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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第七章・超能力編2》
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第四証人「七騎士序列一位、佐敷蔵人」

 クリスに一と佳乃が殺されたと聞かされた時、気が狂いそうだった。

 だから異能をフルに使って、超特急で帰ってきた。

 もうこれ以上、仲間を殺させないために。

 なのに、ミスターもカルロスも殺されていた。

 ジーナだけは無事だった。


 俺はサムライの元へ赴く前に、ジーナの部屋に訪れた。


「ジーナ、俺だ。蔵人だ」

「……帰って来てたんだね」


 返ってきたのは弱々しい声だった。

 俺は唇を噛みしめ、言葉を絞り出す。


「顔を見せてくれ。安否を確認したい」

「嫌だよ。今、あたしメイクしてないし」

「いいから。俺を安心させてくれ」

「……」


 ジーナは扉を開けた。

 そこには、目に隈を作ったジーナがいた。

 俺はたまらず抱きつく。


「よかった……」

「……」

「お前まで殺されてたら、俺は、俺は……っ」

「……らしくないね。何時ものアンタらしくないよ。序列一位さん」

「すまん……俺が出ていなかったら、最悪の事態を防げたかもしれないのに」

「……アンタ、あたしにだけは弱い顔を見せるよね」


 ジーナは俺の背中に手を回す。


「ねぇ、これはお願い。あのサムライのところには行かないで」

「……」

「何時もアンタのこと邪見に扱って、酷いこと言ったりしてたけど、アンタが死ぬのは、あたし、嫌なんだ。お願い」

「……ごめんな、ジーナ」


 俺はジーナを引き離す。


「俺は仇をとらなきゃいけない、アイツらの。アイツらは、俺にとってかけがえない存在……家族みたいなもんだったんだ」

「……」

「一と佳乃は兄妹みたいだった。ミスターもカルロスも、手がかかったけど、大切な存在だった。……俺はあいつ等が、大好きだったんだ。だから、仇をとらないと気が済まない。……お前の言うことは聞けない」

「……蔵人っ」


 ジーナは涙を流して、首を振るう。


「あたし、本当のこと話すから、告白するから、だから行かないで……っ」

「……」

「あたし、本当は革命軍の……」

「スパイ、なんだろう?」

「!!」


 何で知ってるんだって顔してるな。


「俺が知らないとでも思ったのか?」

「……どうして、まさかアンタ、知ってて」

「本当は、中央武力局と革命軍を説得させる理由も考えていた。誰一人死なない方法は、あったんだ。あとはタイミングだけだったんだが、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。……タイミングが悪かったな」

「……ッッ」


 ジーナは俯き、滴をぽたぽたと零す。


「アンタは、ふざけているようで、全部知ってて、全部解決しようと、してたんだッ」

「でも、できなかった。俺は大切なものを沢山失っちまった」


 だからジーナ、と俺は彼女の頭に手を置く。


「俺とクリスが、サムライと戦う。たぶん……いいや、ほとんどの確立で、俺達は戻ってこない」

「!」

「だが、サムライはこの世界から去る。そしたら、お前達は革命を起こすんだ。この世界を、もっといい形にしてくれるって、信じてる」

「くらうど!!」

「じゃあな」

「待って! あたし!」


 俺はジーナを転移陣に組み込む。

 転移場所は、アメリカ本部。

 話は付けている。

 ジーナを保護してくれと。


「待って! くらうどぉ!!」


 泣きじゃくるジーナの顔を見て、俺は顔を俯けた。

 ジーナは転移した。



 ◆◆



 そう、手立てはあったんだ。

 中央武力局と革命軍が戦争をすることなく、世界を平和にできる方法が。

 だがしかし、それには俺という存在が邪魔だった。

 俺が、世界最強の異能力者がいる間、革命軍は中央武力局に手を出せない。

 だから俺は長期に渡って異世界へ出ていた。

 革命軍が出てきやすいように。

 そして、出てきたら、例の作戦を実行に移す予定だった。

 ……何もかも、タイミングが悪かった。

 まさか異世界からバケモノが飛来してくるなんて、誰が予想しようものか。

 俺が甘かった。

 俺が滞在していれば、少なくとも、サムライは最強を殺したことにより、満足して異世界へ旅立ったかもしれない。

 俺だけが犠牲になって、アイツらを守ることができたかもしれない。

 ……俺の、せいなんだ。


 俺が決着を着けなきゃいけない。

 この問題は。


 でも、ジーナの奴を泣かせちまったな。

 俺、本当はアイツのこと好きで……

 いや、いい。

 この想いは、おそらく叶うことはないだろう。


 俺は余計な私情を捨て去り、サムライの元へ赴く。

 サムライは現在指名手配中で、ホテルなどには泊まれない身だ。

 だから、居たのは廃ビルの中だった。

 廃ビルの中を歩いていくと、いた。

 ボロボロのソファーに跨って、酒を飲んでいる。

 既にこっちの存在に気付いているみたいで、口元を不気味に歪めていた。


「これはこれは、極上の獲物がわざわざ自分から現れてくれるなんて、今日はついてるぜ」

「っ」


 巨大な、黒い鬼が舌なめずりしている。

 俺へ手招きしている。

 周囲に群がる魑魅魍魎。


 全てが幻覚だ。

 コイツは身に纏う空気だけで、これだけのビジョンを俺に見せているんだ。


 全身が震える。

 それでも俺はできるだけ感情を表情に出さないようにして。

 ……さっきから俺の首を狙っている第三者に、殺気を飛ばした。


「……兄貴、コイツ、前の奴等とは格が違うな。わくわくするぜ♪」


 大和の後ろに現れた忍装束の美少女は、ケタケタと笑っていた。

 これは驚いた。

 殺気の質からして、歴戦の手練だと思っていたが。

 歴戦の手練なのは間違いないが、少女ということが驚きだった。


「慌てるなよ爪牙。相手さん、どうやら戦うつもりで来たみたいじゃないみたいだぜ」

「……お見通しか、超越者、黒鬼、大和」

「へぇ、俺のこと知ってるのか?」

「アンタ、異世界じゃ結構有名だぜ?」

「ま、好き勝手に暴れてるからなぁ」


 大和は顎を擦りながら、背もたれにもたれかかる。


「で、何の用だ? 話くらい聞いてやるよ」


 よし。

 相手は俺の話を聞いてくれるようだ。

 まず話し合いの場が成立した。

 最初の段階はクリアだ。


「俺はお前を許せない。必ず復讐してみせる」

「それで?」

「だが、俺が本気を出して戦えば、この街が、世界が危ない」

「俺にとってはどうでもいい話だ」


 コイツは、自分の戦闘欲を満たせれば、周囲の存在はどうでもいいのか?

 ますます……

 いいや、怒りを抑えろ。

 交渉をスムーズに進めるんだ。


「明日まで待ってくれ。今、序列二位のクリスが異能でステージを作ってる。アンタと俺達が本気で戦える世界だ。俺達は周りを巻き込みたくない。だから、アンタと全力で戦うことができない。でも、異世界でなら話は別だ。アンタと本気で戦える。……どうだ? 強者を求めてる戦闘狂であるアンタにとっては、悪い話じゃないだろう?」


 俺の言葉に、大和より後ろの爪牙という美少女が反応した。


「テメェ、馬鹿か。何で今から殺す相手の提案なんてうけなきゃなんねぇんだよ」

「……」

「周りのことなんて知ったこっちゃねぇよ」

「……爪牙」

「なぁ、兄貴もそう思うだろ?」

「ばぁか」


 パチンとデコピンされる爪牙。


「~っ、何すんだよ兄貴!」

「俺達の目的は何だ?」

「……強者と戦うこと」

「惜しいな、強者との戦いを楽しむことだ」

「なら、今すぐ楽しめばいいじゃねぇか!」

「ちゃんと相手の話を聞いてたか? 相手は今のままじゃ周りが気になって全力が出せないんだとよ。だから、今ステージを作ってくれてんだって。俺達のために」

「そんなこと言ってたのか!」

「おうよ。周囲のことなんざどうでもいいが、相手が全力を出せないってのは嫌だろう?」

「嫌だ!」

「だったら待ってようぜ。一日くらいあっという間だろう?」

「おう!」


 大和は爪牙の頭を撫でる。


「えへへ~♪ さっすが兄貴! 楽しみ方がよくわかってるな!」

「楽しむためには冷静になることが重要だぜ?」


 大和は微笑んだ後、俺に振り返る。


「ってわけで、俺達は待ってる。なんなら三日くらい待ってもいいぜ?」

「……わかった」

「じゃ、ここで待ってるから。何時でも来いよ。大歓迎だ」


 俺は廃墟を出る。

 ああ、必ず相手してやる。

 そして、封印してやる。

 お前は殺しても蘇ってくる。

 永遠に封印してやる。

 この命、尽き果てても。

 ……一、佳乃、ミスター、カルロス。

 悪い、もう少し待っててくれ。

 もう少ししたら、そっちに行くから。


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