引き篭もりの俺と戦った少女達が何者かに襲われています。
男の背後に台風が巻き起こり、作り出した風を手に持っているかのように構える。
「風の剣、名付けて<不可視の剣>。見えぬ一撃を耐えられるのなら耐えてみろ!」
男は剣を容赦無く振りかざす。アルブヘイムの氷の皮膚は容易く切り刻まれ、尾から腹部までの氷は粉々に砕け散る。
「グオォォォ!!」
「氷龍・アルブヘイムと言ったか?所詮貴様は作り物にすぎん。主を捨て自由の身になれば貴様は俺と対等にやりあえることだろうな。」
男は手に持つ不可視の剣を高く振り上げ、ストンッと振りかざす。
ガシャァァァ!
氷の破壊音と共にアルブヘイムの身体がのほとんどが崩れ去り、力尽きた。
「「アルブヘイム!!!」」
残された2人のAIの前に不可視の剣を持つ男が立ち尽くす。
「最後にもう一度チャンスをやろう。この場で死ぬか、命令に従うか・・・」
2人は喋れなかった。あまりにも絶望的な状況に・・・
「返事をしなければ逃げられるとでも思ったか?俺はそんなに甘くなどない。」
男が不可視の剣を高く振り上げたその時
「その辺にしておけ!エナル。」
何者かの声が男の名、<エナル>を呼ぶ。
「仕方ねえだろ!こいつがこのギルドの禁止事項を破ったんだ。自業自得。」
「あくまでこのギルドはギルドマスターの目的を達成するために作り出されたギルドだ。今そいつらを殺せばここのギルドに注目の目が向き、かえって目的が達成出来なくなる。」
エナルは俯く。手に持つ剣を消滅させ、しずりとすずりを解放させる。解放されたのも束の間、戦いを止めてその者は2人に近づいてはしゃがみ込む。
「この男を探し、このギルドにその情報を伝えろ。いいな?これは命令だ。服従しなければ・・・」
その目には先ほどまでの暖かい何かは存在せず、冷たい何かを持っていた。
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「・・・終わりか?」
シュンペイは2人に質問を投げかける。
「はい。その、監視しろと言われた男が、あなた、シュンペイさんなんです。」
しずりは申し訳なさそうな表情でシュンペイに謝罪をする。
「質問をもうひとつしていいか?」
2人は頷くと、シュンペイは口を開いた。
「2人と戦った男はエナルって言ったよな?お前達2人が元いたそのギルドの名前って・・・」
2人は同時に口を開き、聞き覚えのある名前を告げた。
「「DEATH SENTENCE」」
こだまとシュンペイの背筋は、何者かに触られた様に冷たく凍りついた。エナルという名前にはよく身に覚えがある。あの殺戮ギルドにお邪魔した時、俺と話した男の1人だ。
「・・・本日は本当にお2人がご失礼な事をしました。2人は後々ちゃんと叱っておきますので・・・」
突然口を開いた後ろで話を聞いていた2人の姉らしきAIの菊乃。
「あ、はい。こちらこそ、ご迷惑をかけました。またご機会がありましたら、その時に・・・」
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強引に別れを告げられ、俺とこだまは帰り道を歩いていた。
「シュンペイ、あの菊乃っていう人についてどう思います?」
「別に、面倒見が良さそうな人に見えたけど・・・そうやって言うって事は、なにか感じたのか?」
こだまは頷く。
「雰囲気だけなので決定付けることは出来ませんが、とんでもないほどの化け物だと私は感じました。運動会の時にも言っていましたが、AIの中で5本の指に入るほどの実力者なんですよね?」
言われてみればそんな様な事を言っていた記憶がある。
「恐らくですが、最後の騎馬戦の時に暴れていためちゃくちゃ速いAIも、5本の指の内の1人でしょう。アレが戦闘するとなると・・・考えただけで恐ろしいです。」
あのリトルボールがこんな声色を上げるとは・・・ワイバーンを討伐した時よりも遥かに暗い。こだまの勘が正しいのなら、菊乃さんは間違いなくヤバイ。
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「しずり、すずり、さっきの話、話して大丈夫だったの?」
菊乃がそんな質問をする。
「あのギルドの計画はもう失敗に終わってるはずだから、多分大丈夫だと思うよ。」
すずりが菊乃の質問に返事をする。
「そういえばすずり、あなたはいつからあんな能力を使える様になっていたのかしら?昔は一つの能力を極めるってうるさかったのに・・・」
「逃げて!」
菊乃は突然2人を押す。
「「えっ!?」」
「早く逃げて、ここは危ない。」
菊乃は焦りながらも電気で作られた剣を構える。
「すずり、ここは逃げるよ?」
2人は足早にそこを去る。
「よくもまぁ背後からの接近に気付けたね。さすがだよ、元史上最強AI・菊乃。」
「その呼び方は出来ればやめて欲しかったのだけど・・・イズナ、どっちが最強かはっきりさせようよ。」
すると、背後から襲撃をしてきた少女が姿を現す。
「誰が最強のAIかはもう公式で決まっているはずだけど、それに、重力を操る私に、雷を操る程度のアンタが勝てると思う?」
2人の間に緊迫した雰囲気が漂う。
「「決着をつけようか!」」
菊乃を真紅のオーラが包み込む。
「んぐっ!」
菊乃は突然地に手を付ける。
「グラビティ70・・・本来の重力の7倍に値する重さ。普段の生活に慣れれば慣れるほどこの重さには耐えられなくなって行く。」
イズナは少しずつ菊乃に近づいて行く。
「ぐっ・・・初っ端からこの力を扱うとは・・・容赦ないね・・・」
するとイズナは大声で嗤い出す。
「なにを言ってるの?まだこれは7割だよ?大体、勝つために相手を弱らせる事のなにが間違いだって言うの?」
菊乃も同様に、密かに口を綻ばせる。
「ならこっちも返させてもらうよ。」
バチチチィン!!!
淡い紫の電撃が地を走っては身体を巡る。
「ああああぁぁぁ!」
イズナが叫ぶ。異常な程の痛みに身を駆られ、苦痛となって屈み込む。
「おかげであんたの能力も切れたよ。集中を解いてしまった様ね。」
菊乃が渦巻くイズナの前に立つ。
「地を駆け抜ける紫電と共に、落ちては響けよ雷鳴。喰らえ、麒麟!!」
辺りが暗雲に包まれ、突然雫が空から垂れてくる。
菊乃が上げたその手を振り下ろした瞬間・・・
チュドォォォォォォォン!!!!
漆黒となった雷が木々を貫いてはイズナをめがけて落ちて行く。
直撃した辺り一面は草すら生えておらず、完全に荒地と化していた。しかし、そこにイズナの姿は見当たらず、辺りを見回してもその姿はなかった。
「どこに行ったの?まさか光よりも速く逃げたとでも・・・」
「その通りさ。」
背後から声が聞こえる。振り向けばそこにはイズナの姿があった。
「グラビティ0。超音速を軽く超越する圧倒的速さの世界では、光の速度よりも速く走るなど造作もない。」
これまでに麒麟を避けられた事がなかった菊乃は、かなり焦っていた。
「ヤメだ。これ以上やっても森を荒らすだけだ。」
イズナは菊乃から距離を取っては帰っていく。そのイズナを止める様に菊乃は捨て台詞を吐いた。
「速さだけではどうにもできない世界が存在するわよ?」
その意味の深い言葉を聞いて、イズナは悟った。
「ユクシルの事を言ってるのか?」
菊乃はコクリと頷いた。




