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大和さんの異世界漫遊譚【完結】  作者: 桒田レオ
《第二章・ヴァンパイア編》
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第四証人「吸血鬼の王・ノーラン」

 高層ビル群の中でも一番高いビルの上で、私は宿敵と相対していた。


「クロエを誑かしたみたいだな、あの性悪女めにしては、見る目があったと褒めてやろう」

「随分と高評価なんだな、素直に嬉しいぜ」

「テオを討ち取ったのだろう? であれば、高い評価を下さずになんとする」

「……高慢さと謙虚さが同居いているな、好きだぜ。アンタみたいなやつ」


 大和は脇差を抜く。

 ほぅ。


「二刀流か」

「本気だぜ?」


 刹那、私は反射的に避けた。

 しかし、首筋が大きく斬られていた。

 血が噴き出る。


「なるほど……確かに、前とは一味違うな」

「だろう?」


 大和は飛びかかってくる。

 速い! 


「しかしな! 前にも言っただろう!」


 私は大和の二刀を素手でつかみ取る。


「スペックが違うと!」

「どうかねぇ」


 両腕を斬り飛ばされる。

 この程度、全く問題な……!?


「ククク、真祖の王にも気の流し込みは効くみてぇだな!」

「何をした!」

「体内に気を送り込んだだけさ! 神経系から細胞まで、ぐちゃぐちゃで機能停止してるはずだぜ。人間にやればそのまま溶けるんだが、さすがヴァンパイア。テオってやつの時と一緒で、アンタも再生能力がなくなるだけか」

「むぅぅ! 気だと!? こざかしい!」


 私は再生力を無理やり上げる。

 激痛が走ったが、両腕は回復できた。


「うぉ、マジか。結構流し込んだのに、無理やり回復しやがった」

「テオのような子供と一緒にされては困るな! 私は4000歳だ」


 私の言葉に、大和はおかしそうに笑う。


「ハッ、たかが4000歳で何を粋がってやがらぁ!」

「なに!?」


 私は大和の斬撃を避けながら問う。


「なら貴殿は私より年上だというのか!?」

「生憎、剣術極めすぎて人かどうかもわらからなくなっちまった身でねぇ! 老衰できなくなっちまったんだ!」

「ますますバケモノだな!」


 そんな相手になら、もはや手加減する必要もあるまい!


「地殻変動クラスの一撃、耐えられるかな?」

「上等ぉ!」


 私は蹴りを放つ。

 大和はそれを二刀で丁寧にいなし、横へ受け流した。

 衝撃は空を駆け、雲を穿つ。


「……なんだ、今のは」

「内緒♪」

「むぅ」

「そんな顔すんなって、教えてやるよ。「合気」ってんだ。相手の力のベクトルを操作する技術だ」

「なるほど……厄介だ」


 力を受け流すか。

 しかし、


「受け流せる量には限界が存在するんじゃないか?」

「試してみるか?」

「無論!」


 私は足踏みする。

 高層ビルが砕け散る。


「おおう! なんてことしやがる!」


 空中に舞っている大和に一撃。

 今度の一撃も地殻変動クラスだ。

 だが大和は身体を捻って受け流す。

 クッ、地面に足がついている、ついていないは関係ないのか。

 なら……

 猛ラッシュだ。


「オオオオオオオオッ!!!!」


 多少威力は低くなるが、それでも山河は砕く。

 全方位から、逃れられないぞ! 大和!


「ククク」


 大和は微笑んでいた。

 そして、全ての攻撃を受け流してくる。


「バカな!」

「そんな大雑把な攻撃、千来ようが万来ようが変わらねぇよ!」


 全部、いなすというのか!

 ……。


「なるほど、確かに以前とは全く違う。刀が一本増えただけで、ここまで違うものか」


 ふふふ。


「ならば……星を砕く一撃ならどうだ!!!!」


 全身全霊、今の私に放てる最大の一撃だ。


「来いよ」


 交差は一瞬だった。

 衝撃が周囲の高層ビルを薙ぎ倒していく。

 私達は地面に着地する。

 吐血したのは……私だった。


「バカな……ごぼっ、何故、私が」


 膝をつき、腹を抑える。

 腹には風穴があいていた。


「合気は力のベクトルを操作すんだ。受け流すだけじゃない。そのまま返すことだってできる」

「……星を砕く一撃が、そのまま私に帰ってきたというわけか」

「どんな種族にも言えることだが、防御より攻撃のほうが強い奴が多い。当たり前だ。攻撃しなきゃ相手を倒せないからな」

「……ッ」

「俺の合気は攻撃にも防御にも使える攻防一体の技術。隙は存在しねぇ」

「……ふ、ははははは!!」


 私は腹に穴をあけたまま立ち上がり、哄笑を上げる。


「貴殿は強い! なるほど! 今の私では勝てないな!」

「何? 今の私だと?」



「時よ、停まれ」



 刹那、時が停まる。

 ヴァンパイアは2000年生きると、概念や事象に干渉できる。

 流石に因果律の改変はまだ無理だが……いずれできるだろう。


「大和、貴殿は強敵だ。私も出し惜しみなく、全力で葬らせてもらう」


 私は瞬間転移して、高度1500メートルまで上る。


『クロエ、聞こえるか』

『どうしたの? ふふふっ、時停めまで使うなんて、えげつないわね』

『お前は加勢しないのか? 大和が気に入っているのだろう』

『それで死ぬならその程度の男だったってことよ』 

『そうか。……隕石を落とす。結界を張ってくれ』

『面倒ね』

『いいからやれ』

『はいはい』


 私は天に手をかざす。


「堕ちろ、彗星」


 数十秒後、巨大隕石が現れる。

 クロエが結界を張らなければ、夜の帝国は消滅してしまう。

 が、これくらいはしなければな。

 時間を停めていたとしても、大和なら私の攻撃をいなしかねん。

 念には念を入れて、だ。

 隕石が落下していく。

 超聴覚でヴァンパイア達の悲鳴が聞こえるが、大丈夫だ、クロエが結界を張っている。

 隕石が地面と接触した瞬間、大爆発が起こる。

 ここまで風圧がやってくる。

 髪が舞い上がる。


「ふ、ふはは」


 これで終わりだ。

 これで……



 斬ッ



 隕石が両断される。

 そして、目の前に大和が現れた。


「なっ……」

「隙あり♪」


 四肢と首を飛ばされる。

 五体バラバラになった私は空中へ放られたが、首だけ大和が突き刺して保持した。


「何故だ……どうやって、時停めから抜け出した」

「時を斬った」

「……は?」

「俺に斬れないものはない。たとえ概念でも事象でも、斬る。……まぁ、流石に抜け出すには手間取ったがな。おかげで封印を一つ解いちまった」


 大和は難なく着地する。

 なるほど……


「最後まで、手加減されていたのは私ということか……」

「いいや、そうでもないぜ。俺も俺で結構本気だった。封印は、いわば力の解除だ。技術的には、本気で戦っていたさ」

「屈辱だな。敗者にとって、勝者の賛辞など塵以下だよ」

「クククク。じゃ、これ以上はいらないな?」

「ああ、殺してくれ」


 私の頭は四等分される。

 大量の気を、直接脳内に送り込まれた。

 もう再生はできない。

 ……さらばだ、帝国よ。

 さらばだ、大和よ。

 地獄で待っているぞ。



 ◆◆



 ノーランとの戦いが終った後、リナに会いに行って戦果を報告したら、拳骨を貰った。


「隕石が落ちてきたよ! 死ぬかと思ったじゃないか!!」


 まぁ、うん、その、すまんな。

 しかし、借りは返した。

 俺はリナと別れ、高層マンションの残骸の上に立っていた。


「クク、クハッ、ハハハハッ」


 満足だ……久々にゾクゾクきた。

 ヤバイ、笑みがとまらない。

 この終った後の虚無感がなんとも言えず、いいんだ。

 やはり、真剣勝負の後はこうでなくちゃな。


「驚いた、本当にノーランを殺してしまったのね」

「クロエか」

「これからどうするの?」

「別の世界へ行く」

「残ってもいいのよ? あなたは夜の帝国の王になる権利を得た」

「いらねぇな、そんなもの」

「そう……ふふふ、あなたらしいわ」


 クロエはそう言って、俺にしなだれかかる。


「じゃ、私に頂戴。王になる権利」

「いいぜ」

「やった♪」


 この女……


「最初からそれが狙いか」

「えへ♪」


 舌をぺろりと出す。

 可愛いな。


「ったく、女ってのは」


 俺は溜め息を吐きながら、口笛を吹きならす。

 すると、何時ものように次元の狭間から愛車が飛び出してきた。


「暇が見つかれば何時でも来て。また遊びましょ♪」

「ああ、またな」


 俺は愛車に跨り、次元の狭間へ潜る。

 さて、今度は、また新しい世界へ行こうと思ったんだが……

 封印を解いちまったからな。

 封印をし直さなきゃ、ロクに闘いを愉しめねぇ。


「……行くか、魔獣界へ」


 頭が重くなる。

 何せ魔獣界にいるあいつ……俺の力を封印できる唯一の存在は。

 超絶淫乱のドスケベ狐だからな。

 白面絢爛九尾狐、万葉かずは

 また結婚しろって迫ってくんだろうなぁ。

 ハァ、面倒くせぇ。



 《完》


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