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キミとアナタは心星ーアンタレスー  作者: 高原 律月
4-まどろむ春の昼下がりに見えた満月
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#28.それでも歩けば、きっと

 冷たい石壁にもたれ、汚れの染みた天井を見上げた。時計が3回、カチカチと鳴った気がする。

 壁の向こうにいる彼と鉄格子の中から会話を交わした。


「体調はどうですか」

「そっちこそ」

「私は大変良好です、囚われてるとは思えないくらい良くしてもらっております」

「そうか、なら良かった」


 彼の安堵したような声が聞こえた。


「あの子は無事なんでしょうか」

「分からないが無事であることを祈ろう」


 もういく日ここに閉じ込められているかも分からない中で娘のことだけは毎日考えていた。

 どこからか、石を靴底が叩く音がする。

 次第にそれは近づいて、ドアの開く音がした。


「陛下、ご機嫌はいかがですか」

「うむ、息災である」

「それはなによりです」


 壁の向こう側で彼と誰かが会話を交わす。


「して、今日はなんの用件だ……団長殿……いや、"元"団長殿」

「私は国を裏切った身です、罵っていただいてもかまいません」

「それは必要ないな。貴殿にはその方が堪えるであろう」

「いっそ、蔑んでいただけたならどんなに楽なことか……」

「貴殿の自嘲をわざわざ言いに来たのではあるまい」


 元騎士団長と思われる人物が躊躇うように言いよどみながら、声を震わせた。


「陛下、現騎士団長と軍務大臣の消息が分かりました……二人とも他の騎士団の兵士と共に死亡が確認されました。この目で確認してまいりましたので間違え……ありません……」

「そうか……」

「その他にも大勢の元部下たちの死に顔も見てまいりました。みな、誇らしい顔つきをしておりました……」

「生き残った者たちには命を粗末にするなとよく伝えておいてくれよ」

「よくよく言い聞かせておきます」


 長い沈黙に耐えきれなくなったのか、元団長が彼に尋ねた。時計の音がカチカチカチと聴こえる。


「なぜ、民衆を扇動して王政を打倒したかを聞いてはくれないのですか」

「聞く必要のないことだ」

「そうですか」


 懇願するようなその問いを、彼はにべもなく払いのけてため息を零した。


「では、私は失礼します」


 元団長がそう告げてドアを開ける音がした。


「ああ、そうだ……」


 陛下が唐突に言葉を投げかける。


「長生きするのだぞ。落ち着いたら責任を取るなどと考えているくらいなら生きて責任を全うせよ」


 元団長は返事することもなく、扉を閉めた。


「次に会う時は処刑台の上かな……」


 彼がそう、ぽつりと呟いた。

 カチカチと時計の音が3回鳴った。



 それから、数日が経ったある日……突然に私たちの処刑日が知らされた。国の内政の安定化と武力蜂起による混乱の沈静化に時間がかかり、落ち着くまでに相当の日数がかかってしまったということが伝えられる。以前、王女の消息は不明のままであるとも教えられた。公爵と元騎士団長が貴族間の対立を終息させ、貴族による評議会にて我々の処刑が過半数の支持を受けて可決された。


「長かったような、短かったような……」

「ああ、いよいよあと数日でお別れだね」

「……」


 私は壁越しの相槌に言葉を返すことができなかった。

 また、時計が3回鳴った。



 ――――そして、迎える処刑の当日。


 カチカチカチ……時計の音がする。


 城下の広場には大勢の人が押し寄せていたが、思いのほか静まり返っていた。1段登る度にギシギシと軋む処刑台の音だけがイヤに耳につく。


(美しい花も枯れてしまえば醜いものだな)


 途中でふり返り、城を眺めて心の中で嘲笑した。古びた壁に染み付いた汚れが目障りでしばし呆然と見つめる。


「早くお上がりください、王妃さま」


 キツく締められた手枷がギリリ……と締まる。

 私は再び、1段……また1段と階段を踏みしめた。

 これまでの人生を振り返るように歩みを進めて後悔も懺悔も遠い彼方に放られていく。


 最上部までやって来ると元団長と数人の兵士らしい人物が立っていた。王は民衆を見下ろすように台の際に立ち、吹く風が彼の髪を躍らせる。

 私もその横に立ち、国を涯てから見下ろした。

 煉獄から吹く風は冷たく、ちりちりとした怨嗟の呻きに私の肌は灼かれた。

 恨むような民衆の目に、私は畏敬の念をもってこの世界に一礼する。


 そして、処刑の宣告が始まる。


「これより、この国を蝕んでいた反逆者達の処刑を執り行う」


 みながうなだれるように下を向く。宣誓する元団長の声は心なしか震えていた。


「この者らは王族という立場にありながら我ら民衆を蔑ろにし、国の悲鳴に耳を傾けることもなく我らを踏み付けにしていた。

 しかし、我らはこれに否を唱え、決起し、いまここで自由を勝ち取った。国を食い潰していた者を処断することでこの国は自由となるのだ。

 家族が飢えに苦しみ、悲しみで明日を曇らせる時代は終わった。諸国の侵略に怯える必要などもうない……我らの勇気ある行動は他国の勇敢なる者たちにも力を与え、我々民衆の時代が来るのだ。

 今日、いまをもって自由を謳うのだ」


 すすり泣くような声が広場に響き渡る。


「高らかに謳え、自由を……胸を張って叫べ、英雄たちよ」


 民衆の大半が咽び泣き、広場には慟哭が木霊する。


「団長殿、なぜ民衆はあんなにも悲しんでいるのだ」


 陛下が尋ねた。


「陛下が国のために全て背負っていることをみな知っているからです……」


 元団長が答える。


「なぜ、悲しまねばならぬのです」


 私は問うた。


「家族との別れに泣かない人間などおりますまい」


 兵士が泣きながら答える。


「そうね……」


 私はそう相槌を打った。


「陛下……」

「みなまで言うな、宰相殿」


 私は彼と目を合わせて、小さくうなづいた。


「よく聞け、悲しむな……泣くな。お前たちは自由を手に入れたんだ。今日が明日の始まりなんだ、明日はこれからの始まりなんだ。前を見て、生きよ」


 彼の問いかけに私も続けた。


「人はいつか別れを迎える時がきます。だけど別れがあっても出会いはまた訪れます、胸を張って明日を生きてください……明日のために、どうか……どうか、笑って」


 私はありったけの声で叫ぶ。


「生きて、今日も幸せだったと……明日も幸せだと……そう言って、生きてください」


 兵士が私の首に枷を付けようとするが、震える手でもたつく。私は兵士の手に両手を添えて微笑んだ。


「大丈夫、きっと痛くはないのだから……」


 首に枷がかかり、真上でギラつく刃が光る。日が西に傾いて世界を赤くしていく。


 教会の鐘が鳴り響いた。

 鞘から剣が抜ける時に聴こえる金属の擦れる音がする。


「縄を切れ、首をはねよ」


 その号令が響き渡ると、縄の切れる音が聴こえた。


「あ、陛下……」

「どうした」


 私が不意に呼びかけると、私と彼は目が合って思わず笑った。


「そろそろ、晩ご飯の時間ですね」





 銀の懐中時計がまた、3回鳴った。






 ――End――



ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月 です!


最終話が完成しました。

話の流れとしては、これにて完結です!

最後の締め方が甘い気がするのでもしかしたら改稿するかもしれません((´∀`*))ヶラヶラ


8年という時間をかけて、のんびり書かさせてもらいました。長かったようなあっという間のような…って感じですね〜(笑)


話の長さを抑えたかったのと読んでくださってる方の想像にお任せしたい部分も多くあり、あえて深掘りしてないところが沢山あって、どゆこと?ってところがかなりあると思いますが作者としては言及するつもりはありません!(笑)


制作の経緯と舞台背景、意図の部分を少しだけ説明させてください。


制作の経緯としては、小学生の時にフロイトとかアドラーを読んだ時に「アイデンティティってなんだろ?自己の認識ってなんだろ?」というのが根本にあります。当時は読んでてよく分からない部分が多くあり、疑問として引っかかっていた程度だったんですが高校生になってもずっと引っかかってたんですよね。


というとこから、この作品の取っ掛りが出来てます。

大きなテーマは「自己愛と時間の流れ」となっていて、そこを表現していくにあたり、色んな本の影響を受けながら作り始めてみました。


年齢を重ねながら主人公(王女)の色々な部分が変わっていってるのは、精神の成熟に合わせて考え方も複雑になっていく過程でちゃんと作品内で歳を取らせたかったからっていうのがあります。そのせいで8年も費やしてしまいましたが、これは私なりの答えであり個人的には物語としてというよりは独自解釈の論文に近いものがありますね((´∀`*))←ナニイッテンダコイツ状態



次に時代背景ですが、こちらは大体お察しの通りで18〜19世紀の欧州が舞台になっています。文明が発展して人類がちょうど精神部分で論理的になってきたくらいの頃合いですね!

文明自体が自我を持つ中で生まれてきた色々な部分っていうのが、当時の書物に色濃く反映されてて私はそゆのがけっこー好きなんで表現するのにかなり影響を受けました。(色々と調べたり、理論を深めたりするのにかなり労力がかかりましたがwww)

まあ、とある国のとある出来事にフィクションを混ぜて自分の好きな設定に書き換えて踏襲した感じです……もはや、別物(笑)

歴史は繰り返すというので、これから先のいつかに似たようなことがあるかもしれませんね〜って感じです。


最後に意図ですが、これはあまり話してしまうとナンセンスなのでちょっとだけになりますが……キャラに名前がないのは、自己認識であったり、人によって変化していく認識や感情に違いがあるため、あえてキャラ名は存在しません。キャラ名を設定してしまうと、そのキャラはそのキャラとして生きていってしまうので私はこの作品を作る上でそれは違うなぁ…と思って、設定されておりません。そのせいで話を追うのに混乱させてしまってる部分が多数あると思います。私も書いてて、こんがらがってました(笑)

一つだけ言えるのは、各キャラ達は感情などに紐づいてますので自身の解釈にマッチする捉え方をすれば、行動の意図なども分かりやすくなるかも……です?


例えばで1キャラだけ例に出すと、王子と王女が司るのは私の中では「愛」です。

「愛」だけでも複数あって、親愛や情愛や慈愛……自己愛なんかも該当しますね(笑)


とまあ、こんな感じで読んでいくと、またちょっと違うかもしれません。意味不明なもんは意味不明と言われそうですが、これ全部説明していったらトンデモナイコトになっちゃいますのでwww


ちょっとだけと言いながら、長くなってしまいましたね((´∀`*))ヶラヶラ




最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました!



それでは、またいつか〜ノシ

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