第三証人「七騎士序列二位・クリス」
俺は七騎士の序列一位を連れ戻しに異世界へ渡っていた。
そして、予定よりも大分早く序列一位を見つけ、元の世界へ戻ってきた。
「何だ……何が起こったというんだ!!」
中央武力局の本部は滅茶苦茶になっていた。
半分、瓦礫の山と化していた。
「クリス様!」
構成員の一人が走ってくる。
「状況を説明しろ!」
「はっ、サムライです。以前襲撃してきたサムライがまた現れたんです」
「サムライだと!? ソイツはミスターが殺した筈だろう!」
「それが、私共も詳細がわからず……」
「……ミスターの奴は何処だ!」
奴め。
サムライと手を組んでいたのか?
サムライを殺したという報告は、偽りだったのか?
以前から警戒していたが……
「ミスター様は殺されました」
「……何だと?」
「ミスター様だけではありません、カルロス様も殺されました」
「……」
俺は頭を抑える。
馬鹿な、そんな馬鹿な……
七騎士が二名も殺されただと?
そんなことが……
「ジーナは、ジーナはどうなんだ?」
「生きています。が、部屋に引き籠もっています。何かに怯えているようで」
「……」
クソ。
何だと言うのだ、一体。
何者なんだ、そのサムライは!
「ふぅん、サムライねぇ」
隣にいた、赤髪を後ろで結った青年は顎をさすった。
「もしかしてソイツ、褐色肌でギザ歯で、緋色のマントを羽織ってない?」
「御存知なのですか?」
「わぉ、もしかしてビンゴ? クリス。これぁマジでヤバいぜ」
「……お前は何を知っているんだ。蔵人」
序列一位、最強のジーニアス、佐敷蔵人は語った。
「剣鬼だよ。強者を求めて異世界を徘徊する人斬り。最強最悪のサムライだ」
◆◆
「俺はよく異世界へ遊びに行くだろう? そうするとよく聞くんだ。超越者の噂をな」
「超越者?」
無事だった会議室で。
俺が首を傾げると、蔵人は頭をかいた。
「ちょっと話が長くなるぜ? 大丈夫か」
「なるべく手短に頼む」
「あいよ。超越者。超えてはいけない枠を超えてしまった人間。森羅万象の理から外れてしまった人外。三千世界の理に縛られないバグ、チートだ」
「バグ、チート。お前よりその言葉を冠するに相応しい者たちがいるというのか?」
「いるさ。世界は広い。特に異世界合わせた三千世界ってのは、俺でも把握できないくらい広大だ」
「……」
「超越者はマジでヤバい。下手したら俺でも勝てないかもしれない」
佐敷蔵人。
最強のジーニアス、無敵の異能力者。
宿している異能「万能」は全知全能一歩手前という、反則のような力だ。
性格は高慢不遜、唯我独尊。
自身の力に絶対の自信を持つコイツが……
こんな弱気な発言をするとはな。
「超越者は全員で十人いる。いいや、十人しかいないと言ったほうがいいか? 三千世界にたった十人しかいないんだ」
「今回中央武力局を襲ったのは……」
「『黒鬼』の大和だ」
「大和……」
「大和は超が何個もつく戦闘狂で、強者との闘争しか興味がない。強者を殺すことを生き甲斐にし、異世界を渡り歩いている。アイツが過ぎ去った後に、強者と呼べるものは残らない」
「……」
「大和は明確な悪意を持って事を成しているわけじゃない。ただ強者と戦いたいだけ。そこに善も悪もない。だから救われた世界だってあるし、滅びた世界もある。英雄と称えられることもあれば、天災と恐れられる場合もある。……まぁ、圧倒的に被害が大きいから、賞金首にもなっているんだが」
「……よく知っているな」
「俺の異能「万能」と異世界飛び回っている知識あれば、これくらいの情報はゲットできる」
「であれば、大和の弱点はわかるのか?」
「わかるよ」
「何だ」
「奴は強者との戦いを楽しみたいから、あえて自分の力をセーブしているんだ。で、その状態は一般人と大して変わらない。この時なら殺せる。実際、奴は油断して何回も殺されているらしい。そのたびに冥界に落ちて、舞い戻ってくるバケモノではあるが。殺せないわけじゃない」
「……ならば、ミスターは本当に奴を殺して、奴は冥界から戻ってきたというわけか?」
「そゆこと。ま、ジーナの完全催眠とのコンボは良かったかもしれないが、惜しいな。殺さずに封印すればよかったんだ。俺ならできたのに」
「そうだな、お前が異世界漫遊なんてしてなければ、今頃七騎士の面々は死ななかっただろうな」
「てへぺろ、ごめんねごめんねー」
「殺されたいのか」
「すまんすまん。ま、それよりもこれからどうするかだな。大和は間違いなく俺達を殺しに来る。今のところ、俺達とジーナ以外全員殺されたんだろう?」
「ああ」
「ジーナを殺さなかった理由は大方予想がつく。あいつは異能がなければただの女の子だからな」
「……つまり」
「まともに戦える奴以外は興味の対象外ってことだ。そして、ジーナの異能はもう攻略されていると思って間違いない。前のような手は使えない。無論、俺がジーナと同じことをやっても無駄だろう。サムライ、大和も馬鹿じゃない。俺達と戦う時は完全には油断しないはずだ」
「……厳しいな」
「だが、大和が俺達の情報を知っているとは限らない。戦闘狂な性格だから、あえて情報を知らないようにしているかもしれない」
「……」
「どうする? 俺とコンビを組んで、奴を仕留めるか?」
「……そうだな。それが一番効率的だな」
これ以上、犠牲者を出すわけにはいかない。
最善を尽くす。
「なら、俺に提案がある」
「何だ」
「提案というより作戦だな。これ以上無駄な犠牲者を増やさないために、俺達だけで奴を倒す方法だ」
「……聞かせてくれ」
「まず、大和は絶対近日中に俺達を殺しに来る。俺達は全力で対抗する。そうすると、この街は、いいや日本は、世界はどうなる?」
「……」
「手加減すれば殺されるのはこっちだ。手加減なんてできない。だが、本気を出せば大和を倒す前に星が滅ぶ。それを避けるにはクリス、お前の力が必要不可欠だ」
「俺の?」
「そうさ。お前の異能、「次元干渉」で頑丈かつ広大な異世界を構築するのにどれくらい時間が必要だ」
「……大きさによるが、過激な戦闘を考えると、丸一日はかかるな」
「やはり一日かかるか。事は一刻を争う。半日でできないか?」
「無理を言うな。ゼロから世界を作るのがどれだけ大変な作業かわかっているのか?」
「俺も手伝ったら半日で終わるか?」
「……まぁ、それなら」
「でも無理だ。いざって時に俺かお前か、どちらか動けるようにしなきゃなんない。俺よりお前のほうが空間作成は得意だ。必然的に、お前一人でやってもらうことになる」
「なら、どうするんだ?」
「俺が大和に交渉する。一日待ってくれってな」
「!? 馬鹿かお前は!」
「いや、これが一番確実な方法だ。思い出せ、大和の性格を」
「……戦闘狂」
「そう、強者と戦うことしか興味のない奴だ。俺は奴にこう交渉する。全力で戦える舞台を準備しているから、一日待っていて欲しい、と」
「……いや、やはり危険だ。それで戦闘になったらどうする」
「それはその時だ。俺が全力で大和を足止めする。できる限り周囲の被害は減らすが、最低限の犠牲は覚悟してくれ」
「……他に、もっといい方法はないのか」
「最良の方法なんて、現実には存在しない。失うものは必ずある。大切なのは、どれだけ多くの人数を守れるかだ」
「……!」
……やれやれ。
俺も、馬鹿になったな。
「まさかお前に説教されるとはな」
「お前は生真面目すぎるんだよ。適度にリラックスしてれば、答えはおのずと見えてくる。……全てを守ろうとするな。そんなことできるはずがない。だが手は抜けとは言ってない。全力を尽くそうぜ」
「ああ」
蔵人は踵を返す。
「俺は大和のところに行ってくる。クリス、早速頼んだぜ」
「……死ぬなよ、蔵人」
俺の言葉に、蔵人はカラッと笑ってみせた。
「何言ってんだよ、俺が死ぬ筈ねぇだろ。何せ俺は序列一位、最強のジーニアスだからな」
蔵人は去っていく。
俺は後になって気付く。
蔵人は適当に見えて、実は穏やかで面倒見のいい男だ。
死んだ一や佳乃のことを可愛がっていた。
曲者のジーナやカルロス、ミスターとも仲が良かった。
蔵人の自由奔放さ、唯我独尊具合に七騎士の皆は呆れながらも、慕い、その背中に憧れていた。
かくいう俺もそうだ。
だからだろうか。
蔵人が七騎士の面々を殺されて、平然としている筈がなかった。
蔵人……。
お前は実は、誰よりも憤っているんじゃないか?
我慢しているんじゃないか?
……だとしたら、俺は俺の役目を全うするだけだ。
蔵人が我慢しているんだ。
俺も我慢する。