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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第七章・超能力編2》
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第二証人「七騎士序列三位・ミスター」

 私はカルロスさんを部屋に招待し、最近見るサムライの悪夢について愚痴っていた。

 酒を一緒に飲みながら、カルロスさんは嫌な顔一つせず聞いてくれた。

 助かる。

 最近、数日前に殺したサムライが、私の夢の中に出てきて殺しにくるのだ。

 全力で対抗している。

 しかし、負けてしまう。

 私が目覚める時は、殺された瞬間だった。


「む……」

「なんだろうね。頭のモヤモヤがとれたような……」

「カルロスさんも感じましたか」

「うん」


 私逹は首を傾げた。

 この憑き物が落ちたような感覚……

 私だけが体験するならまだしも、カルロスさんまで感じるということは。

 考えられるのは、完全催眠の異能を持つジーナさんが催眠を解いた。

 憶測に過ぎないが、信憑性は高いと思う。

 どちらにせよ、ジーナさんに直接聞いたほうがいいだろう。

 返答によっては……まぁ、少し話し合いをしなければならない。


「カルロスさん」

「うん☆ ジーナちゃんのところに行くんでしょ?」

「察しがよくて助かります」


 私逹は立ち上がる。

 すると、扉が開いた。

 訪問者か? 

 首を傾げていると……私逹は、信じられないものを目にした。

 扉の前に立っていたのは、なんと、数日前に殺したサムライだったのだ。


「よぉ、テメェ等、俺を殺した異能者だな」


 口角を吊り上げ、サムライは私逹を鑑定するかのような視線を向けてくる。


「ふむ、ふむ、あのお嬢ちゃんとは違って、期待できそうだ」


 サムライは頷きながら、適当な椅子に腰掛けた。


「……あなた、どうして生きているんですか?」

「冥界ってのも中々楽しいところでよ。遊んでたら何時の間にか罪を精算し終えてたってわけよ」

「……」


 冗談で言っているのか。

 真偽を確かめるべく、私は更に質問を重ねようとするが、


「その前に、サムライさん。そちらの連れですか? 先程から私逹の首を虎視眈々と狙っている何者かは」

「……爪牙、隠れてないで出てこい」

「あーい」


 サムライの影から少女が出てきた。

 その可憐な顔に不釣り合いな凶悪な笑みを浮かべている。


「いやぁ、兄貴。コイツ等中々やるよ。五回殺そうとしたのに、五回とも避けやがった」

「遊ぶのは大概にしろよ。俺とお前、一人ずつだ」

「オーケー」


 爪牙と呼ばれた少女は適当に酒瓶を取って呷り始める。

 サムライはさて、と足を組んで、私逹に笑いかけてきた。


「もう質問はいいか? じゃあ、殺し合おう。俺達はそのために来たんだ」

「待ってください。先程の質問に真面目に答えてください。あなたは私が確実に殺したはずだ」

「俺は冗談で言ったつもりはなかったんだが……なぁ、爪牙」

「でも兄貴ぃ、冥界行ったことない奴等からしたら、冗談にも聞こえるだろ」

「あ、そっか」


 サムライはやれやれと肩を竦める。


「ま、そんなことぁどうでもいいだろう? 俺逹がここにいて、お前等がいる。それだけじゃねぇか」

「……」

「さっさと殺し合いしようぜ」


「……」

「……」

「……」

「……」


 刹那、カルロスさんと爪牙が消えた。


「はっはー!! 兄貴、こいつは俺が貰っていくぜ!!」

「ミスターさん。僕はこの子とちょっと遊んでくるよ☆」


 そのまま壁をぶち抜いて、隣の部屋へ行ってしまった。

 私とサムライは、まだ行動を起こしていない。


「よし、じゃ、俺達もやるか」

「……そうですね」


 サムライはゆっくりと刀を抜く。

 私も拳をかまえた。


「ボクシングか?」

「まぁ、ね」

「……能力は使わねぇのか? 異能力者だろう」

「最初は小手調べですよ」

「ふむ……」


 サムライは顎をさする。


「じゃ、さっさと本気にさせますか」


 サムライと私の拳が、瞬時に交差した。



 ◆◆



 ここ数日、夜な夜な見る悪夢の根源が、死から舞い戻ってきた。

 嫌な予感はしていた。

 夢の中で私を殺しに来るこのサムライは、私がどうあがいても、最後には首を飛ばしてく。

 安定剤と睡眠薬を過剰摂取しても、悪夢が消えることはなかった。

 このサムライをもう一度殺せば、消えるのか?

 だとすれば、殺すしかない。


「シッ」


 ジャブを一呼吸に10発放つ。

 サムライは手でそれら全てを払いのけてから、荒々しい突きを放ってきた。


 ヘッドスリップで避けるが、そのまま刃を寝かせて横に薙いでくる。

 私はしゃがんで、そのまま巻き込むようにアッパーを放った。

 完全に懐に入った。

 当たる。


「!」


 サムライもヘッドスリップで避けてきた。

 しかし、まだ私の射程圏内だ。

 逃がしはしない。

 そう思ってガードを上げて突撃すると、サムライが脇差を抜きはなった。

 咄嗟に避けるが、頬を掠め鮮血が飛び散る。


「ククク」


 そこからはサムライの一方的なゲームだった。

 サムライは以降私を懐に入らせることなく、二刀を巧みに扱いながら波濤の如き攻めを展開してくる。

 相手の得物は刃物。

 掠っただけで致命傷になるので、避けるしかない。

 しかし、サムライは逃がしてくれそうにない。

 徐々に追い詰められる。

 仕方無い。


「おっと」


 サムライがバックステップを踏む。

 惜しい、刀ごと消滅させようと思ったのに。


「ふむふむ、テメェの周りに漂うオーラ。危険なニオイがぷんぷんするぜ」

「消し飛ばしてあげますよ」


 私は突撃する。

 サムライは私を斬ろうとするが、躊躇い後退する。

 敵ながら、いい判断だ。

 今の私に触れれば、あらゆる物質は消滅する。

 分子間結合分解能力。

 絶対的攻撃力であり、絶対防御力を誇る私の異能は、物理戦ではほぼ無敵。

 サムライはおそらく物理攻撃タイプ。

 私との相性は最悪と言っていい。

 しかし、戦闘で油断は禁物。

 私はジャブを連打し、出方をうかがう。


「えげつねぇな、ジャブが一撃必殺クラスになってらぁ。触れたものを粉々どころか完全に消滅させる異能。……相性が悪いな」


 サムライはそう言いながらもきちんと避けている。

 そして私のことをじっと観察していた。


「試してみるか」


 サムライは刀にオーラのようなものを纏い、ガードの体勢に入る。

 私はここぞとばかりに渾身の右ストレートを放った。

 火花が散り、サムライの刀身が私の拳を受け止める。


「馬鹿な!?」

「やっぱり気は万能だな。異能に対しても効果を発揮するみてぇだ」


 そうとわかれば話が早いと、サムライは一気に攻勢に出てきた。

 一瞬避けるか避けまいか悩んだが、絶対的防御力を誇っている今の状態でも、サムライのあのオーラを纏った刀を無防備で受けるのは躊躇いがあった。

 避けていると、刀の先が服を掠める。

 服は当然のように斬り裂かれた。

 やはり……


「私の異能が無効化されている」

「残念だったな」


 しかしだ、とサムライは朗らかに笑う。


「これで一方的な蹂躙から五分五分になったわけだ。だから、愉しもうぜ。なぁ、なぁ、お前、目が最高にクールなんだよ。普通じゃねぇ。かと言って、俺達みたいな戦闘狂じゃねぇ。もっとクレイジーな目だ。……人を殺すのは好きか?」

「愚問ですね……」


 私は笑ってみせる。


「万象総ては朽ちるもの、壊れるものです。私は森羅万象の法則の代弁者に過ぎませんよ。その自負もある」

「つまり、万物壊すの大好き野郎ってことか?」

「そうですね」

「ハハッ、じゃあ俺も壊してみろよ!」

「言われずとも!」


 拳を握りしめ、振るう。

 互いに一撃必殺の威力を持っているので、防御は全て回避だ。

 私は何時の間にか、口元に笑みを浮かべていた。

 狂気の笑みを。


「ふふふ、ははははは。ここまで苦戦したのは久しいですね!」

「もっとだ! もっと来い!」

「ですがねぇ! 私は一方的な破壊行為が好きなんですよ! いい加減、死になさい!」

「嫌だね! もっと愉しもうぜ! 踊ろうぜ!」


 サムライは本当に楽しそうに剣を振るっている。

 彼に出来た一瞬の隙を見逃さず、私は懐に入り込んだ。

 そして、ボディーブローを放つ。


「ごふっ」


 サムライの身体がくの字に曲がった。

 やはり、身体にも気というものを纏っていたか。

 なら、物理攻撃で圧倒するしかない。

 アッパーを放つ。

 サムライの顎が跳ね上がった。

 そこから縦横無尽、怒濤の連撃に入る。

 ワンツー、フック、アッパー、連打に連打を加える。

 コンビネーションの連続にサムライの顔が四方に弾けるが、逃がしはしない。


「終わりです」


 私は息の根を止める最高の右ストレートを額に放とうとするが……

 サムライは頭突きをしてきた。

 カウンターで威力が私の拳に全て集約され、骨が砕ける。


「ぐぁぁ!!?」

「ぬるい。ぬるい拳だぜ。異能に任せている分、ヒットすることを優先させた、力の入ってねぇ拳だ。そんなんじゃ、人を殺すことはできねぇぜ?」


 サムライは唇に血を浮かべながら、獰猛に笑ってみせる。


「パンチってのはなぁ」


 サムライは刀を地面に突き刺し、瞬時に私の目の前に現れる。


「こう打つんだよ!」


 サムライの拳が頬に当たった瞬間、視界が一回転する。


「……は?」


 意味がわからなかった。

 しかし、首に違和感を感じる。

 触れると、首がねじれていた。

 ……あまりの威力に、首が一回転したのか?

 そう気付いた時、私の意識は途絶えた。



 ◆◆



「あれま、パンチの仕方を教えようとしただけなんだが、脆いな。もうちょっと楽しもうと思っていたのに。やはり、手加減は難しい」


 俺は刀をしまうと、爪牙を探しにいく。

 物理的に開かれた穴を進んでいくと、いた。

 爪牙は、さっきのピエロの上に跨がり、顔に鋼爪を突き刺し続けていた。


「ははっ!! オラオラオラァ!! ひひっ、はははははははは!!!!」

「爪牙」

「おう兄貴!! こっちは終ったぜ♪」


 振り返ってにっこりと笑う爪牙。

 顔面は返り血で紅く染まっている。

 はぁ。


「こっち来い」

「?」


 ったく。


「楽しむのはいいが、血は臭いがつくぜ。程々にな」


 顔をハンカチで吹いてやると、爪牙は嬉しそうにする。


「あのピエロ、喋り方ウザいから串刺しにしてたんだ!」

「……」


 ピエロ……だった奴の顔面は、無惨な肉の塊に成り果てていた。

 爪牙は俺と違って成長の途中段階だから、手加減なんてしなかっただろう。

 残念だったな。

 俺が相手なら、お前はもう少し生きながらえただろうに。

 ただ、爪牙に傷らしい傷は一つも見当たらない。

 このピエロは、所詮その程度だったってことだ。

 だったら興味はない。

 強者以外に、興味はない。


「じゃあ、残りの強い奴を探しに行くぞ。今度はもっと余裕を持って、戦闘を楽しめ」

「おう! わかった!」


 俺達は部屋を後にした。

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