プロローグ
さぁて、例の世界へ到着した。
さんさんと降り注ぐ陽光、目の前に聳える高層ビル群。
ん~。
「やっぱ地上の空気はうめぇな」
深呼吸する。
冥界はジメジメしてたからなぁ。
「な、なぁ、兄貴……」
「ん?」
横を見ると、爪牙が頬を赤らめて、袖を引っ張っていた。
「あのさ、俺、地上って久々だからさ。……ちょっと遊びたいっていうか」
「……フフ、そうか」
俺は爪牙の頭にポンと手を置く。
「お前は俺と違って、冥界暮らしに慣れてなかったもんな。冥界にゃ娯楽もなかったし。つらかっただろ。……いいぜ。三日くらい遊ぼう」
「!!」
爪牙は俺に抱きつく。
「さっすが兄貴!! 話がわかる~!! 大好きだぜ!!」
「ハハハ」
さぁて、そうとなりゃ、
「何がしたい。お前にあわせよう」
「ビール! 煙草! ピザ! セックス!!」
「ククク」
「まずはコンビニ行こう! コンビニ!」
「はいはい」
爪牙に引っ張られながらコンビニを目指す。
コンビニの前で。
煙管を吹かしながら待っていると、自動ドアを開いて爪牙が出てきた。
「たーばこ♪ たーばこ♪ たっぷり、たーばこ♪」
両手に溢れんばかりの煙草を抱えている。
顔には満面の笑みが咲いていた。
「ビールも沢山買ったぜ! あとつまみも!!」
「もう買うもんはないか?」
「おう!」
「ならラブホ行くぞ。ピザは出前で頼めばいい」
「にひひ~♪」
爪牙は嬉しそうに笑いながら付いてくる。
俺達はラブホに入った。
それからというもの、だらけにだらけまくった。
酒を飲んで、出前で頼んだピザや寿司、焼き鳥を頬ばって。
腹一杯になれば二人でくたびれるまでセックスして、寝る。
その繰り返しだ。
最初は三日と言っていたんだが、気付いたら一週間くらいこの生活を続けていた。
どうやら俺も、色々溜まっていたらしい。
「部屋、酷いことになってんな」
「いいさ。どーせ俺達の部屋じゃねぇんだしよ」
「そうだな」
俺達は裸でベッドの上に寝転がっていた。
隣には吸殻の山。
ビールの空き缶、酒の瓶。
ピザや寿司の入っていた容器。
あと数日置いていたら、蠅でも沸いてきそうだ。
「最初は三日って言ってたのに、一週間くらい経っちまったな」
「しゃあねぇ。俺も色々溜まってた」
「へへへ♪」
爪牙は俺の胸に頬ずりする。
俺はその頭をくしゃくしゃと撫でてやった。
「なぁ、兄貴」
「ん?」
「……冥界にいた時は言えなかったんだけど、俺さ……」
爪牙は瞳を潤ませながら言う。
「はじめてなんだ。他人とこんなに親しくなったの」
「そうか」
「俺、生まれた時から殺し合いが大好きだから、狂犬なんて呼ばれて。敵からも味方からも恐れられてた」
「ふぅん」
「でも、兄貴は違う。兄貴はこんな俺を可愛がってくれる。……こんな温かい感情、はじめてなんだ。心がぽわぽわして、凄く、気持ちいい」
「……俺も、お前と一緒にいると楽しいぜ」
「本当か!?」
「本当だとも」
「……あにきぃ」
ポロポロと涙を流す爪牙。
「泣くな」
「だってぇ……」
「ったく」
俺は抱き寄せて、その背中をさすってやった。
◆◆
「さぁて」
翌日。
俺達はゴミ部屋となった部屋で、準備を整えていた。
服を着替え、刀を帯びる。
爪牙も武装の点検をしていた。
「よし、準備万端! いつでもいけるぜ! 兄貴!」
「なら、そうさな。敵の本拠地を襲撃するのが一番手っ取り早いんだが、それじゃつまらねぇ。二人で潜入するぞ。強いのだけを仕留めに行く」
「了解。潜入は得意だぜ♪」
「じゃ、行くか」
俺達は拳を交わした後、部屋から出た。