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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
第六章《冥界編》
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第一証人「新人死神」

 凄い咆哮だった。

 一瞬地震だと思った。

 すぐに収まったけど、それからすぐに、先輩の死神が、


「デス様が死神全員に集まれと仰せだ。行くぞ」


 という訳で、僕は先輩逹と一緒にデス様の神殿へと向かった。

 しかし、途中でおかしな点に気付いた。

 何時もは裁判待ちの死者逹で溢れ返っている神殿前に、僕たち以外誰もいなかったのだ。

 こんなに閑散とした風景は初めて見るので、僕は先輩に聞く。


「あの、どうして死者逹がいないんですか?」

「例のアレだよ、アレ。死者逹は皆、別フロアへ非難してるのさ」

「??」


 アレ?

 意味がわからない。

 首を傾げている間に、デス様の元へ到着した。

 デス様は、その美しい顔を顰めていた。


「お前達に集まってもらったのは他でもない。アイツが来た」

「やはり、ですか」


 先輩の一人が顔を青くしていた。

 アイツ?

 誰のことだろう?


「どうするのですか? 追い払いますか?」

「何を言っているのだ。ここへ落ちてきたということは、立派な犯罪者。厳しく罰せねばならない」

「ですが、冥界の治安を考えれば」

「……ッ」


 デス様の表情がますます険しくなる。

 僕はおそるおそる手を上げた。


「何だ」


 デス様に睨まれ、悲鳴が漏れそうになったが、なんとか言う。


「あの、アイツって、誰ですか?」

「「「「……」」」


 デス様を含め、先輩逹の視線が突き刺さる。

 皆一様に、何言ってんだコイツ、みたいな目をしていた。


「……お前は確か新入りだったな」

「はい……」

「まだ、天災のことを知らないのか?」

「天災?」

「大和だよ」

「大和……人の名前ですか?」

「……」


 デス様は眉をピクリとあげる。


「果たしてアイツを人間と呼んでいいのかわからないが……一応人間だ。しかし、超越者だ」

「超越者……」

「そうだ、超えてはいけない枠を超えてしまった人間。森羅万象の理から外れてしまった人外。三千世界の理に縛られないバグ、チートだ」

「……あの、そんな人が、なんで冥界に?」

「まぁ、本来なら超越者は死なん。しかしアイツは、大和は別だ。わざと自分を通常の人間クラスにまで弱体化させているんだ。理由は……」

「理由は……」

「本人に聞け」

「え……?」


 それって、どういう……


「新人。お前は大和をこの神殿まで案内しろ」

「え?」



「えぇぇぇぇぇぇぇええええ!!?」



「喚くな、鬱陶しい」

「ぼぼぼ、僕がですかぁ!?」

「そうだ。異論は認めん。さっさと行け」

「ひぇぇ……っ」


 そんなぁぁ……

 超越者、なんでそんな怖そうな人を、僕が……

 先輩たちに援護してもらおうと視線を向けるが、逸らされる。

 見捨てられた……っ


「ま、頑張れ」


 隣の先輩に、肩を叩かれた。



◆◆



 僕は神殿を出て、冥界の河を渡ってくる超越者、大和さんを待っていた。

 はぁぁ、どんな人だろう? 

 怖くなければいいんだけど……

 きっと怖いんだろうなぁ。


「あ……」


 やってきた。

 冥界の河の船頭さんがやってきた。

 岸辺で待機する。


「お疲れ様です」

「ああ、今日は例の人を連れてきた。注意するんだよ」


 船頭さんがクイっと後ろを指さす。

 すると、現れた。


「っ」


 見るからに凶悪そうな人相をしていた。

 和装のサムライ。

 褐色肌、三白眼、ギザギザの歯。

 ひぇぇ……

 こ、この人が……


「ん? 今回の案内死神はテメェか?」


 目の前まで歩み寄られ、見下ろされる。

 大きい、身長、2メートルはあるんじゃないかな。

 僕は震える身体を必死に叱咤し、口を開く。


「はい、今回、あなたの案内役を務めさせていただく死神です。まだ若輩者ですので、至らぬ点が出てくると思いますが、何卒……」

「かしこまんなくていいぜ。普通の死者のように扱ってくれや」


 大和さんは何か思い付いたような顔をすると、懐から何かを取り出す。

 キャンディーだった。


「キャンディー食うか?」

「……」


 いいですと言う勇気もない僕は、キャンディーを貰った。



◆◆



 大和さんを神殿に案内しながら、僕は恐る恐るではあるが、質問してみた。


「あの、大和さんは、超越者なんですよね?」

「そうだ」

「何故、冥界に?」

「死んだんよ。力を殆ど封印してたからな」

「何故……?」


 大和さんは怪訝そうな表情を僕に向ける。


「なんでそんなことを聞く?」

「いえ、すいません。踏み込みすぎましたね……」

「……」


 大和さんは肩を竦める。


「ま、別に隠すようなことでもねぇよ。俺は強者との戦いを楽しみたいから、力を封印してんだ」

「強者との戦いを?」

「そうさ。三千世界にゃ色々な強者がいる。力の種類も、使い方も、千差万別だ。俺はそれらを骨の髄まで味わい尽くしてぇ。しかしだ。俺は力を封印しねぇと力押しのつまらねぇ蹂躙になっちまうんだよ」

「だから」

「そう、俺は自分を限り無く弱体化させてんのさ」

「……」


 僕には、あまり理解できなかった。

 何故、そこまでして強者との戦いを求めるのだろうか?

 聞いてみたかったが、これ以上聞ける勇気はなかった。


 すぐにデス様の神殿へついた。

 デス様は何時ものように、神殿の最奥に佇んでいた。


「来たか、大和」

「おう、久しぶりだな。デス」

「全く貴様は……また油断して死んだのだろう? それとも慢心か?」

「どっちもだな。今回はマジであっけなかったぜ」


 デス様と大和さんは、まるで知己のような会話を交えていた。


「どちらでもいい。しかしここに落ちてきたからには、相応の刑を受けて貰う」

「なぁ、そこんところ、相談があるんだけどよ」

「刑が執行され、貴様の罪が浄化されるまでは、冥界からは決して出さない」

「……駄目か」

「駄目だ」

「ハァ、いいじゃねぇか。どうせまた落ちてくるんだから」

「冥界の女王として、死者には平等に接さねばならぬ」

「ハイハイ、りょーかいりょーかい。わーりやしたよ。で、今回はどれくらい刑が溜まってるんだ?」


 異質な会話だった。

 普通、死者というのは刑に怯えるものだ。

 しかし、大和さんは全く怯えていない。

 今の会話を聞く限り、もう何度も刑を執行されているようだった。


「貴様の罪状は……殺人罪ばっかりだな。何時も通り、第五フロア行きだ」

「どこでもいいさね。で、刑期は?」

「無量大数は余裕で超えているな」

「うげぇ、マジか」


 大和さんは露骨に嫌そうな顔をした。

 デス様はキッと大和さんを睨む。


「冥界での無料大数など、現実世界ではほんの数日だ。早々に冥界から出たくば、さっさと第五フロアに行ってこい」

「おーけおーけー、じゃあちょっくら、死者逹と遊んでくるわ」

「ふん」


 大和さんはそのまま去って行った。

 僕はオロオロとしながら、デス様に聞く。


「あの、案内は……」

「さっさと行け」

「はぃぃ」


 僕は急いで大和さんの背中を追った。



◆◆



「なぁ、第五フロアって、昔どおりか?」

「昔っていうのが何時なのかはわかりませんが、第五フロアは別名「修羅道」。刑期が終るまで罪人同士で殺し合うエリアですね。他のフロアは沸騰した銀を飲ましたり舌を抜いたりするんですが、第五フロアは至って単純です」

「なんだ、そうかい」

「……あの」

「?」

「何故、律儀に刑を受けるのですか? あなたが本気を出せば、もしかしたら、冥界を抜けられるのではないですか?」

「そうだな、その気になりゃ、抜けられるかもな」

「え……」

「ま、答えは単純よ」


 大和さんは獰猛に笑う。


「冥界が面白いからだよ。俺からすりゃ、テーマパークみてぇなもんだ。まぁ、流石に無量大数の時間繰り返すのは飽きるんだがな。ま、そこは色々工夫していくさ」

「……っ」


「さぁて、じゃあ、第五フロアの奴等に挨拶しなきゃな。これから長ーい時間世話になるんだし」


 大和さんと一緒に修羅道に赴く。

 すると、早速死者逹が殺し合っていた。

 荒廃した土地に何千、何万、何億もいる死者逹。

 目の前にいる相手を殺そうと、やっきになっている。


「一応、第五フロアのルールを聞きますか?」

「ああ」

「第五フロアでは、一日最低10人は殺すというノルマがあります。これをクリアできなければ、第六、第七フロアで刑を受けて貰います。以上ですね」

「昔と変わってねぇな」

「そうですか?」

「おう、しかし、10人なんて余裕過ぎて欠伸が出ちまうぜ。せめて100人くらいにしてくれねぇとな。ま、強者目当てで行ったら、そんくらいか」


 大和さんは早速獲物を探しているようだった。


「おっ、よさげな奴がいるじゃねぇか」


 大和さんが見る方向には、忍装束を着た忍者の娘がいた。


「ああ、あの娘は、最近入ってきた子で。あなたと同じく、強者との殺し合いが大好きみたいです」

「……んん?」


 大和さんは顎をさする。


「アイツ、どっかで見たことあるような……」


 件の娘は、不気味な笑い声をあげながら死者逹を殺して回っていた。

 くすんだ灰色のポニーテイルが縦横無尽に乱れ踊る。


「あーはっはっは!! おいおいおいおい! どうしたどうしたぁ! 話になんねぇぞぉ!! もっと全力でこいよ!! 俺を殺してみせろ!! あーっはっはっは!!」



「あ、アイツ……」


 大和さんはポンと手を叩く。


「あの時の忍者娘だ」



「あっ……あーッ!!!! テメェ!! 俺を殺したサムライじゃねぇか!!! はははははは!! なんだぁ! テメェも地獄に落ちたのか!!  よーっし!! さっそく雪辱を晴らしてやらぁ!! 俺ぁ前より強くなったからなぁ!! 今度こそ勝ぁぁぁぁつ!!!!」



「ククク、こらぁ、早速楽しめそうだなぁ!!」



「あーっはっはっはっは!!!」

「ハーッハッハッハッハッハ!!!」



 二人は笑いながら斬り合いはじめた。


「……っ」


 全くついていけない僕は、そのままぽかんと口を開けていた。


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