第一証人「甲賀忍・爪牙」
俺の名前は爪牙、甲賀所属の忍だ。
先日、憎き服部家の上忍が全員惨殺された。
惜しいなぁ、俺が殺したかったのに。
犯人は以前逃亡中とのことだ。
コイツがまた手練で、非公式の剣客を殺し回っているらしい。
何処からそんな情報を手に入れたんだろう。
まぁいい。
俺は、愉しむだけだ。
闘争を、殺し合いを。
情報によると、相手はサムライだそうだ。
ハッ! サムライ! いいね! 俄然やる気が出てきたぜ!
相棒の鋼爪を装備して。
さぁて、殺しにいきますか!
◆◆
「なんだ、テメェ、女じゃねぇか」
夜の路地裏で出会って早々、溜息を吐かれた。
「お家へ帰りな。見逃してやる」
「……テメェ、あんな舐めてっと斬り刻むぞ。アア?」
額に青筋が立つ。
「女だから戦えないってか? 紳士気取ってんじゃねよ人斬りが」
「……じゃあ、細切れになっちまっても、いいのか?」
「いいぜ、ただし、細切れになるのはテメェだ」
いいねぇ、ゾクゾクする。
似非紳士だと思ったら、なんのなんの、俺と同じじゃねぇの。
戦いを愉しみたい、強者を殺したい。
そんな、ケモノの目だ。
「ククク」
「オラァ!!」
刀と鋼爪が交差し、火花が散る。
俺は高速で相手の背後をとり、突きを放つ。
しかしサムライは後ろを見ずに斬ってきた。
「マジか!?」
俺はバク転しながら回避する。
あぶねぇ。
「なんて出鱈目な剣術だよ」
「クックック」
サムライは刀を担いで不気味な笑い声を漏らす。
ふふふ、いいぜいいぜぇ、こっちもアドレナリンどばどば出てきた。
「分身の術!」
八体の分身を呼び出し、同時攻撃させる。
「ほぅ」
驚いている隙にどんどん攻撃だぁ!
攻撃の隙なんか与えないぜ!
「さすが忍者。だが、甘いな」
一閃。
八体の分身が消滅する。
チィ……
「なら」
俺は印を結んで、思いっきり息を吸う。
「火遁、火炎龍の術!」
口から龍の形をした炎を吹き出す。
「炎なら斬れないと思ったか? 残念、斬れるんだなこれが」
一刀両断。
炎まで斬り裂くたぁ……
でも信じてたぜ! アンタが炎を斬れるって!
「おお!」
消えた炎から大量の手裏剣が現れ、サムライを襲う。
瞬時に紛れさせておいたのさぁ!
さぁて、手裏剣に苦戦している間に、距離を詰める。
今までのやり取りでわかったこと。
コイツは別次元に強い。
おそらく時間をかけていたら、死ぬのは俺だ。
ならば、残された手段は一つ。
真っ向から斬り伏せる。
鍔迫り合いなんかしねぇ。
そんなことする前に切り刻む。
簡単だろう?
「避けないのか?」
避けない避けない。
「ガードしないのか?」
そんなものするかよ。
そんなことする暇があったら、全てを攻撃に注ぐ。
「失敗したら死ぬぞ?」
当たり前じゃん。
どうせ死ぬかもしれねぇんだ! 賭けるなら今だろ!!
だから、邪魔するんじゃねぇ!! 理性!!
「ハハハハ!!!」
「クハハ」
互いの刃が目先まで伸びていく。
俺のほうが速い! 俺のほうが速い!!
俺の、勝ちだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
「「!!」」
サムライの背後に忍が迫っていたので、串刺しにする。
私の背後にいた奴は、サムライが斬り伏せてくれた。
「チッ」
「邪魔者か」
辺りを見渡すと、忍に囲まれていた。
服装を見る限り、伊賀だな。
大方、俺と一緒でサムライの首を取りに来たんだろう。
……。
……。
……。
「邪魔すんじゃねぇよクソ共が!! アアアッ、折角イキそうだったってのによぉ!!」
「ふん、甲賀の狂犬か。邪魔だ、消え失せろ」
「コッチの台詞だボケ共、今すぐ消え失せろ」
あーイライラする。
あー、アーッッ。
「……なぁ、サムライ」
「ん?」
「一時共闘しねぇか? コイツら殲滅した後で改めて、二人っきりで殺し合おうぜ」
「……いいねぇ」
サムライはニヤリと嗤った。
俺も嗤う。
「背中は任せな」
「おうよ!!」
二人で背中を合わせる。
タッグマッチだ。
「この数に二人で挑むのか? そもそもお前は、ターゲットと組むのか?」
「コイツは俺の獲物だ。俺が殺す、だから俺が守る」
「……成程、理解不能。まとめて殺す」
忍逹が飛びかかってくる。
俺たちは二人で踊った。
まるで知己とダンスを踊っているかのように、ぴったりと息が合う。
裂いて、抉って。
それを繰り返していると、いつの間にか残り一人になっていた。
「そ、そんな馬鹿な! この数を、一瞬でっ」
最後の一人の額に、鋼爪をぶっ刺す。
血潮と脳味噌を撒き散らし、そいつはぶっ倒れた。
「ふぅ……さて、お楽しみといこうぜ!」
「おうよ」
俺達は武器を構える。
……ふふふ、はははっ。
「クク、ハハハ」
はははははは!!
「ハハハハハ!!」
はーっはっはっはっはっは!!!!!
「ハーッハッハッハッハッハ!!!!!」
「死ねェェェェェェェェェ!!!!」
「細切れだァァァァァァァ!!!!」
飛びかかる。
貪り食らうかのように得物を振り回す。
幾多の攻撃が放物線を描き、真空の結界を生み出す。
それに裂傷で溢れてきた血が混じり、紅く染まる。
「死ね死ね死ねェェェェェェェェ!!!! あーっはっはっはっは!!!!!!」
「斬る斬る斬るッ!! ハーッハッハッハッハッハ!!!!!!」
さぁ!! もうそろそろフィナーレだ!!
互いに身体の間接、筋肉を全て稼働させた渾身の一撃を放つ。
「「終わりだァァァァァァァ!!!!!!!!」」
突き抜ける。
暫しの静寂の後、俺の得物が儚い音を立てて砕け散った。
そして、袈裟斬りの跡が身体に浮かび上がる。
俺は血飛沫を撒き散らして倒れた。
「は、はっは……俺の負けか。でも、楽しかったぁ……」
笑っていると、サムライが俺のことを抱きかかえる。
「ありがとうな、最高に楽しかったぜ」
「へへ……アンタも、楽しめたかい。なら、最高だ」
俺は吐血して、それでも笑う。
「……じゃ、先に地獄へ行ってるわ」
「おう」
くはは。
次は負けねぇぞぉ……
鬼どもを相手に修行して、待ってるぜ……