プロローグ: 井の中の蝶々は月を見た。
ー それはカラメルソースのレモンクッキー
「俺と一緒に旅に出ないか?」
彼はそう言って私の手を握った。
小さく私が頷くと、体は地面から離れた。
彼の手も、腕も、体も、私とは全然変わらないのに、軽々と私を持ち上げ、彼は微笑んだ。
「なんだ…思ったよりも軽いんだな、なんか拍子抜け」
「なっ、五月蝿いわよっ!」
部屋のカーテンがヒラリと風に舞う。
「しっかり掴まっとけよ!」
「ななな、ま…まさかっ!?」
彼は助走をつけると、勢い良く窓に突進する。
「ひいいいぃぃぃやあああぁぁぁーっっ!!」
そのまさか、窓から飛び出して、中庭へと滑り込む。
「うるさいなぁ。大きな声出したら、バレるだろ…バカ」
この時、私は思った。
(こんなのと、逃げ出したのは間違いだったかな…)
少し不機嫌に彼が私を地面へ降ろす。
「自分で歩けよ、まったく」
勝手に担いで、飛び降りて、機嫌悪くして、何様のつもりなの? と、問い詰めようと口を開けた瞬間-……。
「はむっ…」
‐私の耳は噛まれた。
何が起きたかも解らず、硬直していると、
「五月蝿い姫様を静かにする魔法。ホントだったんだね」
憎たらしい声で我に返り、私は慌てて耳から唇を引き剥がす。
「ア、アンタねぇっ!いきなり、何してくれてんのよぉ…」
声を張ったハズなのに、上手く息を吐けず、音は急速に沈んでしまった。
「ソレ、怒ってんの? 照れてんの?」
「し、知らないっ! フンッ!」
耳が熱くなり、歯も立てられてないのに、なんでか痛い。
「ねぇ?なんで拗ねてんのぉー? なんで?」
私は彼の言葉に耳も傾けず、長い長い中庭を突き進む。
しばらく、月の明かりを頼りに歩いていると、急速に体が引っ張っられる。
「ソッチはダメ。見張りが歩いてるから…」
そう言って、彼は私を導いた。
暗がりの中、彼の背中を頼りにひた走る。
不気味なくらいに静かで、彼の息遣いと私の心音がイヤでも響く。
「ふぅ…これくらい走れば、大丈夫だろ」
彼の顎を伝う汗を目で追うと、彼は少しだけムッとした顔でソレを拭ってしまう。
「熱いな、この服。張り付いてイヤになる…」
胸元をパタパタと煽ると、鎖骨がチラチラ覗き、やっぱり男の子なんだなって感じる。
「なんだよ。さっきからジロジロ見て…」
照れたように身体を捻り、彼は私を睨みつける。
「いや、男の子なんだな…て、思っただけ。良かったよ、私より胸があったらどうしようかと思った」
「ああ、そうだよな。サラシ無しでソレ…だもんなあ」
「うっ…まだ、発展途上なのっ! 今からなのぉ!!」
哀れみの目が胸へと向き、私は咄嗟に隠して睨み返す。
「でも、困るなぁ。発展しちゃったら、お前とも会えなくなっちゃうかもしれないし」
彼の、真実を突き刺す刃に、私の言葉と感情が裂かれてしまう。
躊躇って、戸惑っても、言葉は言葉にならず、私は無知のフリをして、誤魔化した。
「なんで?」
口をついて出たその音は、彼を苦しめる。
歪んだ微笑みは暖かくも、冷たいモノだった。
「だって、そうだろ? そうなったら、多分…お前は一生幽閉だ。そして、俺がお前になる。ソレは多分、間違えない。ただ、『王女様』はどうなるか…だな」
聴くまでもなく解っている事なのに、彼の口からソレを突き付けられるのは、耐え難い苦痛だった。
「どういうこと?」
なのに、私はまだ知らないフリをする。
彼にソレを言わせる事が、どんなに残酷であるかも知っているのに、私は言わせてしまった。
「鈍いなぁ、俺はお前でお前は俺なんだ。成り立たなくなったら不要品は捨てるか倉庫行きだろ?」
「そんな! …そんなのイヤだよっ!」
彼にそんな事を言っても、仕方のないコトだ。
そうだとしても、言わずにはいられなかった。
追い詰めて狼狽する度に歪むその顔はとても素敵で、私にとってその姿はどんな宝石よりも価値のあるモノだから。
何時の間にやら朧気霞む月に、どうしようもない時間の流れを感じる。
彼は張り付いた口を引き剥がすと、こう言った。
「まあ、少なくとも捨てられはしないとは思うけどな」
哀しげなその眼は、私じゃない私を見ていた。
そう、私じゃなくて何れ訪れる自分の姿を見ていた。
「なら、どうして最初からそうしないの? なんで、首輪の付いた自由を与えるの?」
少しでも私から逸れている彼の心が憎くて許せなくて、彼にとって最も致命的な言葉を私はぶつけた。
痛みに裂かれる彼を眺めて優位に立ってる実感を得ると、ようやく満たされる。
「大人の利権の為には必要だから。ただ、リスクが高くなれば低い方を選ぶのは当たり前だろ?」
震えるその声は、愛しくも卑しく聞こえた。
もう、止めてくれ…お願いだから―。
そんな物言いに、私は自分の残酷さを締め付けられた気がして思わず退いてしまった。
「難しくてわかんないよ…そんなの」
錆びついたナイフで抉るような、そんな言葉を彼に贈えたのにも関わらずそれでも彼は私を必要とする。
「仕方ないさ。俺たちが…いや、俺がガラクタだから」
溢れる蜜が割れた器に注がれ月夜に照らされて、まるで人のカタチのようだった。
「そんな事ないっ! 私は…俺はガラクタなんかじゃない!」
蜜が冷えて固まるとそれは飴となり、私達は頬張るコトにした。
私だけが彼を受け入れて彼も私でなくてはいけない。
そう思い込ませるのは簡単だった。
何故なら、彼と私は水鏡のようなモノだから。
お互いを覗いて、初めて私達は自分を認識する。
ただ、私の場合は彼とは違い、表側だ。
だから、薄汚れているし、濁ってる。
自覚があるからこそ、綺麗なモノに惹かれる。
そうすると、自然に自分も綺麗な気がしてピタリと張り付くと自分の汚れが見えなくなる。
「あぁ、どうして。どうして、私は貴方なの? 私が私なら、こんなに辛くは…なかったのに…」
「そしたら、こうもならなかったよ?」
「そうね…」
背中合わせですぐ傍なのに顔を見たくて振り向くと、映るのは自分。
触れたくて手を伸ばすと歪んでしまう。
ソレが堪らなく私を狂わせる。
明かりの無い夜は気が付けば白んでいて知らない内に彼は消えていた…。
ハジメマシテ な コンニチハっ!
高原 律月です!
この度はアクセスいただきありがとうございますっ。
あらすじにも書かせてもらいましたが、少しひねた物語になっていますので、最初からぶっ飛び過ぎてますが、悪しからず。
えーっと、実は…ですね、このお話、当初は普通の恋愛ものにする予定でした(書いてる途中で作者が胸焼けを起こした為、断行。)
あと、ボキャ薄いから上手くいかなかったんですよねぇ...
で、しばらく考えてみた結果、何故かこのような形に(笑)
……少し本音が漏れちゃいましたがっ!
一応、プロットまでは完成したので投稿するコトにしました!
まだまだ全然、全くダメダメな文章ですが、これからも精進していきますので、気長に読んで貰えると嬉しいですっ。
*
「かんわきゅーだい。」
初投稿というコトで、わたくし律月は物凄いドキドキしております。
緊張のせいか、普段より口数が多いのです。
要らんコト(どーでもイイコト)ばかり、出てきて、肝心の伝えたいコトがまっっったくっ、出てきません!(開き直りー)
あ、言い忘れていたんですが、作者は怠け者+諸事情の為、若干投稿ペースがゆっくりですが(始める前から前のめり)、気長に待ってアクセスして下さいね!…ねっ?
※コメント等々があったら、ヤル気が出てペースが上がるかもしれません |つ-・)じっ…
そろそろ、グダグダになってきたので、この辺で切り上げたいと思います。
後書きまで見て下さって、ホントにありがとうございましたっ!
不詳 高原っ! これからも頑張りますので謹んでよろしくお願い申し上げます。
それでは、また次回ー ノシ
最後に…
若干、ネタバレかもですけど
本文の中には色々と仕込んであるので
読み直すと、もしかしたら何か見つけられるかもっ!? です。
下手過ぎて伝わってなかったら、テヘペロですがっ!
今度こそ、また次回ー ノシ