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ラグナロクサーガ  作者: はるさき
第二章
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親子喧嘩

地鳴りがする程の大げさな悲鳴を上げたエンリケは、その後泡を吹いて失神した

救ってくれた時の格好良さが一瞬にして消えた感じのまま、僕とハンスで何とか地下道から酒場へとエンリケを運んでいた


そこそこに重かったけど、ハンスが力持ちだから

僕一人じゃたぶん無理だっただろうな…なんて思って、当の失神した本人はと言うと…?




「うーん…うーん…」


酒場の片隅で椅子を幾つか並べ、そこに横たわり

先ほどの気づかなかった自分の疾患に気づいたショックで唸っていた

その光景を呆れて見ていたトライは、ハァとため息をついて軽く彼を蹴った


「おーい、このおっさん。今年で幾つだっけ?」

「…確か、32歳だったような、でヤンス」

「もう三十路超えてたのね…」


その30代を超えた大人が、ネズミごときに屈する

情けなくも、何となくそれもエンリケらしいなと次第に苦笑いを浮かべて容認するようになっていた僕

するとハンスが僕を見て、先ほどの勇敢を語った


「しかし…無茶とはいえ、まあ勇気だけは褒めてやるでヤンス」

「へー戦ったの?やるじゃん」


別に致命傷を負わせたわけではないが、それでも戦闘面で褒められた事に嬉しくて頬を染めた

しかしその発言が今のタイミングでは「マズイ」と言う事にすぐ気付き、しまったと思った瞬間、父さんの顔色が既に変わっていた


「…ルーク、戦ったのか?」

「…う、うん…」


父さんの声色に、ハンスもトライも何事かと目を合わせた。戦う事はトリックスターのメンバーにとって当たり前。だけどそれは僕には今該当しない

そう、父さんは…



「なぜ戦った?危険な目に遭うかもしれないのに」

「そ、それは…」


その気まずい空気にハンスが立ち入る

少しうろたえながら、別に邪魔ではなかったと弁解してくれていたが、父さんはエンリケにまで確認を要求していた


「エンリケ…ルークは」

「物凄く働いてくれまし…グホッ!?」


戦ったという事実を肯定してくれたエンリケは、最後まで言葉を言えず、トライにみぞおちをえぐられた

トライも今の状況で、安易に僕が戦った事実を容認する事は

良くないと判断していたのだ


「この…バカオッサンが」

「ぐおおおお…痛い…ぃ」


悶えるエンリケ、一応弁論するハンス トライとクレアさんはそれを冷静に見守って、そして僕に視線を合わせた

何かあるのなら、戦う意図があってハンスに着いていったのなら、自分が今言うべきだと、特にトライは視線で父さんへの発言を促した

僕も黙っている場合ではないと、父さんに近付いた


「…道案内だけだと言ったはずだ、それを…怪我でもしたらどうするんだ?」

「僕だって…それなりに特訓して、強くなろうとしたんだ!父さんに黙って短剣も買って…毎日特訓してた」


その事実に父さんはとうとうカウンターをバァアン!と叩いた。ビクッと怯んだが、僕はもう最後まで言うべきだとうなだれるエンリケに向き直った



「エンリケ!」

「お、おう?なんだ?」


僕のめったに発しない気合の入った声に、流石のエンリケも少し油断したのか、よろけながら僕を見た 父さんが割り込もうとしたけど、それよりも先に僕は自分の意思を、決意を語った


「僕は…トリックスターのメンバーとして、一緒に世界を旅して、戦いたい!どうか…仲間として雇ってください!」

「ルーク!」


最後まで言い切った僕に対して、父さんは僕の名前を言う事しか出来ず

そんな父さんをエンリケは視線で制止した


「リカルド、今ルークは俺と話している。お前は介入するな」

「駄目だ!お前が何を言おうと駄目だ!そんな危険な真似…」


エンリケは僕の言葉にちゃんと耳を傾けているのに、父さんが何が何でもと妨害しようとする

僕はその父さんの理解を示さない態度に少しいらだってきていた


「父さん、僕だって…戦える。未熟だけど…勇気だってある!生半可な気持ちで言ってない!」

「駄目だ!」

「トライだって、戦ってるんだよ!」


思わず自分の名前を出されてびっくりしたトライ。それでもその言い訳に別に口を出さなかった





「トライは…トリックスターが家なんだ。お前はここが家なんだ…」

「…」


何時だって、父さんと一緒に過ごしてきた時間が長かった分、父さんの言い分に中々反論できない自分

それがもどかしくて、何も言えず 僕は外に駆け出した


「ルーク!?」


自分がトリックスターに行きたいが為にどんな傷つく言葉があったとしても、父さんへの想いもあるがゆえにそれを言う事が出来なかった

皆と一緒に行きたいなら、それだけの決別の決意があってもいいと思うのに

…そんな気持ちがどことなく情けなかった



―父さんの声が遠くなる、聞こえなくなるまで

走り続け、じわりと涙が浮かんでいた


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