プロローグ
俺の名前は服部京也。
四大忍衆の一角、服部家に属する忍だ。
400年前、関ヶ原の戦いが終り、戦乱の世に終止符が打たれてからも、忍は重宝されてきた。
俺達服部家は徳川に仕えていたが、徳川が衰退してからは、日本という国に仕えている。
主君を失って、今は国に忠を尽くしているわけだ。
第一次、第二次世界大戦時も服部家は活躍し、日本を影ながら守った。
唯一、広島と長崎に原爆を落とされたことが、祖父の心残りらしい。
しかし、祖父が活躍しなければ、日本中に原爆が落とされていただろう。
偉大な祖父だ。
祖父のような忍になりたい。
「集まったか」
現在、俺は頭目の、祖父の元へ集っていた。
俺の他にも数十名。
「お前達は服部家の誇る最高戦力、上忍じゃ。お前達に早急に解決してもらいたい案件がある」
祖父は重厚な声音で告げた。
「一週間前、北海道で連続殺人事件が起きた。そして今日に至るまで、あわせて五件の事件が起きておる。死者は5名」
「同一犯なのですか?」
「全員、鋭利な得物で一刀のもと殺されていた。あまりに鮮やかな切り口故に、同一犯と断定した。犯行目的も読めておる。……被害者は全員、非公式の剣客逹じゃ。どこで情報を得たのか、その非公式の剣客逹が次々に惨殺されておる。他の剣客逹は我こそはと猛っているが、正直、手に負えるものではないじゃろう。全盛期の儂でも危うい」
「なんと……」
「頭目が」
ふん……
「そんなことはありません。頭目は御自身の偉業をお忘れになったのですか?」
「口を慎め京也。ならば貴様はこの切り口を見てなんとする」
祖父が一枚の写真を取り出す。
そこには、呆けた顔をした生首が写っていた。
「!」
この切り口は……ッ
「この切り口、只者ではない。お前達ならわかるじゃろう。現代の剣客で、この切り口を実現できるものはいない。それにこの顔、何をされたかわからぬ内に首を跳ばされたという顔じゃ。……儂の勘が告げておる。この切り口を実現した者は、強い。それも、人間の域を逸脱しておる。……魔物の類じゃ」
「ッ」
幾多の戦場を駆け巡った祖父の直感。
それは、殆ど確証に近いものだ。
ふ、ふふ……
「血が滾ります」
「急くな、冷静になれ。今回はお前達全員で任務にあたってもらう。内容はこの切り口を実現した者の暗殺じゃ。防犯カメラにたまたま顔が映っておった」
もう一枚写真を取り出す。
そこには、凶悪な人相をした男が写っていた。
三白眼、ギザギザの歯、褐色肌。
サムライ装束に身を包んでいる。
成程、コイツが……
面白い。
祖父を恐れさせるほどの切り口を実現した実力、見させてもらうぞ。
◆◆
「……ッッ」
両足と右腕を斬り飛ばされ、俺は地面に伏した。
「なんだ、こんなもんか。俺と同じ血の臭いがするから期待したんだが……」
仲間逹の亡骸の上に座る男。
一瞬。
一瞬だった。
廃墟で寝ていたコイツを総動員で襲って、次の瞬間、こうなっていた。
意味がわからない……
「ククク。ただ、この平和ボケした世界にテメェ等のような奴等がいてくれたことは嬉しいぜ。もう少し歩き回ってもいいかもな」
男は刀を担ぎながら、嬉しそうに瞳を細める。
「じゃあな、餓鬼」
視界が回る。
次に目に入ったのは、首がない俺の身体だった。
アア、そうか、俺は首を跳ばされたのか。
すまない、皆。
ごめんよ、おじいちゃん。
先に逝く。