ヒキニート冒険者の長い戦いがついに終わったぞぉ!
これが・・・メビウスか・・・
目の前に存在する巨大な魚。ゴブリンの時とは全く異なった感覚、今回ばかりは簡単にはいけなそうだな。
「海竜・メビウス。その巨体とは裏腹に、とんでもない速度で移動し、プレイヤーに致命的なダメージを与える。攻撃力も鬼神ゴブリンを大きく上回ると思います。」
懐かしい名前が出てきたな。あの、あれだろ?俺たちの馬車を壊したやつ。
「あれはあれでトラウマだな。まぁ、今思えば対した事ない敵なのだがな。」
クリスが少し調子に乗り気味に言う。
そんな雑談をしてる余裕もなく、メビウスがこちらに向かってくる。
スピャアッ!
無音、そして速い。
「ぐっ、狙いが・・・定められ無い。」
弓を構えたクリスが困り顔で言う。
「クリスさんは後ろに下がっていっ!」
カナが吹き飛ばされる。
今、何がっ!?
そのカナを追尾するようにメビウスが猛スピードで駆け抜ける。
ビャン!
大きく飛び跳ねた。向かう先にいるのは飛ばされたカナ。
「グガァァ!」
メビウスの尾がカナの腹部に直撃する。
「ぐっはぁ!」
カナは血を吐く。
ぶしゃあ!
水しぶき。メビウスは飛び跳ねた水を飲み込む。水を得たメビウスの動きは先程よりも速くなる。
「ぐげぇぇ!」
「クリス!近くにある岩陰に隠れて隙を狙ってください!このパーティには遠距離攻撃ができる人はクリスしかいません!」
こだまの的確な指示にクリスは従う。
が、作戦を実行する余裕も与えてくれず、メビウスは全力疾走で接近し続ける。
チュドオォォ!
メビウスは胴部分でタックルしてくる。
範囲も大きく、速い。反応出来るはずもなく俺とこだまは飛ばされる。
俺とこだまはジブラル海にぶち込まれる。
「ぐぅっ!」
「ぼわふぅっ!」
まずい、急過ぎて息が・・・
普段運動しない俺じゃ水中では何もできない。頼みの綱のこだまは・・・
「ごぼぼっ!」
ダメだ!あいつの体格じゃ泳げても無理だろう。しかもあの様子じゃ。どうすれば・・・
俺は目を瞑って奪還方法を考える。
いや、考える余裕なんてない、これじゃ沈んでは水圧で殺される。
俺は体を動かす。自分の今持てる力を全て振り絞ってこだまを追う。
届け・・・あと、少し。
こだまは目の前にいる、なのに届かない。手が短くなったのか?違う、お風呂で経験がある。湯船とかで指が小さく見えるあの現象だ。
まずい!息が!
「アンチウォーター!」
突然周囲の水が吹き飛ぶ。
「ぶっはぁ!」
九死に一生を得た。カナだ。瀕死になってはいるものの、魔法で水を消した様だ。
助かった・・・
でも、こだまの意識は完全に飛んでいる。
「こだま・・・」
怒り、俺はイクセントをぐっと握る。
「許さないぞ。」
俺は水を掻いて陸に上がる。
「覚悟はできてるな?」
「待て!その位置は!」
上から巨大な水玉が降って来る。
「ごぼぉっ!」
水中の時よりも重い。水圧とは違う何かが起きてる。まずい・・・
「くらえっ!グラディウスショット!」
光を帯びた矢がメビウスを貫く。同時に俺に降ってきた水玉も消失する。
「グエェェ!」
クリスだ。少し高い位置から矢を構えてメビウスを睨みつけていた。
「これが、こだまの分!」
再度矢を放つ。何も纏っていない無属性であるが、かなり威力がある。
が、その矢は身体に弾かれる。
「なっ!」
それによって位置を特定したのか、メビウスはクリスの方を向く。
「グググ・・・」
ビジュオオォォォ!
口から水色のレーザーが飛び出す。
「ふんっ!」
クリスは岩から足を離す。いや、そこには足場がないっ!
クリスは落下する。
「まてっ!」
俺はこだまを差し置いて全力でクリスの落下地点にダッシュする。
間に合え・・・間に合え・・・間に合えぇ!
ヘッドスライディングでクリスを抱きかかえる。
「はぁ、はぁ、間に合った・・・」
するとクリスは顔を真っ赤にして「離せっ!」と言い放つ。
なんでだよ、助けたのに。
「ありがとな、こんなところで言うのもあれだが、シュンペイ、これが終わったら、私と一緒に・・・ くれないか?」
「え?今、なんて言った?」
「い、いや!なんでもない!忘れてくれ!今はあいつを倒す事に集中するのだ!」
顔を真っ赤に染めたクリスが大声で言う。
(どうして私はいっつもいっつもこうなのだ。いい加減自分の気持ちを伝えられるようにならないと・・・)
最近あいつ、やっぱりおかしいよな。
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「覚悟してくださいね、あなたの余命はあと30秒ですよ!」
カナはメビウスから距離を空けて詠唱を唱える。
「全テヲ知リ、全テヲ従エル全知全能ノ神、此ノ地ニ現レシ海竜ヲ消シ尽クセ。」
カナの周囲に緑色のオーラが浮かぶ。
「天地神明!」
その魔法は、カナを中心に地割れを作り出す。
メキッ!メキメキィッ!
「グ、グガァ!?」
今頃気付いた様にメビウスはこちらを振り向く。
その時、メビウスは大きく跳び上がり、海へ一直線に飛んでいく。
「逃がしませんよぉ!」
分割された地面の内の一つが浮かび、メビウスの方へ追尾するように飛んでいく。
ガチィッ!
激突したメビウスは空中から転落する。
「さて、トドメはお願いしますよぉ!」
「はい。」
気絶から復帰したこだまは杖を構える。
「アルーブウィード、イルムードフォード、エギレオンセプテッド!」
今までのどの魔法よりもオーラが強い。
「こだまさん!その技は身体に大きな影響を・・・」
「くらえっ!」
影響!?つまりは反動があるって事か!?
「天衣!」
魔法の名を唱える。すると、視界が真っ白になり、赤と黒の光が点滅する。
チュドォォォォン!!!
以前見たカナの<森羅万象>よりも爆風が強い。
「グゲエエエェェ!」
モンスターの悲痛の叫び。あんなのを正面から喰らえばそうなるのも当たり前だ。
ドバババババ!!!
メビウスを中心に小さな玉が破裂する。
「グガァ!」
「これで最後です。」
こだまに再びオーラが纏う。
「終焉」
再度視界が悪くなる。するとメビウスのいた位置が大爆発を起こす。
ズドオオォォォ !!!
「ん、んん・・・」
視界も良くなり、爆風も消える。目の前の光景は身体の3割程度が吹き飛んだメビウスとその場に座り込むこだま。
「こだまさん、無理はいけませんよ。とりあえず休んでてください、まさか生き残るとは思わなかったでしょう?」
「はい、この技を耐えるモンスターなんて、ケルベロスとオロチ以外聞いた事ありませんよ。」
ケルベロスとオロチか・・・いかにも強そうだな、いつか戦う日が来るだろう。
「グウゥ、グガァァァァァ!」
咆哮、しかもうるさい、鼓膜が破れそうだ。
「今がチャンスです!クリス、刺してください!」
「あ、あぁ!ブレイズアーチ!!」
赤く染まった矢がメビウスに刺さる。いや、待てよ、あれだけの速度で動き回ってた奴に弓があっさり?あの状態なら避けられたはず・・・なんで?
ふと疑問に思った事だが、正解は案外あっさり見つかった。
それは、あいつのあげた水しぶきを飲み込んだとき、あいつの速度が急激に上昇した事。つまり、飲ませなければ劣化する。
「今なら!」
イクセントを構えた俺は全力疾走でメビウスの元へ向かう。
「俺の初活躍!くらえーーっ!」
俺は高く跳び上がり、自らを回転させながらメビウスに接触する。
ジャキ!ジャキジャキ!
メビウスが血を吹く。
「滅龍陣!!!」
メビウスの身体中に黒い稲妻が走る。
「くらえぇ!」
イクセントを全力で振りかぶる。
ズシャァ!
「グキャアァァ!」
2年前、俺のやっていた戦闘ゲームで俺は13連撃を編み出した。真似すればいけるかも!
力いっぱい剣を振りかぶる。
ザクッ!ザクッ!ザザザザザザッ!
「これで、終わりだぁ!」
イクセントに緑色のオーラが宿る。
ズザァ!
「グガアァァ!」
「避けろ!シュンペイ!」
「よくやってくれました!」
クリスとこだまが技の準備をしている。
「「これで、トドメだぁ!!!」」
「グラディウスアロー!」
クリスの矢が飛ぶ。それと同時にこだまは
「シャドウボックス!」
聞いた事のない魔法を放つ。
メビウスの周辺一帯が曇る。闇が濃くなり、ついにはメビウスが見えなくる。
「圧縮!」
闇の箱は徐々に小さくなって行く。俺の身長程になった時
シュパァーン!
箱と共にメビウスが破裂する。
「・・・終わった・・・のか?」
やめろ、それはフラグだ!
しかし、数十秒待ってもメビウスが現れる気配はない。
「勝った・・・」
「はぁ!」
こだまがその場に座り込む。
「座ってる暇はありません、帰りますよ!」
カナの指示に従い、馬車の方へ向かう。
あぁ、長い戦いだったな。
カナが報酬を受け取り、資金は山分けする。するとクリスが
「ま、家など買わなくてもいいぞ、私の家で暮らせばいい。」
「え?・・・」
怒りが込み上げてくる。
「じゃあ今日のはなんだったんだー!!!」
あぁ、やっと12話か、長いな。
書いてる時はたのしいんですけど、一回やめるとめんどくさくなるんですよねw
そ・れ・よ・り!新年篇なのですが、投稿日を変更致します!
できれば変えたくないのですが、進行度からして明日は厳しいのです!
という事で、1月1日の0時〜1月5日の0時までに投稿します!よろしくです!
あ、ちなみに13話から章が切り替わります!