第一証人「七騎士序列五位、ジーナ」
あたしはスマホである組織とメールのやり取りをしていた。
ジーナ どう? いけそう?
組織の重鎮 いや、まだ危険だ。序列二位が残っている。
ジーナ その序列二位が序列一位、アイツを呼び戻しに異世界へ渡っている。今がチャンスでしょ?
組織の重鎮 ううむ。
ジーナ 恐らく一ヶ月近くはかかるって言ってた。だからさっさと準備して、本部襲撃しちゃいなさい。こっちはもう準備整ってるんだから。
組織の重鎮 序列四位。いいや、今は三位だったか。奴はどうするつもりだ?
ジーナ ああ、ミスターさん? 彼ならもう催眠にかけてるわよ。
組織の重鎮 本当か!?
ジーナ 彼、物理特化なだけで、催眠耐性がないから。でも序列二位と一位は無理。二位はやろうと思えばいけなくはないけど、五分五分。アイツ時間を止められるから。それに、信用されてないみたいだし。あたし、危険な橋は渡りたくないんだよね~。一位は論外。あのバケモノ、あたしの催眠弾き返すんだもん。
組織の重鎮 ……。
ジーナ ともかく、幻術が効かなくて厄介だった元序列三位、はじめっちがいなくなったから、格段にやりやすくなった。他の七騎士、序列四位のカルロスちゃんもあたしで抑えてるから、さっさと武装集団整えちゃってよ。
組織の重鎮 本当に信用していいんだな?
ジーナ ここまでさせておいてまだ信用されてないとか、心外なんですけどー。アンタ等には孤児院の子供たちが世話になってる。それに、願う夢も一緒。ジーニアスの支配する世界じゃない。全ての人間が平等な世界を作る。あたしはその夢にかけてるんだ。だから、あんた逹ももうちょっと本気になってよ。
組織の重鎮 わかった。二日以内に部隊を整える。頼んだぞ。
ジーナ 了解りょーかーい♪
メールが終る。
はぁ、全く、頭が固いお役人様方を説得するには骨が折れるにゃー。
あたしは、今の世界が憎い。
ジーニアスじゃないってだけで差別されて、蔑まれるなんて、そんなの間違ってる。
だから、変えてやるんだ。
革命を起こしてやるんだ。
これは復讐でもある。
強力な異能を持って生まれたことにより、幼少の頃から両親と引き離され、洗脳に近い教育を受けさせた、中央武力局への。
そう、これは他のジーニアスのためでもあるのだ。
全ての人間が平等になれば、異能とか関係なしに、対等な関係で手を取り合うことができれば。
世界はもっと平和になるはずだ。
異能犯罪も減少するはずだ。
そう信じて、あたしは今、革命の最先端に立っている。
今が絶好の好機なのだ。
最も危険な序列二位と一位が外出している。
厄介だった序列三位はこの前のサムライに殺された。
あとはあたしの幻術でちょちょいのちょい。
楽勝にゃー。
でも、あたし自身に戦う力はないから、革命軍に任せるしかないんだよねー。
ミスターさんとカルロスさん暴れさせればそれでしまいなんだけど、革命は革命軍がやってこそ意味があるから。
あたしは影。
いてはいけない存在。
英雄譚に記されてはいけない存在。
だから、表立って活躍できないんだねぇ。
めんどっちーけど、世界が平和になると思えば、なんのなんの。
頑張っちゃうにゃー。
「ふぅん」
さてさて、パソコンを閉じて、甘いものでも摂取するかねー。
甘いもの甘いもの~。
……って。
「のわぁ!!?」
隣に誰かいた。
あたしは急いで飛び退く。
その誰かは、信じられない奴だった。
「よぉ、久々だな。お嬢ちゃん」
「アンタ……この前のサムライっ。どうして!? 死んだ筈じゃあ!」
「冥界から戻ってきたぜ。テメェ等に復讐するためにな」
「ッ」
そんな、ありえない。
死者が蘇るなんて、そんなこと。
……!? まさかミスターさんが殺したとみせかけて、わざと逃がしていた?
いいや、あの人の脳内は隅々まで調べた。
そんな形跡は一切無かった。
だとしたら。
本当に……
「さっきからずっと隣にいるのに、お嬢ちゃん気付かずにずっとメールしてんだもんよぉ。おもわず欠伸が出ちまったぜ」
欠伸をする素振りを見せながら口角を吊り上げるサムライ。
し、しかたない。
催眠をかけて……
「下手な真似したら殺す」
背後から冷たいものを首筋に当てられた。
見ると、鋼の爪だった。
「動いても殺す。ただ喋れ。喋る以外のことをしたら首元かっさばく。わかったら返事しろ」
「……わ、わかったわ」
女の子の声だった。
しかし振り返れない。
あたしは冷や汗を身体中にかきながら、返事をする。
サムライは適当な椅子に腰掛けて、あたしに問うてきた。
「メール、見てたぜ。どうやらお嬢ちゃんは、中央武力局に所属しているようで、別の目的があるらしい」
「……」
「本当はお嬢ちゃんを殺そうと思ったんだが、なんだ、メールに能力の詳細まで書いていたからな。催眠とは中々えげつねぇが、しらけちまった。催眠さえ攻略しちまえばただの女の子。それじゃ話にならねぇ。クソつまらねぇ」
「……何が目的?」
「余計なこと喋るんじゃねぇ」
「ッ」
首筋に鋼爪を突き付けられる。
血が滲んできた。
不味い、後ろの女の子? あたしが下手な真似すれば本気で殺すつもりだわ。
ここは、大人しくしておこう。
「そうかぁ。俺、催眠にかけられてから殺されたのか。成程ねぇ。ふぅん」
サムライは一人頷いた後、あたしの瞳を覗く。
「見逃してやるよ。お嬢ちゃん」
「……?」
「テメェには興味がねぇ。復讐しようかと思ったが、ヤル気なくなったわ」
サムライは立ち上がり、あたしの顎を指先でつまむ。
「そのかわり、俺達の邪魔はするな。黙って見てろ。それと、他の七騎士に催眠をかけてるなら解け」
「……」
「俺達は七騎士と、それに近い強者を全員殺す。目的はそれだけだ。お嬢ちゃんは黙ってこの部屋で待っておけばいい。二日もすりゃあ中央武力局の戦力激減。革命がしやすくなる。最高だろう?」
「……ッ」
「残念ながら、お嬢ちゃんに拒否権はねぇ。拒否したら、しゃあねぇわな。殺して他の七騎士にかけられてる催眠を解くしかない。なぁどうする? はいかいいえで答えな」
三白眼を細めるサムライ。
あたしは……まよわず「はい」と答えた。
サムライを信用したわけではない。
期待もしていない。
しかし、はいと答えなければ、あたしは死ぬ。
それだけで、はいと答えるには十分すぎる理由となった。
「よし、爪牙。解いてやれ」
「おう」
拘束が解かれる。
振り返ると、あたしと同じくらいの少女がいた。
忍装束?に身を包んでいる、くすんだ灰色の髪をポニーテイルにした美少女。
「あ? なんだよ?」
「な、なんでもないわ」
背筋に寒気が走った。
一瞬漏れた殺気もそうだが、何よりも、目が怖ろしかった。
一体何人殺せばこんな目ができるんだろう。
濁っていて、生気を感じさせない。
死者のような瞳。
サムライも同じような瞳をしているが、女の子でこんな瞳をしているということが、あたしにとっては衝撃的だった。
「行こうぜ」
「おう」
二人は部屋を出て行く。
出て行ったのを確認できたあと、あたしは膝から崩れ落ちた。