#3. 千切れた花弁の行く先は…
「いてっ! イテテっ!」
太陽が西へと流れ、辺りがめっきり暗くなった頃、彼女が唐突に俺の部屋へ押しかけてきた。
「ぎゅーっ!!」
肩をいからせた彼女は無言で俺の耳をつねった。
「な、何だよ! 痛いだろ、やめろよっ!」
「何だよ、じゃないわよ! このバカちん!」
耳をつねられる理由など思いつかなかった俺は、少し不満気に彼女の指を耳から遠ざける。
「えー、なんでそんなに怒ってんだよ。俺、何か悪い事した?」
「ピクッ…」
彼女の眉が持ち上がると、俺は意図せずに半歩身を引いていた。
「うげぇっ! もしかして、逆鱗に触っちった?」
慌てた俺は、戯けて彼女の気をなだめようと、その顔を覗き込むと、彼女は目に涙を溜めてプルプルと震えていた。
不味ったな…と、顔を手で覆って言葉を捜していると、俺の脳ミソが激しくシェイクされる。
「ガクガク…」
「ア・ン・タ・ねえ! 私の今までしてきた努力を、どうやったら1日、2日で壊せるのよっ! ホント、信じられない!! おかげさまで、朝から説教されまくりの質問責めよっ! どうしてくれんのよ!?」
溢れた涙が感情の昂ぶりで出ただけだと解った俺は、安堵し、またからかうように惚けてみせた。
「あ、アレが不味かったのかな? 侍女をナンパして歩いてから? それとも、銅像に落書きした事? 大臣様に水をぶっ掛けた事? 後は…」
「全部よっ! 全部!! 昨日、入れ替わって起きたら大騒動じゃない!」
「まあ、良いじゃん。おかげで侍女も来なくて、のんびり出来たでしょ?」
「よかあないわよ! ああ、ホントもうサイアク…」
さっきほどの威勢は何処へやら…彼女は肩を落とすと、顔を伏せてしまった。
不意に静かになった部屋の空気に耐え切れず、俺も俯いて、小さく謝った。
「ごめんよ、悪かったよ。反省してる」
俺が恐る恐る顔を上げると、彼女の顔は何故か紅潮し、耳を手で隠すとクルリと背を向けた。
「うぐっ…、もう良いわよっ! 許してあげるけど金輪際、アンタとは入れ替わらないから!! 」
ーばたむっ!!
「タハっ…やり過ぎたみたい」
俺は一昨日の夜、入れ替わった後に例の襲撃犯との一件を聴き取りされて、晩飯に手も付けずに寝た。
次の日に起きるなり、大臣に呼び出されたので審議の間に行くと、やれなんのだの騒ぎ立てて、挙句抜け出した夜の件やら、出来損ないだの、あーだこーだ因縁付けてくるもんだから、つい頭に来て、正面に居た御重臣のハゲ頭に水をぶっ掛けて、憎まれ口を一つ。
「駄目ですよぉ。枯れた草にはちゃんと水をあげないと、根っこが干からびてカチカチになっちゃってるじゃあないですか」
なんて言って、部屋を飛び出してみると、何やら城の人間が遠巻きに見るから、コミュニケーションを計ろうと声を掛けて歩いてたのが間違いだったみたい。
「しかし、まあ。アソコまで疎まれれば、人間歪むのもムリはないよなぁ…」
この14年間、彼女がずっと、あの環境で生きていた事を考えると、俺は思わず、ボヤいていた。
「あり得ないだろ。人間扱いされて無いもんな。完全にバケモノか道具だと思ってやがって、あのジジイ共っ! 水ぶっ掛けるどころか、素首跳ね飛ばしたろーかと思ったもんな」
あの欲に取り憑かれたような汚い面を思い出すと、苛立ちが蒸し返してしまう。
「父様も父様だよ! 自分の子供があんな扱い受けてるのに、知らぬ存ぜぬだもんなあ。嫌になるよ、まったく!」
プラプラ歩いていたら、これ見よがしに建ってる銅像に落書きしたくもなるってもんです。
「しかし、ホントに腐ってるよな、この国は。どうにかして、作り変えなくちゃいけない。ただ、俺にはその権利すらないのだけど…」
ベッドに寝転がると、スカートの裾を捲って、右脚の付け根をジッと眺める。
「何で、俺じゃないだ。どうして、俺は…」
意味の無い問答を自分に問いかけようとして、虚無感が増すと、俺は目を瞑るように顔を枕に埋めた。
そして、程なくして俺の意識は遠退いていった。
ハジメマシテなコンニチハ。
高原 律月です。
第3話になります。
今回は視点が変わってますね。
サイド的な感じにしたかったので、軽めなお話にしたつもりです。
いきなりの変更で多々読みづらい部分や解りづらいところがあるかもですが、まだ序盤ですので、これから先で説明していくつもりです。
たとえるなら、そう。田植えしてるみたいな?笑
もしくは、耕して整地してる感じですね(謎)
主人公の視点だけだと、一ヶ所しか見えないので、今回は相手役(王女なのか王子なのか)の視点でおさらいを含めつつ、進行出来たかなぁ…と思います。
もう少し、上手いやり方があったのかも解らないですけど、取り敢えずは今の文章力で出来る事は出来たはずです!
そろそろ、起の部分も終わりになると思うと
一安心のような、コレで良かったのかな? みたいな不安がありますね。
そんな、うるとらすぺしゃるどーでもいいことを呟きながら、次のお話を考える今日この頃でした。
それでは、また次回ー ノシ