迎撃部隊、結成
意外にも世の中には恐ろしいことが起こっていたり、知らなくても良かったものがあったりするものだ。
それを僕は今日、知った。
僕、月影宗二は普通に生活を送っていた。通っている高校でも友人も多く、成績もそこそこ良かった。
普通に生活を送っていた僕はこのまま普通の生活を送っていくと思っていた。事実今まで何にもなかった。
「よっ、宗二。相変わらず考え事か?」
いけない。いつもの癖でまた自分の世界に入り浸ってしまったみたいだ。
「ああ、ごめんよ。また考え事をしていたみたいだ」
「今度はどんな数式考えていたんだ?」
「大したことも考えてないさ」
自慢ではないが、僕はこの世の現象を考えることが好きなのだ。それを数式として解明することに楽しみを覚えるのだ。まあ、今まで解析出来たことは数える程度しかないが。
しかしながらこの世の解明できていないことはどうやったら解明できるのだろうか。僕自身が解明する必要はないと思う、と言うか出来ない。でも未知数と言うのは誰でも興味を持つだろう。それを解明してくれる科学者たちは本当に尊敬している。
「おい宗二、また考えこんじまってるぞ。帰ろうぜ」
「ああ、すまない。帰ろうか」
「もう五時だぜ、そろそろ帰って宿題やらないと俺やベーよ」
「ごめんな」
そして僕らは帰路についた。
そういえば紹介を忘れてしまったな。今、僕と一緒に帰っているのは「牧平次」だ。僕の古くからの友人、いわゆる幼馴染と言うやつだ。こいつはなかなかの馬鹿で、考え方が単純というか、脳は正常に機能しているのかと疑いたくなるような行動をすることがある。
成績はあまり芳しくない一方、その熱血な性格で女子からの受けがかなりいい。モテモテだ。まあ対極的な二人だからこそここまで長く付き合えたのかもしれない。
まあそんな紹介もさておき、本当に今日は綺麗な空だな。なんというか、吸い込まれそうなほど遠く果てしなく広がっていることが改めて知らされる様子だ。
赤く染まった空、飛んでゆく鳥、そして落ちてくる人。――落ちてくる、人? いやいやおかしいだろ。きっと疲れているのだろう。幻覚か何かだ。ほら、人なんて落ちてきて……。落ちてきてるじゃないか! 一体何なんだ? と言うかこちらに向かってきているような気がする。
「おい! 平次。空から人が落ちてきているんだが」
「宗二、お前きっと疲れてるんだよ。早く帰ろうぜ」
まるっきり信じてない。ほんとに落ちてきてるのに。
「上見てみろ。マジで落ちてきてるから」
「んな訳あるかて…」
上を見て平次は口をあけて唖然としていた。なんというか読んでも反応はなさそうな気がする。
「ちょっと、こっちに落ちてきてるんじゃない?」
そんなこと考えてるうちにどんどん落下してきていた。ヤバいもうすぐ来る。
考える間もなく走り出した。なんとか間に合うか? それ一つしか考えず下へとかけ寄った。
「宗二、お前大丈夫か…」
「間に会え!」
そう叫びながらその人の下へと飛び込んだ。
どん、となんとか受け止めることがした。良かった、怪我はないようだ。
どんな人物なのか見てみると、少女だった。同い年くらいの少女だった。綺麗な黒髪に透き通るような肌。美少女だった。
「おい、大丈夫か? っておま、なにしとるんじゃ!」
「…落ちてきた人」
「え、マジで。チョーかわいいじゃん」
あ、平次は変態でした。言い忘れました。
にしてもなぜこの子は空から降ってきたのだろう。普通に考えたらあり得ないことだが、今現在ここに起きているものだから考えざるを得ない。
「おい、大丈夫か。生きてるか」
呼びかけても返事はない。
「聞こえてるなら返事をしてくれ」
やっぱり返事はない。仕方がないから最終手段を使うことにした。
ぺちぺち、ぺちぺちぺち。ぺちぺちぺちぺち。
起きない。とっとと起きてほしいからもう仕方がないが。
「うりゃ」
べチーん。
思いっきり叩いてやった。
「・・・痛い。何をするの」
「あ、起きた」
呼んでも起きないのに叩いたら起きるって。まあ普通か。
「痛かった。何で叩いたの」
「いや、すまない。呼んでもなかなかなかったから叩いてしまった。本当に申し訳ない」
まあ、返事がなくて救命措置を行うよりは良かっただろ。
しかし気になるのはなぜこの子は空から降ってきたのだろうか。飛行機から落ちた? いやいやありえん。飛び降り自殺? 死んでないし。じゃあなんだ?
「なあ。何で君は空から落ちてきたんだ?」
「分からない」
「え、なんていった」
「分からない。何度も言わせないで」
「分からないって、君自分が何者かわかるか?」
「Destroyer」
「は? それ何語?」
「Destroyer、破壊者」
「ちょっと何言ってるか分からないから一から説明してくれないか」
そもそも破壊者って何だ。厨二病なのかこの子。
「私はあなたたちの住む世界とは違う別の世界から来た。私の先生の命令によってここにくることになった」
「別の世界って、にわかに信じがたいことなのだが。そこはどんな世界なのか?」
「常に戦いが絶えない世界。欲深きもの達が集うところ。人々は皆強さを求め、皆権力を求める。ひどい世界だった」
「そんな、戦争が絶えないなんて・・・」
ずいぶんとひどい世界だな、戦いが絶えないなんて。その世界の人々は実に自分勝手だな。もっと安定した方法は考えなかったのだろうか。
でもなんでこの子はこの平和すぎる世界にやってきたんだ? 現代の日本は戦いなんて知る人の方が少ない。こんなところに来て何かメリットでもあるのだろうか。
「ところで何でお前はこの世界に来たんだ。考えてもメリットが見つからん」
「それはこの世界にもうすぐ軍が侵攻してくるから。きっとその防衛をしろ、ということだと思う」
「侵攻って、俺たちはそんな武力主義のやつらに対抗できるのか? そもそも何で侵攻してくるんだよ。訳が分からない」
やっぱり謎な奴らだな、その世界のやつらは。
「さっきも言った。私はDestroyer、破壊者。私の持つ力が対抗できる手段」
「意味がわからん。どうやってお前で対抗するんだ」
「君たちに力を与える。その力は私の持っている力と同じもの。それを使えば対抗できるはず」
「力って何だ。どんな力なんだ。と言うよりお前の力ってどんなものなんだ。見せてもらわないと信じれん」
さっきからずっと非日常的な話ばかり聞いているがまだ信じるまで至っていない。何せ全部非現実的だからな。
「今から私の力を見せるから。少し危ないから下がって」
「お、おう」
僕が後ろに下がると彼女は右手を上にあげ、何かをつぶやき出した。
「メインシステムチェック・・・異常なし。メインウェポン・・・異常なし。サブウェポン・・・使用可能。メインエンジン・・・安定稼働。システムオールグリーン。Magic Armament、展開」
そう呟いたのかな? そうすると、彼女の周りが光り始め何か砲台のようなものが出てきた。ってマジかよ、これが彼女の言っていた「力」というものなのか?
「これが私の力。『魔兵装』、そう私の世界では呼ばれている」
魔兵装と呼ばれたそれは、軍隊の持つ「砲台」のようなものだった。
「この砲台みたいなものがその『魔兵装』とやらか? ずいぶんとたいそうな名前がつけられてるみたいだが、ぱっと見た感じ僕の知っている砲台と何も変わらない気がするが。そんなものだったら僕らの世界の兵器で十分対抗できると思うのだが」
「この砲台は実弾も撃てる。けどそれではこの兵器の真価は発揮できない」
「じゃあどうするんだ? 実弾以外のものってなんだ?」
「魔弾、自身の持つ魔力を使って球を生成する。そっちの方が攻撃力や貫通力が高い。でももし魔法が使えなくなったときのために、実弾も持っている」
そうか、今まで魔法的なことばかりだったから弾丸で実弾になるってことはないよな。・・・どちらにしろ受け入れがたい事実であることは変わらないが。
「おーい、さっきから俺の存在忘れてねーか。俺はどうすればいいんだよ」
「あなたも迎撃に参加すべき。と言うより今までの話を聞いていたなら参加をしなければならない」
「マジかよ、今までそっちのけにされてその仕打ちかよ」
「でも迎撃しなければこの世界は侵略されてしまう。やはりあなたは迎撃に参加すべき」
返す言葉がなかったのか、悔しそうな顔をしていた。僕は口を出さなかったがまだ言い返す材料はあるぞ、平次。
「仕様がない、俺も参加するよ」
やっぱり平次は馬鹿だった。命の保証を聞けばよかったのに。
「ところで一つ聞きたいことがあるのだが、良いか」
「問題ない、何?」
「命の保証はしてくれるのか? 戦いとなるとその心配がある」
そういった瞬間、この場に沈黙が生まれた。・・・少し考えていたが危険を伴うのか? そう考えていると、ふと彼女が
「・・・大丈夫、『魔兵装』が守ってくれる。・・・たぶん」
「たぶんって言ったよな! 今たぶんて言ったよな!」
「大丈夫、『魔兵装』には防御フィールド展開機能があるから。正常に機能すれば命は大丈夫」
そうか、命を失う可能性があるんだな。まあ防御機能があるんならそれに頼るか、過信はしないけど。
まあ一度引き受けたものだ、と言うより世界守りたいし
「まあ自分たちの世界を守るのだから命の一つや二つかけて見せるさ」
「宗二がそういうなら俺も付き合うぜ」
「そう、じゃあ名前を聞いても良い?」
「僕は月影宗二、宗二で良いよ」
「俺は牧平治さ。よろしくな」
「私は橘しおり。しおりで良い」
「そうか、よろしくな」
こうして僕ら迎撃部隊は結成された。