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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第七章・超能力編2》
27/48

第三証人「七騎士序列二位・クリス」

 俺は七騎士の序列一位を連れ戻しに異世界へ渡っていた。

 そして、予定よりも大分早く序列一位を見つけ、元の世界へ戻ってきた。


「何だ……何が起こったというんだ!!」


 中央武力局の本部は滅茶苦茶になっていた。

 半分、瓦礫の山と化していた。


「クリス様!」


 構成員の一人が走ってくる。


「状況を説明しろ!」

「はっ、サムライです。以前襲撃してきたサムライがまた現れたんです」

「サムライだと!? ソイツはミスターが殺した筈だろう!」

「それが、私共も詳細がわからず……」

「……ミスターの奴は何処だ!」


 奴め。

 サムライと手を組んでいたのか?

 サムライを殺したという報告は、偽りだったのか?

 以前から警戒していたが……


「ミスター様は殺されました」

「……何だと?」

「ミスター様だけではありません、カルロス様も殺されました」

「……」


 俺は頭を抑える。

 馬鹿な、そんな馬鹿な……

 七騎士が二名も殺されただと?

 そんなことが……


「ジーナは、ジーナはどうなんだ?」

「生きています。が、部屋に引き籠もっています。何かに怯えているようで」

「……」


 クソ。

 何だと言うのだ、一体。

 何者なんだ、そのサムライは!


「ふぅん、サムライねぇ」


 隣にいた、赤髪を後ろで結った青年は顎をさすった。


「もしかしてソイツ、褐色肌でギザ歯で、緋色のマントを羽織ってない?」

「御存知なのですか?」

「わぉ、もしかしてビンゴ? クリス。これぁマジでヤバいぜ」

「……お前は何を知っているんだ。蔵人(くらうど)


 序列一位、最強のジーニアス、佐敷蔵人は語った。


「剣鬼だよ。強者を求めて異世界を徘徊する人斬り。最強最悪のサムライだ」



 ◆◆



「俺はよく異世界へ遊びに行くだろう? そうするとよく聞くんだ。超越者の噂をな」

「超越者?」


 無事だった会議室で。

 俺が首を傾げると、蔵人は頭をかいた。


「ちょっと話が長くなるぜ? 大丈夫か」

「なるべく手短に頼む」

「あいよ。超越者。超えてはいけない枠を超えてしまった人間。森羅万象の理から外れてしまった人外。三千世界の理に縛られないバグ、チートだ」

「バグ、チート。お前よりその言葉を冠するに相応しい者たちがいるというのか?」

「いるさ。世界は広い。特に異世界合わせた三千世界ってのは、俺でも把握できないくらい広大だ」

「……」

「超越者はマジでヤバい。下手したら俺でも勝てないかもしれない」


 佐敷蔵人。

 最強のジーニアス、無敵の異能力者。

 宿している異能「万能」は全知全能一歩手前という、反則のような力だ。

 性格は高慢不遜、唯我独尊。

 自身の力に絶対の自信を持つコイツが……

 こんな弱気な発言をするとはな。


「超越者は全員で十人いる。いいや、十人しかいないと言ったほうがいいか? 三千世界にたった十人しかいないんだ」

「今回中央武力局を襲ったのは……」

「『黒鬼』の大和だ」

「大和……」

「大和は超が何個もつく戦闘狂で、強者との闘争しか興味がない。強者を殺すことを生き甲斐にし、異世界を渡り歩いている。アイツが過ぎ去った後に、強者と呼べるものは残らない」

「……」

「大和は明確な悪意を持って事を成しているわけじゃない。ただ強者と戦いたいだけ。そこに善も悪もない。だから救われた世界だってあるし、滅びた世界もある。英雄と称えられることもあれば、天災と恐れられる場合もある。……まぁ、圧倒的に被害が大きいから、賞金首にもなっているんだが」

「……よく知っているな」

「俺の異能「万能」と異世界飛び回っている知識あれば、これくらいの情報はゲットできる」

「であれば、大和の弱点はわかるのか?」

「わかるよ」

「何だ」

「奴は強者との戦いを楽しみたいから、あえて自分の力をセーブしているんだ。で、その状態は一般人と大して変わらない。この時なら殺せる。実際、奴は油断して何回も殺されているらしい。そのたびに冥界に落ちて、舞い戻ってくるバケモノではあるが。殺せないわけじゃない」

「……ならば、ミスターは本当に奴を殺して、奴は冥界から戻ってきたというわけか?」

「そゆこと。ま、ジーナの完全催眠とのコンボは良かったかもしれないが、惜しいな。殺さずに封印すればよかったんだ。俺ならできたのに」

「そうだな、お前が異世界漫遊なんてしてなければ、今頃七騎士の面々は死ななかっただろうな」

「てへぺろ、ごめんねごめんねー」

「殺されたいのか」

「すまんすまん。ま、それよりもこれからどうするかだな。大和は間違いなく俺達を殺しに来る。今のところ、俺達とジーナ以外全員殺されたんだろう?」

「ああ」

「ジーナを殺さなかった理由は大方予想がつく。あいつは異能がなければただの女の子だからな」

「……つまり」

「まともに戦える奴以外は興味の対象外ってことだ。そして、ジーナの異能はもう攻略されていると思って間違いない。前のような手は使えない。無論、俺がジーナと同じことをやっても無駄だろう。サムライ、大和も馬鹿じゃない。俺達と戦う時は完全には油断しないはずだ」

「……厳しいな」

「だが、大和が俺達の情報を知っているとは限らない。戦闘狂な性格だから、あえて情報を知らないようにしているかもしれない」

「……」

「どうする? 俺とコンビを組んで、奴を仕留めるか?」

「……そうだな。それが一番効率的だな」


 これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。

 最善を尽くす。


「なら、俺に提案がある」

「何だ」

「提案というより作戦だな。これ以上無駄な犠牲者を増やさないために、俺達だけで奴を倒す方法だ」

「……聞かせてくれ」

「まず、大和は絶対近日中に俺達を殺しに来る。俺達は全力で対抗する。そうすると、この街は、いいや日本は、世界はどうなる?」

「……」

「手加減すれば殺されるのはこっちだ。手加減なんてできない。だが、本気を出せば大和を倒す前に星が滅ぶ。それを避けるにはクリス、お前の力が必要不可欠だ」

「俺の?」

「そうさ。お前の異能、「次元干渉」で頑丈かつ広大な異世界を構築するのにどれくらい時間が必要だ」

「……大きさによるが、過激な戦闘を考えると、丸一日はかかるな」

「やはり一日かかるか。事は一刻を争う。半日でできないか?」

「無理を言うな。ゼロから世界を作るのがどれだけ大変な作業かわかっているのか?」

「俺も手伝ったら半日で終わるか?」

「……まぁ、それなら」

「でも無理だ。いざって時に俺かお前か、どちらか動けるようにしなきゃなんない。俺よりお前のほうが空間作成は得意だ。必然的に、お前一人でやってもらうことになる」

「なら、どうするんだ?」

「俺が大和に交渉する。一日待ってくれってな」

「!? 馬鹿かお前は!」

「いや、これが一番確実な方法だ。思い出せ、大和の性格を」

「……戦闘狂」

「そう、強者と戦うことしか興味のない奴だ。俺は奴にこう交渉する。全力で戦える舞台を準備しているから、一日待っていて欲しい、と」

「……いや、やはり危険だ。それで戦闘になったらどうする」

「それはその時だ。俺が全力で大和を足止めする。できる限り周囲の被害は減らすが、最低限の犠牲は覚悟してくれ」

「……他に、もっといい方法はないのか」

「最良の方法なんて、現実には存在しない。失うものは必ずある。大切なのは、どれだけ多くの人数を守れるかだ」

「……!」


 ……やれやれ。

 俺も、馬鹿になったな。


「まさかお前に説教されるとはな」

「お前は生真面目すぎるんだよ。適度にリラックスしてれば、答えはおのずと見えてくる。……全てを守ろうとするな。そんなことできるはずがない。だが手は抜けとは言ってない。全力を尽くそうぜ」

「ああ」


 蔵人は踵を返す。


「俺は大和のところに行ってくる。クリス、早速頼んだぜ」

「……死ぬなよ、蔵人」


 俺の言葉に、蔵人はカラッと笑ってみせた。


「何言ってんだよ、俺が死ぬ筈ねぇだろ。何せ俺は序列一位、最強のジーニアスだからな」


 蔵人は去っていく。

 俺は後になって気付く。

 蔵人は適当に見えて、実は穏やかで面倒見のいい男だ。

 死んだ一や佳乃のことを可愛がっていた。

 曲者のジーナやカルロス、ミスターとも仲が良かった。

 蔵人の自由奔放さ、唯我独尊具合に七騎士の皆は呆れながらも、慕い、その背中に憧れていた。

 かくいう俺もそうだ。

 だからだろうか。

 蔵人が七騎士の面々を殺されて、平然としている筈がなかった。

 蔵人……。

 お前は実は、誰よりも憤っているんじゃないか?

 我慢しているんじゃないか?

 ……だとしたら、俺は俺の役目を全うするだけだ。

 蔵人が我慢しているんだ。

 俺も我慢する。

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