第二証人「冥界の女王・デス」
冥界の管理人として、頭を抱えるしかない。
永久の時間、冥界の女王として君臨してきたが、ここまで私を困らせる存在は他にいないだろう。
大和。
奴は修羅道、第五フロアにいる亡者共を片っ端から斬り捨てている。
それだけに飽き足らず、他のフロアにまで足を運んで、わざわざ刑を受けている。
奴にとって、それらは遊びなのだろう。
全く、冥界をなんだと思っているんだ。
……超越者にとって、冥界の刑などそよ風同然なのだろうな。
……奴専用のフロアを作るか。
しかし、それでは、不公平になってしまうのではないか?
いいや、ううむ……
「デス様」
「……何だ」
従者の一人が喋りかけてきた。
「もうそろそろ、大和の刑期が終わります」
「そうか……もう、無量大数の年月が経ったのだな」
早いものだ。
「大和をここに連れてこい」
「かしこまりました」
暫くして、大和がやってくる。
「なんだ、デス。折角亡者共と遊んでたのによ」
「貴様の刑期がもうそろそろ終わる」
「おっ、そうか。いい頃合いだ。丁度冥界に飽きてきてたんでな」
「……冥界はテーマパークではないのだぞ」
「今度から、俺専用のフロアでも作っておくんだな」
「考えておく」
本格的に考えたほうがいいのかもしれない……
「大和。貴様に折り入って話がある。私とともに、貴賓室まで来い」
「……ふぅん、まぁ、いいぜ」
「デス様」
「よい、貴様らは下がっておれ」
「ですが」
「命令だ」
従者たちを引かせ、私は立ち上がる。
そして、大和を連れて神殿の最奥手前にある貴賓室に向かう。
貴賓室前で立ち止まろうとする大和。
私はその手を引いた。
「おい、貴賓室ってここだろ?」
「……わかっているのだろう。こっちだ」
「……」
大和は無言で肩を竦めた。
私は大和の手を引っ張り、最奥の、自分の部屋へ連れ込む。
そして……
「大和ぉ……」
部屋に入った瞬間、思い切り抱きついた。
「はぁぁ、大和の匂い……」
「こんな姿、部下に見せられねぇもんな」
大和は私を抱きしめ、首筋に息を吹きかけてくる。
私は震えながら、大和を睨んだ。
「当たり前だ……っ」
「人斬りと冥界の女王の、禁断の恋ってか?」
「私が一方的に想っているだけで、貴様は振り向いてくれないだろう」
「……ま、女に縛られるつもりはねぇ」
「いいさ、冥界は私の世界だ。冥界にいる間、貴様は私の管理下だ。私の命令を聞け」
「すげぇ屁理屈を聞いた」
「命令だ」
「はいはい」
「……まずは、す、すす、好きといえ」
「好きだぜ」
「っ、で、では、愛していると、いえ」
「愛してる」
「~っ♪」
私は嬉しさのあまり小さく飛び跳ねる。
大和が、あの大和が、私に愛してるって……っ
「で、では、キスをしろ」
「軽いのと深いの、どっちだ?」
「無論、深いのだ」
大和の唇に、自分の唇を重ねた。
◆◆
数時間後、私は大和と一緒にベッドの中で眠っていた。
「大和……冥界に残る気は、ないか?」
「ない」
「……そうか」
わかっている。
コイツがそういう男だって。
さっきのセックスで、もう何度も教えられた。
でも……
「お前と、離れたくない……」
「また会えるだろう」
「嫌だ、ずっと傍にいてくれ」
「ハァ」
大和は私を抱き寄せる。
「どうせまた死ぬ。その時に会える。そしたら、今日みたいに愛してやる。それじゃあ駄目か?」
「……ッ」
私は大和の腕に爪を立てる。
「……このロクでなし。女にここまで言わせて、貴様はまだ逃げるのか?」
「ああ、俺は女に捕らわれたくねぇ」
「……もう、勝手にしろ」
私は立ち上がり、ドレスを着る。
そして、大和の顔を一度見た後、ふんと背いた。
「さっさと冥界から出ていけ。しばらくは冥界に戻ってくるな」
私はそう吐き捨てて、自分の部屋から出た。