第一次本土爆撃
橘しおりが空から降ってきてかれこれ一週間たった。出来たてほやほやの『魔兵装』をしばらく試していたのだが、どうにも体に合わない。だから少し改造してもらうことにした。
初期の『魔兵装』はかなり動くタイプのもので、結構な体力が必要だった。だが、僕は体力に自信がある方ではない。だからなるべく動かないようにお願いした。
しかしもう一週間もたつというのに何も起こらない。やっぱり嘘だったのか? 少し考えが甘かったのかもしれない。そもそもなぜ今回に限ってその場でオーケーをしてしまったのだろうか。普段は話を持ちかけられた、早くても翌日まで考えてから返事を出す。なのにも即答してしまった。疲れていたのかもしれない。
平次はと言うと、向こうもあまり合わなかったらしく、作り直してもらっている。
・・・本当に大丈夫なのか、あいつ?
やはり今日も何事もなく授業は終了する。こういう普通な日常がいい。落ち着く。しかし、意味のわからない迎撃部隊に入れられてしまった以上責任は果たさなければならない。
「宗二、この間はごめん。全然あなたについて質問しなかったから、見た目だけで判断して作っちゃった」
あれ? 僕の見た目そんなに運動できそう?
「気にしなくていいよ。次はしっかり質問して作ったから大丈夫だろ?」
「うん。でも次は一週間くらい待ってほしい。新機能を搭載してみたいから」
まだ何もおこってないのに?
「何か起こってからじゃ遅いからね」
確かにそうだが、まだ敵の様子も分からないのに大丈夫なのだろうか?
「まあとりあえず、今日も拠点によってね」
帰りに拠点によるのは最近の日課だ。とはいっても三日目だけど。
「おいおい、ちょっと待てよ。俺をおいていくなって」
「ごめん、忘れてた」
なぜ平次はこんなにも活発なのに存在を忘れられるのだろう。
「とりあえず、新機能として、と言うか完全に仕組みを改造した」
至って普通にいった。割と重要なことをすました顔で言った、こいつは。
「じゃあまた一から説明の聞きなおしか」
なぜつくりを変えたのか。それをこいつに聞いても無駄だろう。
「まず、武器はメインとサブとサポートに分かれてる」
そう言ってディスプレイのようなものを立ち上げ、表示する。
「現段階で予定しているのは、宗二は動きの少ないように精密射撃を得意とした銃器での攻撃。これがメイン」
そしてしおりはライフル銃らしきものをとりだした。
「これが試作型のライフル。名前は『α型超遠距離射撃ライフル』、つまり狙撃銃」
「見た感じ普通のものと変わらないんじゃないか? 一般的に出回ってるのを見たことはないが」
銃身は黒く、鈍く輝き、ずっしりとした見た目だ。何か特徴があるわけでもない。
「見た目は変わらないんだけどね。でも、威力はともかく普通のものよりも決定的に違うところがあるの。何だと思う?」
そう挑戦的なまなざしで聞いてくる。
「弾速とか射程とかそこらへんか?」
「・・・なんでわかったし」
明らかに落胆した。いやでも威力以外で違いそうなものと言われて重量、弾速、射程以外思いつかなかったんだが。もっとじっくり考えたら他のもあったかもしれないけど。
「気を取り直して、この狙撃銃の射程は最大5,000m。ある意味規格外。でもまあ実用的な範囲は3,000~4,000mだと思っておいて」
少し気になって狙撃銃の一般的な射程を調べてみると、大体長くても1,000mくらいだった。そう考えるとかなり性能はいいのかもしれない。
でも冷静に考えてみると、そんなに離れていて照準は定まるのか? スコープでもそこまでは無理な気がするのだが。
「そしてこの超遠距離射撃を実現することのできるもう一つの装備がこれ、『策敵機』。見た目はラジコンヘリだけどしっかりと内部にカメラが設置されてリアルタイムで目標の位置を特定できる」
言った通りのヘリだった。全く変わらない。
「いくらで買ってきた」
「五千円でそこの雑貨店で」
既製品かよ! まさかと思って聞いてみたけど買ってきただけかよ!
「大丈夫、しっかり改造してあるから」
「カメラをつけたんだよな。それくらい分かるよ」
あ、黙った。どうやら図星みたい。
「・・・装甲張ったもん」
言いかえればカメラと装甲張っただけである。
もう一度僕が使うことになりそうな武器の『設計図』を見てみる。ヘリはもう出来てるけど。重量もそんなにないし案外扱えるかもしれない。
「よし、メインの兵装は分かったからサブってのを教えてくれないか?」
「分かった。宗二のサブ兵装は『50mm荷電粒子砲』」
すぐに機嫌治ったと思ったらさらっとまた物騒なこと言ったよ。
「で、その荷電なんたらってのはどんなものなんだ?」
「電子を亜高速まで加速させてふっ飛ばす」
・・・。
「反動は?」
「ヤバい」
うん、そんな使ったら宇宙の彼方まで飛んでいきそうな武器使えないよね。
「うそうそ。反動はデバイスの方で軽減してくれる。・・・とは言っても割とかかるけど」
・・・ひやひやした。本気でそんなこと言ってたらふっ飛ばしてたと思うけど。
「そもそもこの武器は装填に時間がかかるからそんなにどんぱち撃ってられないの」
まあそりゃ電子とか扱う時点でそうなるわな。魔法とか魔弾とかはどこ行った。
「まあいいや次のサポートってのが一番よくわからないんだが」
「うん。サポートはね、自分では操作しないの。正確にいえば発射くらいは指示するけど、基本は持ち主の意思に応じて動く。ちょっと移動する砲台程度に思ってもらって構わない」
そうしてディスプレイに表示させる。
「『15cm粒子砲』。さっきの荷電粒子砲と違うのは発射するのが魔粒子ってところくらい」
さっきから完全に科学なんですが。本物そっくりだけど射程がけた違いの狙撃銃やら反動が無駄に大きい砲やら、今に至っては粒子を飛ばす。もう魔法じゃなくてもいいんじゃないんですか。
「まあまだ設計段階だからこれから変わることもあり得るから。今までの説明は参考程度に」
一週間かかるって言ってたもんな。一日で設計図を作れればいい方なのかもしれない。
「そういえば演算補助で脳に負担がかかるからあんまり使わないでほしいとか言ってなかったか? 装備を見る限り基本僕たちで戦うようだが」
「正直に言うと、あなたたちには根本的なところからこの『魔兵装』はあってないの。暮らし方、考えかた、教育の受け方など全然違うものだから。この間試しに装備した結果をもう一度良く見直してみたらそこが一番の問題点だった。だから演算補助は取っ払った」
てへっ、と笑った。・・・そういう重要なことは一番はじめに気づいてくれないかな。こちとら命かかってんじゃ。
「まあ僕たちの体に合っていればいいのだけれど」
しかし迎撃拠点と言ってもまだほとんど稼働していない。一様砲台などが装備されているらしいが弾を込めていないらしい。まったくもって意味がない。この間全弾装填しておいてくれと頼んだはずなのだが。
「まあ今日はこの報告がしたかっただけだから。もう帰ってもらっても構わないよ」
「じゃ、帰らせてもらうわ」
たぶん明日もここに来ることになりそうだが。
ここら辺は海沿いの地域と言うこともあってか、夕暮れ時になると日没が綺麗に見える。今日も赤く染まった太陽が水平線に沈んでいくのが良く見える。本当に来るかどうかは分からないがこんな平和な日常がいつまでも続いてほしい、そう願っている。
「なあ宗二。もししおりちゃんが言ってたことが本当なら、もしかしたら家族や友達と離れ離れになっちゃう可能性があるよな」
「まあそうだな」
「そうなったら俺らは正気を保っていられるのかな~なんて思ってたりして」
ちょっと言いたいことが良く分からなかったけれど、平次も何かしら考えてるんだな。でも僕はまだあんまり信用してないんだけどね、しおりの話を。
何事もなく終わる日こそ一番心配なものだと僕は思っている。そして今日と言う日は何事もなかった。それはしおりに呼び出されることも含めてだ。
いつも通り平次としゃべりながら帰っていた。しおりは一足先に拠点の方に帰っていた。きっと今日もこのまま終わるのだろ。そう思っていた。しかしそんな考えも無残に砕け散った。
「なあ、なんか飛んでるのがこっちに来てないか?」
平次が太陽の方に指をさした。それを見た瞬間驚き目を見開いた。
きれいな隊列を組みながら、ずっと同じ高度を飛んでいる。その機体は小さく、人一人のったら満員、それくらいの大きさだった。物凄い速度でこちらに来ている。嫌な予感がした。
「平次、今すぐ拠点に向かおう」
「お、おう」
平次の返事を待たずに腕をつかみ、ダッシュする。
しかし僕は体力に自信がある方ではない。そんな体力はすぐに尽きた。疲れ果てている間にも「それら」はこちらに近付いている。
「宗二、乗れ。俺が連れてってやる」
いつの間にか自転車を持ってきていた平次はすぐに出せるように準備していた。
「ありがとう」
そういいつつ後ろに乗る。平次なら大丈夫だろう。こいつは体力だけが取り柄だから。
その期待は裏切られず、後1kmで着くという場所まで来ていた。だが「それら」も同様にもうすぐ上空に到着する。
「頼む・・・間に合ってくれ」
そう呟くしかなかった。
だが後200mと言うところで空を見上げ、絶望した。「それら」はついに、真上に来ていた。
黒く鈍く光る「それら」は良くは見えなかったが、爆弾のようなものを落としていった。そして投下したものから急旋回し、離脱していった。
「はぁ…着いたぞ・・・」
なんとか僕らは拠点まで着くことができた。中に入った瞬間、外で爆発音がした。
「なんだ!?」
そう言って外の様子を確認しようとした平次の腕をつかむ。
「まだダメだ。今はしおりのいるところまで行くのが優先だ」
「でも、いま、爆発音が」
そういったが無視した。
部屋に入った途端、しおりがこちらによってきて、
「怪我はない? 大丈夫?」
そう、とても心配そうな面持ちでやってきた。
「ああ、大丈夫だ」
爆撃される前にこの中に入れたからな。
「それよりもこれは、その異世界からの攻撃なのか!」
「ええ。爆撃機の種類を見ても装甲を見てもどう考えてもこの世界のじゃない。あの黒い機体は私の世界のもの」
やはりそうだったか。いまどき日本を爆撃しようとする国などないはずだ。
「被害の状況とか分かるか?」
そう聞くとしおりはディスプレイに地図を表示させる。
「どうやら被害はここだけみたい。たぶんあっちも偵察を兼ねてだと思う。あいつら勝てると思った相手には最初から攻撃を仕掛ける性質だから」
聞いていた通りの性格だな。最初から爆弾落とすなんて、ひどすぎる。
「たぶん次に来る時はこの倍の数で攻めてくる。ここで防衛しないと確実に日本はおとされる。日本が落ちたら全世界に広まっていくでしょうね、攻撃が」
なんとかしてここで食い止めないといけないのか。
だが今回の倍の数で攻めてくるとなるとこの人数じゃ足りないだろう。
「やっぱり人とか集めたほうがいいのか?」
「そうだね。後二十人くらいほしいかな」
今から探しにいくか。もう攻撃は過ぎたみたいだし。
「よし平次。仲間集めに行くぞ」
「分かった。俺にあてがあるからまずそこに行こう」
割とこいつの人脈は期待していい。案外顔が広いのだ。
そう出ていこうとする僕たちにしおりが、
「外の状況を見ても冷静に行動して。じゃないとあなたたちが命を落とす可能性があるから・・・」
そう警告してきた。
「ああ、大丈夫だ」
そう僕は言った。
いざ外に出てみると、驚きを隠せなかった。
周りは炎に包まれ、空には黒煙が昇り太陽を遮っていた。状況がわからず混乱している人もいた。
この時初めて僕は感じた。
「奴らはとんでもない者」だと。
どうもお久しぶりです。うえだです。
三話投稿が一カ月以上あいてしまって申し訳ありません…
いろいろと予定がありまして、なかなか思うように執筆が進みませんでした。
まだまだ初心者なので読みにくい点があるかもしれませんが、これから修練を積んで技量を上げていきたいと思います。
今後もよろしくお願いします。