第四証人「七騎士序列一位、佐敷蔵人」
クリスに一と佳乃が殺されたと聞かされた時、気が狂いそうだった。
だから異能をフルに使って、超特急で帰ってきた。
もうこれ以上、仲間を殺させないために。
なのに、ミスターもカルロスも殺されていた。
ジーナだけは無事だった。
俺はサムライの元へ赴く前に、ジーナの部屋に訪れた。
「ジーナ、俺だ。蔵人だ」
「……帰って来てたんだね」
返ってきたのは弱々しい声だった。
俺は唇を噛みしめ、言葉を絞り出す。
「顔を見せてくれ。安否を確認したい」
「嫌だよ。今、あたしメイクしてないし」
「いいから。俺を安心させてくれ」
「……」
ジーナは扉を開けた。
そこには、目に隈を作ったジーナがいた。
俺はたまらず抱きつく。
「よかった……」
「……」
「お前まで殺されてたら、俺は、俺は……っ」
「……らしくないね。何時ものアンタらしくないよ。序列一位さん」
「すまん……俺が出ていなかったら、最悪の事態を防げたかもしれないのに」
「……アンタ、あたしにだけは弱い顔を見せるよね」
ジーナは俺の背中に手を回す。
「ねぇ、これはお願い。あのサムライのところには行かないで」
「……」
「何時もアンタのこと邪見に扱って、酷いこと言ったりしてたけど、アンタが死ぬのは、あたし、嫌なんだ。お願い」
「……ごめんな、ジーナ」
俺はジーナを引き離す。
「俺は仇をとらなきゃいけない、アイツらの。アイツらは、俺にとってかけがえない存在……家族みたいなもんだったんだ」
「……」
「一と佳乃は兄妹みたいだった。ミスターもカルロスも、手がかかったけど、大切な存在だった。……俺はあいつ等が、大好きだったんだ。だから、仇をとらないと気が済まない。……お前の言うことは聞けない」
「……蔵人っ」
ジーナは涙を流して、首を振るう。
「あたし、本当のこと話すから、告白するから、だから行かないで……っ」
「……」
「あたし、本当は革命軍の……」
「スパイ、なんだろう?」
「!!」
何で知ってるんだって顔してるな。
「俺が知らないとでも思ったのか?」
「……どうして、まさかアンタ、知ってて」
「本当は、中央武力局と革命軍を説得させる理由も考えていた。誰一人死なない方法は、あったんだ。あとはタイミングだけだったんだが、まさかこんなことになるなんて思ってもみなかった。……タイミングが悪かったな」
「……ッッ」
ジーナは俯き、滴をぽたぽたと零す。
「アンタは、ふざけているようで、全部知ってて、全部解決しようと、してたんだッ」
「でも、できなかった。俺は大切なものを沢山失っちまった」
だからジーナ、と俺は彼女の頭に手を置く。
「俺とクリスが、サムライと戦う。たぶん……いいや、ほとんどの確立で、俺達は戻ってこない」
「!」
「だが、サムライはこの世界から去る。そしたら、お前達は革命を起こすんだ。この世界を、もっといい形にしてくれるって、信じてる」
「くらうど!!」
「じゃあな」
「待って! あたし!」
俺はジーナを転移陣に組み込む。
転移場所は、アメリカ本部。
話は付けている。
ジーナを保護してくれと。
「待って! くらうどぉ!!」
泣きじゃくるジーナの顔を見て、俺は顔を俯けた。
ジーナは転移した。
◆◆
そう、手立てはあったんだ。
中央武力局と革命軍が戦争をすることなく、世界を平和にできる方法が。
だがしかし、それには俺という存在が邪魔だった。
俺が、世界最強の異能力者がいる間、革命軍は中央武力局に手を出せない。
だから俺は長期に渡って異世界へ出ていた。
革命軍が出てきやすいように。
そして、出てきたら、例の作戦を実行に移す予定だった。
……何もかも、タイミングが悪かった。
まさか異世界からバケモノが飛来してくるなんて、誰が予想しようものか。
俺が甘かった。
俺が滞在していれば、少なくとも、サムライは最強を殺したことにより、満足して異世界へ旅立ったかもしれない。
俺だけが犠牲になって、アイツらを守ることができたかもしれない。
……俺の、せいなんだ。
俺が決着を着けなきゃいけない。
この問題は。
でも、ジーナの奴を泣かせちまったな。
俺、本当はアイツのこと好きで……
いや、いい。
この想いは、おそらく叶うことはないだろう。
俺は余計な私情を捨て去り、サムライの元へ赴く。
サムライは現在指名手配中で、ホテルなどには泊まれない身だ。
だから、居たのは廃ビルの中だった。
廃ビルの中を歩いていくと、いた。
ボロボロのソファーに跨って、酒を飲んでいる。
既にこっちの存在に気付いているみたいで、口元を不気味に歪めていた。
「これはこれは、極上の獲物がわざわざ自分から現れてくれるなんて、今日はついてるぜ」
「っ」
巨大な、黒い鬼が舌なめずりしている。
俺へ手招きしている。
周囲に群がる魑魅魍魎。
全てが幻覚だ。
コイツは身に纏う空気だけで、これだけのビジョンを俺に見せているんだ。
全身が震える。
それでも俺はできるだけ感情を表情に出さないようにして。
……さっきから俺の首を狙っている第三者に、殺気を飛ばした。
「……兄貴、コイツ、前の奴等とは格が違うな。わくわくするぜ♪」
大和の後ろに現れた忍装束の美少女は、ケタケタと笑っていた。
これは驚いた。
殺気の質からして、歴戦の手練だと思っていたが。
歴戦の手練なのは間違いないが、少女ということが驚きだった。
「慌てるなよ爪牙。相手さん、どうやら戦うつもりで来たみたいじゃないみたいだぜ」
「……お見通しか、超越者、黒鬼、大和」
「へぇ、俺のこと知ってるのか?」
「アンタ、異世界じゃ結構有名だぜ?」
「ま、好き勝手に暴れてるからなぁ」
大和は顎を擦りながら、背もたれにもたれかかる。
「で、何の用だ? 話くらい聞いてやるよ」
よし。
相手は俺の話を聞いてくれるようだ。
まず話し合いの場が成立した。
最初の段階はクリアだ。
「俺はお前を許せない。必ず復讐してみせる」
「それで?」
「だが、俺が本気を出して戦えば、この街が、世界が危ない」
「俺にとってはどうでもいい話だ」
コイツは、自分の戦闘欲を満たせれば、周囲の存在はどうでもいいのか?
ますます……
いいや、怒りを抑えろ。
交渉をスムーズに進めるんだ。
「明日まで待ってくれ。今、序列二位のクリスが異能でステージを作ってる。アンタと俺達が本気で戦える世界だ。俺達は周りを巻き込みたくない。だから、アンタと全力で戦うことができない。でも、異世界でなら話は別だ。アンタと本気で戦える。……どうだ? 強者を求めてる戦闘狂であるアンタにとっては、悪い話じゃないだろう?」
俺の言葉に、大和より後ろの爪牙という美少女が反応した。
「テメェ、馬鹿か。何で今から殺す相手の提案なんてうけなきゃなんねぇんだよ」
「……」
「周りのことなんて知ったこっちゃねぇよ」
「……爪牙」
「なぁ、兄貴もそう思うだろ?」
「ばぁか」
パチンとデコピンされる爪牙。
「~っ、何すんだよ兄貴!」
「俺達の目的は何だ?」
「……強者と戦うこと」
「惜しいな、強者との戦いを楽しむことだ」
「なら、今すぐ楽しめばいいじゃねぇか!」
「ちゃんと相手の話を聞いてたか? 相手は今のままじゃ周りが気になって全力が出せないんだとよ。だから、今ステージを作ってくれてんだって。俺達のために」
「そんなこと言ってたのか!」
「おうよ。周囲のことなんざどうでもいいが、相手が全力を出せないってのは嫌だろう?」
「嫌だ!」
「だったら待ってようぜ。一日くらいあっという間だろう?」
「おう!」
大和は爪牙の頭を撫でる。
「えへへ~♪ さっすが兄貴! 楽しみ方がよくわかってるな!」
「楽しむためには冷静になることが重要だぜ?」
大和は微笑んだ後、俺に振り返る。
「ってわけで、俺達は待ってる。なんなら三日くらい待ってもいいぜ?」
「……わかった」
「じゃ、ここで待ってるから。何時でも来いよ。大歓迎だ」
俺は廃墟を出る。
ああ、必ず相手してやる。
そして、封印してやる。
お前は殺しても蘇ってくる。
永遠に封印してやる。
この命、尽き果てても。
……一、佳乃、ミスター、カルロス。
悪い、もう少し待っててくれ。
もう少ししたら、そっちに行くから。