歌姫の少女が壮大なライブを行っている。
「い・の・り!い・の・り!」
相変わらずその声援は続く。もう本人がご登場しているのに、これでは話が聞こえていないのでは?
「それでは、聴いてください。<煌炎鳥>。」
それと同時に流れ始める壮大で力強い音楽。初っ端から凄い曲を持って来たな。
「い・の・り!い・の・り!・・・。」
突然ファンクラブの皆さんの声援が止まる。これからなにが始まるのかと思えば、ファンクラブの皆さんだけに限らず、会場全体が紅い棒を掲げ、左右に振る。
歌姫の歌うその曲は、力強くだが切なく、透き通るような声色で歌われ、歌姫の名に恥じないような美声だった。素人目にも分かる様なその素晴らしさに、気づけば見惚れていた。会場全体が彼女色に染まる。
「夜空に輝け 光の鳥────。」
気付けばもう1曲目が終わっていた。長い様でとてつもなく短いその歌を聴いて、もう耳は幸せだった。
「さぁ、皆さん。盛り上がってきましたよー!」
彼女は場を盛り上げる。先ほどまで黙っていたファンクラブの皆さんが立ち上がる。
「い・の・り!い・の・り!」
先程とは打って変わって、今度はダンスまで付いていた。確かにここまで凄い歌声の持ち主なら熱狂的なファンクラブが出来て当然だろう。
「さて、皆さんには長らくお待たせしたので、少し疲れている人もいるんじゃないですか?」
「「「「おおぉぉぉぉ!!!」」」」
もう、フリで次が何の曲か分かる人がたくさんいるのだろう。さすがファンだ。
「はいはい、私も疲れています。そんな疲労感もこの曲で吹き飛ばしましょう!<癒しの泉>」
先程の曲とは正反対で、静かめの曲が会場全体に響く。先程まで赤一面だった会場が、水色に切り替わる。こういう光景を見るの、久しぶりだな。
「幸せって案外 近くにあるものなんだ────。」
「い・の・り!」
歌詞はいいと思うが、それ以上にファンクラブの皆さんがとてつもなくうるさいです。
「・・・。」
そういえば、こだまとクリスのやつ、やけに静かだな。
そう思い、二人に視線を向ける。
「寝てやがる!というか、こんな馬鹿でかい声援の中良く寝られるな。」
まぁいいや、今はライブに集中しよう。というか席を変えたい。
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気が付けば最後の曲になっていた。透き通る様な美声と通り抜ける隙間もない位圧力のある声を聞いていたら時間など忘れていた。
「まったく、散々なライブだ。」
「さて、本日最後の曲。皆さんお待ちかね、<LAST MUSIC>!!」
会場全体に声援が巻き起こる。歌姫・いのりはスーッと息を吸い込む。始まったのは英語のアカペラだった。先ほどの声援とは打って変わって、その場が静まり返り、全ての人がたった一人の彼女に耳を傾けている。
綺麗な声だ。静かな音色に込められた壮大な物語。LAST MUSICの名に相応しい曲を思わせる。ファンクラブの方も目を瞑ってその声を聞き入っている。辺りを見回すと、先ほどまで優雅に寝ていたこだまも目を輝かせて曲を聴いている。
「世界が滅ぼうとも 還ってくる あなたを求めて────。」
「この曲・・・どこかで・・・」
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プレイヤーネームを決めてください。
ゲーム画面にその文字と空欄が用意されている。元々ゲームは好きだったが、これといってプレイヤーネームを固定させているわけではない。
「プレイヤーネームか・・・せっかくなら一つに絞っておきたいよな。」
少し前から<リトルボール>というプレイヤーに憧れていた。どんなゲームをやってもその名は常に一番上にあった。それがちょっぴり羨ましかった。
「つってもなぁ、あんまりいい名前浮かばないよなぁ。そうだ、なにか別の物を参考にしよう。」
俺は曲を聴きながら部屋中の本を読み漁った。なにか素敵なフレーズがあればそれを使いたかった。
「君に最後の歌を届けたい LAST MUSIC」
音楽プレーヤーの中からそんな歌詞が流れてきた。
「終わりがあるなら見ていたいものだな。」
俺は鼻で笑ってそんなことを言う。でも、そのフレーズが頭から離れなかった。丸パクリするのは叩かれる恐れがあるので、自分なりに改良を施して<エターナルエンド>という名前を空欄の中に入れた。
「ようこそ、<ドラゴンズ×ドラゴン>の世界へ─────。」
パソコンから機会音声が流れた。ここから俺の新たな物語が始まった。
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「んあっ!!」
気が付けば俺はベッドで寝ていた。
「ここは?」
周囲で俺を見守るこだまとクリスに視線を移す。俺の質問に答えたのはクリスだった。
「宿舎だ。お前が突然体調を崩す物だから、わざわざリヨールで借りてきたのだぞ。」
「まったく、突然倒れてどうしたのですか?それより、いい曲だらけでしたね。特に最後の曲は。シュンペイは残念ですね。あれを聞き逃すなんて。」
最後の曲・・・LAST MUSIC。なんだかとても長い夢を見ていた気がする。あの曲、どこかで聴いたことが・・・。
「シュンペイ、もうライブは終わったことだし、帰ろうと思うのだが、もう少しこの街を観光して行くか?」
クリスは質問を向けてくる。
「そうだな、せっかく来たんだし、寄って行くとしよう。」
こだまとクリスに迷惑をかけちゃダメだよな。俺の個人的な問題の為だけに────。
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「あらら、また入っちゃった。もう5回連続だねー。」
男は陽気な声色で白黒男にそう言う。
「もうそろそろマスターも厳しいんじゃない?仕方ないから次でラストにしてあげる。賭け金6000億R。」
その場にいたギャンブラーは驚愕の表情でテーブルを見つめる。用意されている莫大な量のメダル。
「これで10倍に入ったら6兆Rだねぇ。もしかしたらこの世界で一番の億万長者になれるんじゃないの?」
白黒男は口を開く。
「この場にいるギャンブラーは出て行け。俺とこいつの1対1を行う。」
「なにー?俺の事疑ってんの?アンチマジックは付けてるし、手に何かを持ってるわけでもない。じゃあさ、誰もいない状況で俺が勝ったら、100倍で返してよ。60兆R。」
男はナメた表情でそう言う。
「よかろう。さぁ、ギャンブラー達はさっさと出ていってくれ。ここに残った者はこいつへの支払いを肩代わりしてもらう。」
そう言うと、その場にいた人々は足早に出て行く。部屋の中には男2人しかいなくなった。
「ゲームを始める前に問いたい。お前、イカサマをしてるだろう?根拠はない。しているかどうかを教えてほしい。」
すると、男は薄く笑った。
「してないよ。少なくとも俺は・・・。」




