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ラグナロクサーガ  作者: はるさき
第二章
8/86

だめなおとな2

地下道へは、少し細く錆びた

直立の梯子を降りなければいけない

僕にとっては不便ではないが…


「ひぃ…ふぅ…はぁ…」


メタボなハンスにとっては最初の試練だった

ようやく地面に降り立った時点で体力を浪費している。戦闘的な実力は申し分ないはずなのに、活動的な部分が弱点ならば何となくプラマイゼロと感じてしまう


「はぁ…梯子、嫌いでヤンス」

「もう少し錆びてたら…折れてたかも」


と、思いながら

僕は先が薄暗くてあまり見通しが良くない地下道を見渡した

一応小型の電灯も持っているが、それでは足りない位暗くて、少し危なっかしい


「いやーここで迷ったらアッシも多分帰れなかったと思うでヤンス」

「道案内…だけじゃないけどね」


僕の含み笑いに、ハンスは首を傾げた

それに応えるように、僕は懐から二つの短剣を取り出した

ハンスはちょっと後ろに下がってびっくりしたが、すぐに冷静を取り戻して

その短剣を所持している事実を問い詰めた


「ど、どうしてそんなもの…りんごむきに使うでヤンスか?」

「違うよ、特訓に使う為だよ」

ますます所持の理由が分からない、特訓と聞いて

何の特訓なのかとハンスは更に聞いてきた


でも、短剣で特訓と言えば、何となくわかるはず


「…戦闘の特訓だよ、ここの化け物で小さい奴を相手に…父さんに隠れて特訓してたんだ」

「戦闘の…なんでまた?」


そう、酒場の息子なのに

戦う事の鍛錬は必要ないはず

しかし今日、僕は皆に自分の決意を言う為に

今まで隠れて頑張ってきた

それを今、ハンスだけに先行してカミングアウトしても大丈夫だろうと、言おうとした


「あのね、ハンス…僕は、トリックスターの…」


大事な一言、を告げようとした瞬間



―何か、物音が聞こえて来た


その音に敏感に反応したハンスは僕の盾になり、斧を構えた。僕も緊張しながら短剣を構える

恐らく化け物が来たのかもしれない、と思って警戒していたが…


「ギャアアアアアアアアア…」

「…」


化け物…らしくない声?に緊張が少し解けた僕

ハンスはその声を聞いた瞬間斧を下し、ため息をついた。恐らく何か分かりきっているのだろう

その叫び声?が徐々に近づき、とりあえず短剣は構えたままだったが…




「ギャアアアアアッ!」

「え、エンリケ!?」


薄暗くて見えない先からはっきりと見えた姿は

明らかに動揺していたエンリケの必死な走行姿

エンリケはハンスの姿を見るや否や、走る速度を速め、すかさずハンスを抱きしめた


「ハハハハハハハハンスゥ!俺無理!MMMMMMMMMMMMMURI!」

「はいはい…でヤンス」


無理宣言をしたエンリケをなだめるハンス

化け物が強かったのか?

だけど僕もそれなりに相手した…その化け物は、別に見かけはそう怖くも無く、際立って強い訳ではない…


だって…


「エンリケ…化け物って、ちょっと大きなネズミだよ?」

「わあってるよ!」


分かっている、と言う事は

そのネズミに対して無理を宣言していると言う事になる。屈強の戦士がネズミに対して敗北宣言

その理由はすなわち…


「…キャプテンはネズミが嫌いでヤンス」

「うん、もう分かってしまった…」


あの時父さんが「鳴き真似」をした時のエンリケの反応と、今のエンリケの無理宣言

要するにネズミが嫌いって事に、簡単に結論が繋がってしまった


「リカルドめ…俺がこの条件がクリアできないと分かって、あえて提案してきたんだぞ!」

「父さんも知ってたのか…」


ネズミの化け物を倒さなければ酒は飲めない

けど、別にエンリケの制裁と思えば不便はない

倒したとしても、安全が確保されるだけであって、父さんにとってはどちらにとっても利に繋がるのだ


「一杯喰わされたね…エンリケ」

「俺は…もう駄目だ」


―エンリケの異名、そして歴戦の噂と実力への憧れ

色んな要素が陥落した瞬間だった


そんなちょっと情けないエンリケを見ていたら、エンリケが僕に目線を合わせた


「ルーク、もしかして俺を助けに来てくれたのか?」

「…え?」


恐らくエンリケは僕が持っている短剣を目にして、戦う意思があるのだと気づいたのだ

今更…まあ否定はしないし、それに頼られたという事は何となく気分が良い

がっかりした気分を払拭させる位、エンリケの言葉にしっかりと頷いた


「うん!僕も手伝うよ!」

「任せたぞ!青年!俺は常に後ろで様子を見る」


つまりエンリケは化け物を相手にする気持ちが既に萎えている、のだが

任されたというエンリケの期待に応えて

僕の本来の目的に、少しでも有利になるようにと

気合を入れた



一方ハンスは、そんな気持ちとは裏腹に

抱きつかれたままのエンリケを何とか引きはがそうとしていた


小さな電灯を前に向け、ハンスを先頭に次が僕

そしてびくびくしているエンリケが最後に続いて地下道を歩いていた

化け物…と言ってもネズミの化け物

その数は把握できていない


もしかしたら大量に居るかもしれないし、それを全部倒すとなれば、まあ一日では済まないだろう


「化け物…って、最近ニュースとかで目にするよね」

「正体不明の…異変生物としてな」


冷静に応えるエンリケ

勿論その存在を知ってるのだろう。もしかしたら何回かその化け物とも闘ってるのかもしれない

ただ、ネズミの化け物にはもう、白旗を上げていた


「オラバハルもインテルも、その調査に乗り出しているが…具体的な情報は明確になっていない。突然変異としか例えようがないってな」

「そうでヤンス…まあ深刻な被害はまだそんなに多発してないでヤンスが」


だとしても心配な要素であり、早くいなくなれば良いのにと思う。でもそんな弱気では、僕の決意に信憑性が霞む

だったら全部倒してやる、と言う意気込みを持つ方が、自分にとっても逞しさを表現するに値する


「…小さな化け物はほっとくでヤンス」

「そうだね…害はなさそうだし」


たまにキィィッと鳴く化け物は、普通のネズミよりやや大きいだけで、そんなに恐怖は感じない

けどその度にエンリケが悲鳴を上げる


本当に嫌いなんだな…その理由は何時か聞こう

でないとだんだん株が下がる



「…ヒッ!?」

「!?」


暫く歩いていると、徐々にネズミの化け物の数が増えて来た。何だか僕達の存在を警戒しているのか、ネズミの大群がある場所へと集まっていく光景が見えた

その大群に、更にエンリケは恐怖の色を深め、今にも失神しそうだが


…もう少し頑張ってほしい


「ネズミが…集まってるでヤンスね」

「何か…大きな穴が見える」


大群が集まる先には、壁に空いた大きな穴

ネズミは全てその穴に入っていく

恐らくそこが住処なのかもしれない、と僕とハンスは警戒したが

エンリケはうろたえている、本当に使えない



「…!?」


穴の奥から、二つの赤い光

少し大きいその光が確実に僕達を狙いとして定めている。殺気が伝わるその光に、ハンスは斧を向けた

しかし僕は先走る勇気に、警戒よりも見せ場を作りたいと、ハンスを押しのけてその穴に立ち向かった


「る、ルーク!?」

「来い!化け物!」


僕の挑発に、けたたましい叫び声

そして穴が裂ける位の振動と共に、巨大なネズミが現れた

僕はある程度予想していただけに、意外と冷静だった。が、ハンスとエンリケはその異形に別の視点での冷静で相手を分析していた


「ルーク!いったん離れろ!」

「大丈夫だよ!こんな奴…倒してやる!」


エンリケの忠告を無視して、僕は勢いよく

ネズミの化け物に切りかかった

確かに僅かな傷をつける事が出来たが、それがネズミの逆上を煽り、太い爪を生やした手を振りかざした


「っ!」


避けないと!と思ったが

その手が振り下ろされるスピードは速く、もしかしたら無理か!と目を閉じたが

いきなり誰かに押されて、ドスンと地面に倒れこんだ


「いっ…!?」


痛さに目を開け、僕を倒した相手を見た

そこには片手剣で軽くネズミの手を阻止しているエンリケの鋭い表情、化け物へ威圧を感じさせるように平然と立っていた


「…無理はするな、ルーク」

「ご、ごめん…」


倒れたまま、謝った僕に

エンリケはその剣でネズミの手を軽くはじき、身をひるがえしていとも簡単に手を削ぎ落とした

一方ネズミはその痛みに悲鳴を上げ、更に怒りを増大させた

奇声とも言える恐ろしい声に、動揺しないエンリケは剣を軽やかに仕舞い、指で何かを空に描いた


「…フレイム=リヴェラ!」


聞いた事も無い言葉をエンリケが発した瞬間

その空から激しい炎が盛り、ネズミの巨体をあっという間に覆い、燃やし尽くした

悲鳴を上げながら悶えるネズミは、その炎になすすべも無く


…ものの数分で灰と化した


「…」


その力に、光景に

僕は言葉を失っていた

エンリケが強いと分かって、ネズミが怖いとちょっと萎えて、それでも最後はやっぱり強かったと

確信したと同時に、その力の神秘さと不思議に見とれていた


一方エンリケは少し…表情を曇らせていたが、すぐに僕に駆け寄って安否を気遣った


「ったく…若気の至りっつーか」

「…ごめんなさい」


しょげる僕に、ポンポンと頭を叩くエンリケ

何時もの…エンリケだ

やっぱり強くて格好いい、憧れのエンリケだと笑みがこぼれた…が



「…キャプテン、ネズミは克服したでヤンスか?」

「…」


ハンスのもっともな意見に、エンリケは暫し沈黙して…次第に顔色を悪くさせていた

あれ?克服とか…

そんな状況じゃ…



そして、地下道の全域に響くであろう




「ギィイアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!」




…エンリケの、ネズミに対する恐怖の悲鳴が 響き渡ったのであった



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