第一証人「白面絢爛九尾狐・万葉」
「ふふふ~♪」
大和さま、大和さまじゃ~♪
ああ、愛しい我が君。
お会いできるのは三ヵ月と九日ぶりじゃ。
またあの麗しい御姿を見れると思うと……
くふふ~♪
笑みがとまらん。
準備は完璧!
化粧も済ませた! 料理も準備した!
何時でもOKじゃ!
「万葉様、大和様をお連れしました」
「よいぞ、入ってまいれ」
七影に連れてこられ、現れた。
はぁぁ……っ
「よぅ万葉、久々だな」
ふつくしい……
全く変わっておらなんだ。
「七影、下がれ」
「では……」
ゆっくりと襖が閉じられる。
大和様は妾の前までやってきて、腰を下ろした。
「お久しゅう、大和様」
「ああ」
大和様は眼前の料理に目を奪われている。
「これは、お前が?」
「腕によりをかけて作った」
「俺の好物ばかりだ……」
じゅるりとよだれを垂らす大和様。
ふふふ、大和様の好物は全て把握済みじゃ。
「大和様、まずはゆっくりと、旅の疲れを癒してくだされ。食を存分に堪能してくだされ」
「おう、ありがとうな」
はぅあ……
礼を言われた。
それだけで、胸が張り裂けようほどの高鳴りが。
「酌をいたすぞ」
「頼む」
大和様の隣まで寄り、杯に酒を注ぐ。
大和様はゆっくりと嚥下しながら、溜息を吐いた。
「美味い」
「極上の酒を準備した。大和様専用じゃ」
大和様は好物の魚の刺身をつまみ出す。
妾はそれを胡乱な瞳で眺めていた。
「大和様、今日はどういった要件で?」
「封印を解いちまった。しなおしてくれ」
「わかった。では後程」
大和様は酌を催促する。
妾は素早く杯に酒を注ぐ。
「最近どうだ? 東区の区長は大変か?」
「そうでもない。皆働きもの故、妾は象徴として佇んでいるにすぎぬ」
「そうか……」
妾は自然を装い、大和様に寄り添う。
大和様は嫌がる素振りを見せなかった。
……よし。
作戦開始じゃ。
作戦内容、大和様を酔わせて話をうまく進める。
大和様には、してもらいたいことが沢山ある。
それを今日、できる限り達成する。
大和様には泥酔してもらわなければならぬ。
「ささ、大和様、酒は沢山あるぞ」
「ああ」
ふっふっふ、勝負は数時間後じゃ。
それまでゆーっくりと、美食と美酒を堪能してくだされ。大和様♪
◆◆
「んー、味の割に中々の度数だったみたいだな。酔うなんて久々だぜぇ」
頭を押さえながらフラフラとする大和様。
妾は内心で苦笑していた。
大和様に飲ませたのは鬼の宝酒、それも特上の一品じゃ。
鬼の酒は度数が桁違いじゃ、人間なら一滴飲めば泥酔する。
宝酒は飲みやすいが、度数はなんら変わっておらん。
大和様が酒に強いことは知っておる。
数杯くらい優に飲めるとは思っておったが……
まさか樽を十個空けるとは。
規格外にも程がある。
鬼神でもそこまで飲まんぞ。
どんな肝臓をしておるのじゃ。
……しかし、大和様を酔わすことには成功した。
よし……
「大和様ぁ」
「ん?」
「妾、大和様のことを心から慕っておる。大和様一筋じゃ。生涯、大和様に尽くす。……だから、妾と結婚してくれ」
「……ハァ、万葉、前から言ってんだろ。俺は誰とも結婚しねぇ」
「大和さまぁ……」
「そんな泣きそうな声で言っても駄目だ」
「何故……」
「面倒くせぇから」
「っ」
大和様と結婚したい。
あなた様の全てを独占したい。
子供も産みたい。
だから……
「……悪いな、万葉」
「……っ」
妾は拗ねて、プイとそっぽを向いた。
「もう、大和様の馬鹿。おたんこなす。知らぬ。大和様など知らぬ」
「オイオイ、拗ねるなって」
「ぷーん」
妾はオコじゃ。
激オコじゃ。
「力も封印してやらぬ」
「マジか」
「マジじゃ」
ぷーん。
「なぁ、許してくれよ万葉。俺の力は、お前じゃなきゃ封印できねぇんだ」
「ぷーん」
「……どうしたら、許してくれる?」
……きた。
この時を、待っておったぞ。
「なら、妾を一杯愛してくだされ」
「……それだけか?」
「鋭いのぅ。封印はいくつ解いた?」
「最初の一つだ」
「なら一回、ゴム無しじゃな」
「マジか……」
「これから封印の際、解いた分だけ本番の回数を増やす。何時もタダでしていたからな。それくらいあっても文句は無いじゃろう?」
「ぐぬぅ」
大和様は唸る。
「なぁに、大丈夫じゃ。他意はない。妊娠を促進させる妖術もかけん。……ま、避妊の妖術もかけんがな」
「……」
「もしもアタれば、勿論責任はとってもらうぞ? 大和様♪」
「……ぬぅぅ」
おお、悩んでいる悩んでいる。
よし、いけ、いくのじゃ。
いけー!
「……その条件以外は駄目か?」
「駄目じゃ。絶対にゆずらん」
「……ハァ、わかった」
「!!」
「そのかわり、一回だけだ。避妊の妖術はかけなくていいが、絶対妊娠の妖術はかけるなよ?」
「無論じゃ!」
いやったー!!
ふっふっふ。
妾は約束はちゃんと守るぞ!
ふっふっふ。
確率は大分低いが、もし当たれば……
大和様と結婚! 夫婦の契りを交わせる。
そしたら、大和様を独り占め……
ぐふふ~。
妾の野望、その第一歩が、今夜、はじまる!!
◆◆
数十分後。
布団の上で、妾は浴衣をはだけさせた。
「さぁ、大和様。夜の営みをはじめよう」
「ああ」
大和様は妾に近づき、抱き寄せる。
「まずは頭と尻尾を撫でてやる」
「きゃ♪」
大和様の手が妾の九本の尻尾を丁寧に撫でる。
大和様のために毎日欠かさず手入れしておるからのぅ。
自慢の尻尾じゃ。
「~♪」
頭に生えた狐耳も撫でられる。
気持ちいのじゃぁ……
「お前は相変わらず甘えん坊だな。一度抱きついたら離れようとしねぇ」
「だってぇ……」
妾は大和様の胸に頬ずりする。
そして、首筋をペロペロと舐める。
「はは、くすぐってェ」
「ぺろぺろ」
大和様は妾の男じゃ。
マークをつけておかなければのぅ。
他の雌が寄り付かんように。
「キスしようぜ」
「はい……」
妾達は舌を絡め合う、濃厚なキスを交わした。
◆◆
一時間後。
妾は布団の中で痙攣していた。
大和様は一度だけ、本気で交尾してくれた。
あ、足腰が砕けてしもうた……っ
大和様は肩で息をしていた。
そして、妾の頭を撫でる。
「よく耐えたな、万葉。……今日は一回で終わりだ。テメェがもたねぇだろ」
「はい……っ、もう、無理じゃ」
……。
「大和、様……」
「どうした?」
「どうして……?」
「?」
「妾と結婚するの、嫌じゃ……なかったのか?」
「……ばぁか」
大和様は片目を閉じる。
「テメェが俺を誰よりも想ってることは知ってる。だから、俺もその想いに応えた。……それでもし孕んだら、結婚してやる。一生幸せにしてやるよ、万葉」
「……ッ」
そんな……こんな時に、そんな……っ
「……嬉しいのじゃぁ、大和様ぁ」
「あー泣くな。今夜は安静にしてろ。浄化の妖術は、自分でかけられるか?」
「はい。でも、もう少しだけ……このままがいい」
「……仕方ねぇやつだ」
妾は大和様に抱きつく。
大好き。
大好きじゃ、大和様。
愛してる。
数分後。
妾と大和様は布団の中で眠っていた。
「……大和様」
「ん?」
「……ちゅーして欲しいのじゃ」
「ほら」
キスしてもらう。
はわわぁ……♪
「幸せなのじゃ~っ」
「そうかい」
「孕んでいるかのぅ?」
「わからねぇ」
「子供の名前は何にしようか?」
「んーまだ決めてねぇ。……てか、早いだろ」
「妾はもう決めておるぞ!」
「ったく」
大和様~っ
大好きなのじゃ~♪
◆◆
早朝。
妾は大和様の背中に手をあて、封印術式を施していた。
「最初の一つ……ということは、星破壊クラスか銀河破壊クラスのものと戦ったな?」
「ああ、ヴァンパイアの王と戦った。まぁ、程々に強かったぜ」
「何を言う。大和様が封印を全て解いたら、渡り合えるものなど三千世界広しと言えど片手で数えるほどしかおらん」
「世辞はよせ」
「真実じゃ」
妾は封印をし終わり、ぽんぽんと背中を叩く。
「これで大丈夫じゃ」
「サンキュー、助かったぜ」
立ち上がろうとする大和様を、妾は九本の尻尾でからめとる。
「ん?」
「もう、出かけてしまうのか?」
「ああ、次の世界へ行きてぇ」
「……もう少しだけ、一緒にいてもいいか?」
「……」
大和様は表情を和らげる。
「いいぜ。午前中だけな」
「~♪」
妾は嬉しさのあまり、その背中に頬ずりをした。
◆◆
午後。
大和様は旅だってしまわれた。
妾は屋敷の最奥で座りながら、溜め息を吐いていた。
「はぁ、大和様。次は何時来てくれるのだろうか?」
その日が今から待ち遠しい。
……。
妾は昨夜のことを思い出し、腹を擦る。
「♪」
孕んでいるだろうか?
大和様の子を。
孕んでいてほしい。
そしたら、大和様と結婚できるのじゃ。
「……でも、今回アタらなくとも、次戻って来る時に封印が解けていれば」
チャンスはこれから幾らでもある。
じっくりと、待とうではないか。
「た、大変です万葉様!!」
「何じゃ七影、騒がしい」
折角いい気分だったのに……
「他の区の区長! ならびに伝説級の魔獣方が屋敷に無理矢理入って……ッ」
「おお~い万葉ぁ……テメェ、大和の兄貴がさっきまでここにいたんだってなぁ?」
「詳細を話せ、でなければ貴様の首を狩るぞ」
「ちょっと万葉ぁ、ズルいわよ抜け駆けするなんてぇ~」
ヤバイ、面倒な奴等が来た。
どうするか……
……いいや。
くふふ~♪
思いっきり自慢してやろう。
愚昧どもよ、聞くがいい。
妾は昨日、本気で大和様と交尾したのだぞ!!
ゴム無しで!!
あ~っはっはっは!!
◆◆
しっかし、万葉との餓鬼ができたらどうするかなぁ。
その時は、旅もやめにすっかなぁ。
……やめだやめだ。
今を愉しむ、それだけだ。
……あ、そうだ。
他の魔獣達に会うの忘れてた。
万葉の所に行ったのバレてるだろうし。
これぁ、今度戻ったらグチグチ言われそうだ。
ハァ、当分は戻らないでおこう。
さぁて、次の異世界だ。
次の異世界は、俺の渇きを潤してくれるのか。
ワクワクするなぁ。
『マスター、次の異世界へ到着します』
「ああ」
俺は相棒と一緒に次元の狭間を走り去って行った。
《完》