運動会、それは見えないモノが見えてくるもの。
「始まりの街組<エルモ選手 職業:ランサー>、ラグズル組<カーナラル選手 職業:魔法使い>、フェノールタウン組<リョウ選手 職業:剣士>」
「こだまちゃん!見ててねー!」
リョウは再び周りから痛い視線を喰らう。
「自分で傷口を抉って、辛くないんですか?」
カーナラルがリョウに問う。しかし質問内容に合わない内容が帰ってくる。
「あれ?あなた、どこかで会いませんでした?」
「あ、面と面とで会った事はないですが、一度だけ・・・」
リョウはやはりと言わんばかりの顔をする。
「でもなんで彼女の事をふったんですか?もしかしたらもう一生チャンスは来ませんよ?」
本人とこだましか知り得ない事をカーナラルは言う。
「確かにもう来ないチャンスかもしれない。でも僕はこれから寄りを戻すのさ!」
するとカーナラルは呆れた様子で「上手く行くといいですねー。」と興味なさそうに言う。
「いちについてー・・・」
突然スタートの合図が鳴る。
「容赦はしませんよ。」
「よーい・・・どん!」
スタートの合図と共にカーナラルは両サイドの選手に触れる。
「こんなんでよろしいですかね。」
途端、エルモ選手の顔が真っ赤に染まる。
「ダメだぁ!なんでこんな時に思い出してしまうんだぁ!」
エルモ選手は会場から逃げ出す。
「えーと、エルモ選手は棄権という事で、強制的に3位となります。」
しかし、カーナラルは納得の行かない表情だった。
「なんであなたは顔色ひとつ変えないのかしら?」
カーナラルはリョウの顔をうかがう。
「逆になんで顔色を変えなければならない?」
するとカーナラルは言葉を発するのをやめる。
「まあいいや、お互いに能力を使わずに正々堂々と戦おうか。この<障害物競争>で!」
リョウは握手を求めるようにカーナラルの手を握る。
「はいはい、そうですね。」
カーナラルはテキトウに返事をする。
2人はその場から走り出す。
「でも、女性が男性に勝てるわけないじゃないですか。」
するとリョウは表情を変える。
「そんな事ないと思うけど・・・君はかなりの実力者だと見ている。なんか、魔法使いとは関係の無い特別な能力を隠してないかい?」
意味あり気な質問にカーナラルは「察しが良いですね。」とだけ言う。
グラウンドの4分の3を超えた辺りでリョウのペースが急激に上がる。
「うぉし!俺の勝ち!」
リョウは紙を拾い上げて勝ち誇る。
しかし、最後の最後でペースを上げて勝って、その上勝ち誇るなんて、いい評価は受けないし、むしろ周囲の女性からは「うわっ、サイテー」や「マジでなんなの?アイツ」などの批判的な声が挙がる。
リョウは紙を開くと跪く。
「なんだよ・・・これ。」
絶望した表情を浮かべる。
「そんなに酷いモノを引いたんですか?」
あとから到着したカーナラルが嘲笑うように言う。
「実はですね、この障害物競争を提案したの、私の所属しているギルドなんですよ。勿論準備したのも。だから私はあなたが何を借りなければならないのかを知っている。」
リョウは再度紙を見て、「言ってみろ」という。
「その前に立ったらどうですか?」
カーナラルはリョウの腕を持ち、立たせてる。
「彼氏(彼女)への別れのメッセージ・・・ですよね。ふふっ、あなたの為だけに用意したんですよ。」
「こいつ・・・」
リョウは拳をグッと握りしめる。
「ふざけんじゃねぇ!」
パシッ!
リョウの突然の攻撃をカーナラルは受け止める。
「暴力はダメですよ。じゃなきゃあなた、退場になりますよ?」
するとリョウは舌打ちをし、手を離す。
「これ、あげます。」
カーナラルはリョウに手紙を渡す。
「こ、これは?」
「こだまさんに送る為の手紙です。選んでください。こだまさんに別れを告げるか、勝負に負けて自分の街の皆に白い目で見られるか・・・どちらにしろ、楽園なんて待ってないんですよ。きゃはっ!あははははっ!」
カーナラルはその場にしゃがみ込む。
「えーと、確かこれが一番楽な物だったよね。」
目の前の紙を手に取り、「さて、マスターに借りに行きますか。」と言って足早に男の下に向かう。
「くそっ、あいつ、絶対に思い通りにさせないからな・・・」
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「えー、じゃあ<ヴァールステーキ>をひとつ。お前らは?」
クリスとこだまは手元のメニューを見る。
「お前ら、決めたって言ってたよな?」
「見れば見るほど美味しそうに見えてくるのです。」
こだまがよだれを垂らしながらそんなことを言う。不潔な奴め。
「ゴブリンの体液をふたつ。」
俺は2人のメニューを勝手に決める。
「二つって、お前、勇気があるな。」
「ん?お前らが決めるの遅いから決めてやったんだぞ。」
すると2人の顔が青ざめる。
「お前!勝手に注文した上にゴブリンジュース!?飲んでられるか!」
それ以上は営業妨害になるぞ。いや、もうなってるけど・・・
「とりあえず以上でいいですよ。」
注文を完了させる。
「かしこまりました・・・」
店員はメニューの繰り返しもせずに去っていく。
「ちゃんと貴様が払うんだろうな?」
「払うから飲めよ。」
ただでさえ青かった顔がさらに青くなる。
「お先にゴブリンジュースお二つです。」
早いな!
クリスは飲むのを躊躇っていたが、こだまは飲んでしまう。
「ん?これはこれでおいしいですよ。」
こんな事、前にもなかったか?気のせいか。
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「さて、早く決めてもらおうか。」
リョウの下に戻ってきたカーナラルが再び選択を迫る
「行きたきゃ行けよ・・・」
「こだまさんを選びましたか。」
カーナラルはゴールの方へ向かう。
「その時点でお前の負けが確定するがな・・・」
「え?」
カーナラルはその場に立ち止まる。
「ふん、寝言は寝てから言いなさい。」
しかし、リョウの返事は意外なものだった
「信じたくなきゃ信じなければいい。もう一度忠告する。ゴールに向かった時点でお前の負けだ。」
「見え透いたハッタリを・・・」
カーナラルは再びゴールに向かう。
「もう一つ言い忘れた。俺の職業は剣士、種族は神族、能力内容は人の考えている事が連携して自分にも伝わる。発動条件は敵に触れる事だが・・・いい加減自分の紙を広げたらどうだ?」
カーナラルは自分が紙を開封していない事に気付く。
「ま、まさか!」
カーナラルの紙には<彼氏(彼女)への別れのメッセージ>と書かれていた。リョウは2人の紙を入れ替えていた様だ。
「自信のあったお前が自分の取った紙を確認しないなんて、それだけの実力を持っているのに、あんたらしくないミスだったな。言ったろ?お前の負けだって・・・」
「お前、いつ私に触れたというのだ!お前と接触するタイミングなんて・・・」
「記憶を操る能力者なのに、自分の記憶は掘り返せないのか・・・本当はお前が敗者だったんだよ。そっくりそのまま返してやる。楽園なんて待ってないんだよ」
「し、質問に答えろ!いつ接触したというのだ!」
いつになっても自分の記憶を取り戻せないでいるカーナラル。
「どんなに考えても思い出せないなら思い出させてやる。まず、俺が跪いてる時にお前が手を差し出して立たせてくれただろ?」
少し前の自分のやった出来事だ。それは憶えて・・・
「まさか、その時からっ!」
「いいや、もっと前だ。エルモが棄権した時にお前が只者でない事を実感した俺は、お前に能力を使用しないという約束をした。その時に握手しただろ?」
確かに2人の間に握手は交わされていた。
「つまりお前が自らの約束を破ったと・・・」
「なにを甘い事を・・・勝負に約束も何もあるかよ。お前こそ仲間を裏切ってんじゃねぇのか?」
カーナラルの顔に色が消えて行く。
「なぜ、その事を・・・」
質問にリョウは「能力だ。」とだけ答える。
「く、くそおおぉぉぉぉぉ!」
カーナラルはその場に身を沈める。
「もう一度言う。お前の負けだ。」
リョウはカナの持つ借り物を奪い取る。
「良かったな、仲間がこの場に居なくて・・・」
「か、勝ったのは、フェノールタウン組のリョウ選手だーーーーーー!」
その時、3人は何か良からぬモノを感じた。何か大事な人がいなくなるような。それらを全て意図していたかのように、黒幕が動き出そうとしているかもしれない事を・・・
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「すみません、負けてしまいました。」
カーナラルは男の前で膝を着く。
「いや、彼等がいなかった時点で今回は捨て試合だ。しかしあれほどまでの実力者がいたとは・・・アリス、お前の出る幕が来るぞ。明日実行する。この運動会の後だ。」
男は笑みを浮かべる。
「マスターはいつも面白い事を考えますね。しかし、カーナラルはこの目的を達成する上で足を引っ張るのでは?今日までずっと活動をしていたのだから・・・」
すると男は少し黙り、口を開く。
「いいや、達成するにはカーナラルは必要不可欠だ。俺の能力<洗脳>とカーナラルの能力<記憶操作>を合わせれば、あいつも脱獄を認める事だろう。」
男はぐしゃりと嗤う。カーナラルはこれまでの自分の記憶を振り返る。一緒に笑った、一緒に戦った事。そして、一緒に過ごした日々を・・・それが偽りの日々だったなんて、自分でも怖くなる
「明日が、最後です。さようなら・・・」
はやくも15話目!
はい、以上です。今日は少し体調が悪いので、あとがきはこれ以上書きません。また来週ー。