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キミとアナタは心星ーアンタレスー  作者: 高原 律月
2 - 秋の実りは過ぎてゆく
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#8.林檎道の畦に転がる枯れた井戸

 彼女の低いような高いような声がやけにハッキリと響く。


「王女様。過ごしやすい時期に差し掛かり、お出掛けの季節ですね。そろそろ身支度をすると良いと思いますよ?」

「なに? 突然、何を言っているの?」

「いえ。果物も実り、収穫の頃合いになってきたものですから、もがれて実が無くなる前にと思いましてね」


 私が首を傾げていると、彼女は身振り手振りでドアの外に人が居るコトを報せてくれる。


「そうね…。具体的には何がオススメなのかしら?」


 私は相槌を打ち、彼女の話の流れに合わせる。


「私としてはリンゴがオススメですね。特にこの辺のリンゴは甘さと酸いが程よく、食感も瑞々しくて絶品ですよ。なんでも、城下でも御用達だそうで王様も家臣に贈りたいと申されていたそうです。色合いからしても素晴らしく、その赤色はまるで宝石のようだと言われていており、そんな逸品を贈答品に選ばれた王様も流石と言えますね」


 なるほど、彼女が何を危惧しているのか。

 私は、"リンゴ" でピンと来た。


「父上も果物を家臣に与えるなんて面白いお人ね。まあ、確かに我が王家の象徴が知恵の実ではあるけれど、どうせなら果樹園でも差しあげれば宜しいのに」

「木はまた実を付けるから勿体無いとのコトだそうです。御家臣様は果樹園を戴いたのなら、必ず樹を切り倒して新しいお館をお造りになられるでしょうから」

「なるほどね。それでは折角の果樹園が台無しですものね。なら、私にその果樹園を下さっても良いのに」

「ソレは良いお考えではありますが、農作業とは女子には大変なものですからね」

「あら? こう見えて私、昔は農作業をしたコトもあるのよ?」

「ふふ。姫様らしいですね。ただ、誰かが手入れしたモノを収穫するのと、御自分で一つ一つ手入れするのは違いますからねえ」

「そうかしら? まあ、ソレなら仕方ないわよね。ところで、この話を知ってるのは他に居るのかしら?」

「ええ。当の家臣やそのご子息、他には果樹園の主には伝わっていらっしゃるみたいですよ」


 彼女の話から想像するに、どうやら父上には大層気に入った御重臣の子息が居るみたいだ。


「そう…」


 私は思わず、物憂げに耽ってしまう。

 侍女が私のそんな姿を見るなり、懐からある手紙を私の前に差し出す。


「で、私もその主とは知り合いなモノですから、リンゴを分けて頂けないか尋ねて参りました」

「という事は、貴女は誰からそのお話を聞いたのかしら?」

「我が家は代々、ある方のお世話をさせていただいておりますから、チラッとそのようなお話をされているのを耳にしまして」


 この侍女、やっぱりそういう稼業だった訳だ。


「ふふ、そーいうことね」

「はい。それでですね、先ほど出てきた主人の返事がソチラになります。返答次第では、私にも分けて貰えるかもしれないですね。そしたら、ご一緒にと思いまして」

「やけに長い前置きだったけど、要は貴女が食いしん坊ってコトね」

「えへへ、私は果物には目がなくって。好物のリンゴときたら、つい食べてみたくなりました」


 彼女の目はキラキラ輝いているが私はどうも乗り気になれない。


「ただ、そのリンゴを食べるには困難かもしれないわよ?」

「大丈夫ですよー。お腹の中にさえ入ってしまえば、誰にもわかりませんて」

「父上がお気に入りの逸品だというのなら、厳しい制限があるハズよ?」


 私は仕方が無いコトなので、諦めるようにほのめかす。


「ソコは食い意地でカバーします。ソレにそんなリンゴを頂けるなら、死んでも悔いは無いですから」

「よく言うわ。果物で命を落とすなんて、馬鹿のするコトだわ」


 どうしても…と、食い下がる彼女に、私は少し苛立ち、厳しい口調になってしまった。


「私にとって…いや、私とリンゴ園の主にとってそのリンゴとは特別なモノなんです」

「それなら、食べた事あるんじゃないの?」

「いえ。リンゴ園をやってると聞いたのは、つい先日なものでまだ食べたコトがないのです。ただ、その主人は小さな頃から美味しいリンゴの樹を育てて、みんなに幸せを届けたい。と言ってたような奇特な人でしたから、そんな彼の育てたリンゴはどんな味か気になるのです」

「ふうん。物好きなのね、あなた達」

「よく言われます」


 彼女の説得に呆れつつ、私は重い腰を上げるしかなかった。


「解ったわ。それならこの手紙次第で私も出掛ける支度をした方が良いという事ね」

「ええ。帰りは山盛りでリンゴを持って帰るので、荷物は本当に必要なモノだけにして下さいね!」

「何処に隠しておくのよ? そのリンゴを」

「外れの山に秘密の小屋があるので、ソコに隠しておけば問題無いと思います」

「ふうん…」


 話も一区切りつき、日も高くなって来たのでドアの前の誰かが退くのを待つのも飽きてきた。

 そこで、私はこう口にした。


「というか、人の話を盗み聞きした挙げ句、堂々と盗みの話を出来る神経が私にはわからないわ…」


 呆れ口調に言うと、侍女もため息を吐く。


「ふふ、大丈夫ですよ。こんな城の端の最上階なんて余程の物好きですから、滅多に来ませんよ。ソレに王女様はお体がよくもないので、幼少の頃から部屋の外に出たコトなど、ほとんどありませんもんね」


 相変わらず意地の悪い言い方だな。と感心してしまう。


「そうね。だから、身の周りの世話は全て貴女に任せてられているのだから」


 少し回り口説かったのかもしれない。

 まだドアの向こうの人間は離れようとしない。


「そうですよ、だから私以外が来るはずありませんよ」


 ー来るはずない。そう語気を強めて彼女が私に言葉を返してくる。


「そういうコトになるわね」


 私の会話の内容から密偵が勘付かれたコトに気が付いたのか、ドアの外の気配が消えた。


 ー ガタっ!


「掛かった!!」


 彼女は気配が消えたと同時に椅子から跳び上がり、後を追う。


「追う必要あるの?」

「リンゴ園の主に迷惑掛けたくありませんから! ではっ!」


 彼女はそう言い残して、あっという間に去っていってしまった。



ハジメマシテなコンニチハ!


高原 律月です。



本日はお日柄も良く、第8話の投稿です。

拗らせ過ぎて何処吹く風か、寒さによる脳の停止か、訳の解らないテンションになってまいりました。


だって、だって、噫無情。

だってだって、アレはプジョー。


いとおかしかな。



ふう、何を言っとるんですかね?

どうやら、元々おかしい頭が更におかしくなっとるみたいです…。



そんなこんなで、第8話をお読みいただきありがとうございました。




それでわ、また次回〜ノシ

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