プロローグ
王国は魔王軍を恐れていた。
魔王軍は100万を超える魔物の軍勢。
南の領土を完全に統一し、今も王国へ侵攻してきている。
魔王軍の通った後には何も残らない。
金銀は略奪され、男は殺され、子供は奴隷に、女は無理やり犯される。
使えない老人などは見せしめに惨殺された。
人類にとって、魔王軍は恐怖そのものだった。
三日前、国王から魔王討伐の勅命が下った。
勇者一行である我々は、早速魔王退治の旅に出た。
「これが勇者ですか? 弱すぎます」
「そうだなぁ、がっかりだ」
「……」
私は血反吐を撒き散らしながら、うつ伏せに倒れていた。
周囲には、肉片となった仲間たち。
私の前には、圧倒的オーラを放つ三名の魔族。
三魔将軍。
魔剣聖、魔賢者、魔元帥。
魔王軍の重鎮。
こいつ等は魔王を目指す私達の前に立ちはだかり、そして蹂躙した。
「もっと斬り甲斐があると思っていましたが」
「ま、研究材料には使えるわな」
「……脆弱」
「ッ」
好き放題に言ってくれるな……。
しかし、私は既に満身創痍。
仲間も皆殺しだ。
もう、成す術がない。
これから俺は、魔賢者にいいように身体を弄られるのだろう。
ああ……
次代の勇者よ。
どうか、俺達の無念を晴らしてくれ。
そして、王国に永久の平和をもたらしてくれ。
「おっ、いいタイミングだったみてぇだな」
背後から嬉しそうな声が聞こえてきた。
が、振り返ることができない。
声の主は、俺の横を通り過ぎた。
サムライ、だった。
サムライ装束に身を包んだ大男だ。
彼は三魔将軍を前にして、編み笠を深く被りなおす。
「テメェ等強そうだな、そそられるぜ」
「てめぇは何者なんだ、ああ?」
「俺か?」
サムライは傘をとる。
「俺の名は大和。今からテメェ等を斬り刻む男だ」
サムライは不気味に笑いながら、太刀を抜き放った。
私はそこで意識が途絶えた。
願わくば、彼が王国に光をもたらす存在でありますように……