」

「どうやら、アイツが来たみたいだ」

「アイツ?」

「龍咲秋、赤修羅だよ」

「!」

「行くぞ」

「お、おう!」


 ハァ、ややっこしくなってきたぜぇ、これは……

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