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ラグナロクサーガ  作者: はるさき
第二章
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道案内の本意

…父さんの有難い、慈悲を聞いて

それを実行する為にエンリケは今、ある場所に居る


しかし、それから一時間…位?

今だ帰ってこない、音沙汰も無い


「遅いね…エンリケ」

「そうねー」


次々と飲み物や料理を運ぶ僕の心配を、トライは呑気に対応した

彼女が飲むのは何時も僕が作るレモネード。二つのサクランボを入れるのが決まっていた


「まあ…永久に帰ってこれないかもよ?」

「まさか…たかがあの条件で?」



そう、父さんは

エンリケの罪状を許し、飲酒を許す条件として

「地下道の化け物退治」を要求した

化け物…最近なんだけど、各地で人間とは違う変な生き物が襲って来たり、作物を荒らしたりと被害を出していると言う報告が増えてきていた


深刻なケースは今のところないけれど、その奇妙な存在に調査や研究が進められているらしい

勿論市民にとっても不安要素、不明な存在なだけにあまり良い気分になっていない

その化け物が最近、この酒場の地下道に住み着いていたのだ まだ被害…は来てないし、出てこないように頑丈に出入り口を固定しているのだが

父さんはそれしか対処のしようがないから、あまり満足していなかった

そこで、あの屈強と噂のエンリケに白羽の矢を立てた…と言う事なのだが


―その、一時間前


「化け物…?」

「ああ、地下道に住み着いてね…出てこないように出入り口を固く固定しているんだが…出来るかな?」


そうして父さんはエンリケにグラスを投げつけた

それをいとも簡単に片手でキャッチするエンリケは、からかわれたとばかりに強気な声で反論した


「俺を誰だと思ってる?【紅獅子のエンリケ】様だぞ?」


紅獅子のエンリケ、それがエンリケの異名

不思議な事にエンリケは人ならざる力を使う事が出来ると言われていた

一説によれば特殊な技術を身につけていると言われているが、真相は分からない

ただ、その力を使うまでも無くエンリケは剣術だけでも名だたる名手であった


数々の空賊と戦い、鎮圧し続けていた

その歴戦の実力を、噂だけで聞いていたとしても


僕はそれを信じて疑わない


「そうだよ!エンリケならどんな化け物でも倒しちゃうよ!」

「おー流石はルーク、俺の良き理解者よ!」


両手を広げ、僕の擁護に感激しながら抱擁するエンリケに

眉間のしわを浮かべて、気に入らない素振りを見せる父さんは

少し間をおいて、空言のように

かと言って聞かせる相手はエンリケ本人だと、かすかにほくそ笑んだ


「チュー、チュー、紅獅子のエンリケに退治されちゃうデチュー」

「…」



からかっているのか、それとも嘲笑っているのか

父さんの真意は分からないけど

その「動物」の鳴き声に、何の意図があるかも察せない僕から

少し距離を置いて、顔をうっすら青くしたエンリケが父さんを直視していた


「おや…ご気分がすぐれないか?大した事も言ってないが」

「て…てめー…」


―明らかに、父さんとエンリケの間に何らかの含みがある

でも僕は普通に、これから向かう地下道での一仕事に、エンリケが支障をきたすなんて

その時は思わなかった

疑問符を浮かべるのは僕だけ、父さんの茶化しに

他の誰もが苦笑する。バカウケしていたのはトライだけ


「紅獅子のエンリケが出来ない事なんて、この世にあるのかどうか…さて、私の見分では疑いもしないが」

「…あーっ!くそっ、もう!分かった、お前の望み通りやってやらぁ!」


頭をかいて、やけくそとばかりに立ち上がり

地下道に促す父さんの後に続くエンリケを見ていた僕は


たった僅かの言葉の交差に含まれた

「父さんの悪戯」に全く気付かなかった


「でも…心配だな、何かあったのかも」



時が進む時計を見つめながら呟いた僕

しかし他の仲間全員は心配した素振りはない

唯一クレアさんだけは、少しだけ不安…というか、どうしたものかと思案しているようだった


「クレア、たまには御仕置きとしてあの位やらせてあげなさいよ」

「そ、そうなんだけど…」


クレアさんの向かいに座っていたトライが冷たく論した。少し酔いが回ったハンスも頷いている

多分皆は、エンリケが帰ってこない理由を知っているんだ

恐らく…父さんも。その父さんも別に気にしている素振りを見せていない。普通に調理や洗いものに励んでいる


「…でも、可哀そうだから…ハンス。迎えに行ってあげて?」

「…えー…?」


ほろ酔いで良い気分のハンスに、クレアさんがお願いした。多分エンリケがこのまま帰ってこない可能性を考えて、ハンスに助け船を出したのだ

その光景にやれやれとトライは笑みを浮かべ、クレアさんの補佐に回った


「副船長だしねー、船長の尻拭い位やらないと」

「今良い気分で酔いが…」


酒を飲むペンギンなんて聞いたことないが

それでも顔がほのかに赤いハンスは確かにほろ酔いで良い気分なんだろう

そんな最高な気分の状態を二人の女性に中断されるのだから反論したいだろうが、クレアさんの心配そうな眼差しに頭をポリポリと掻いた


「…はぁ…で、ヤンス」


もうこれ以上の飲酒は期待できないと諦めたハンスは、傍らに置いていた長い柄の斧を片手に持ち、立ちあがった 恐らく迎えに行くのだろう

女性には勝てない、それもハンスの優しさと言うか弱点と言うか…人の事言えないけど

しかしそのタイミングは、僕にとって


好都合だった


立ちあがり、地下道の出入り口を聞こうとしたハンスに僕は近寄って、ある提案をした


「ハンス、僕も付いて行くよ」

「…へ?」


その言葉にトライ、クレアさんは意外と言った感じで振り向き、父さんは少しびっくりしていたが

次第に表情が怖くなってきた


「…駄目だ、ルーク。相手は化け物だ。ハンスで十分…」

「み、道案内だけだよ…それに」


それに、と続く言葉を言おうとしたけど

僕はハッとして手で口を押さえた

父さんは何かしら疑っていたが、道案内という提案にハンスが有難いと頷いた


「迷うのは嫌でヤンス、道案内なら助かるでヤンスよ」

「…道案内ねー」


トライが何かを察しているみたいだが、それ以上は語らなかった

父さんはハンスの腕前も知っている、その実力を信じたのか、道案内だけならと許可をくれた


「…危ない真似はするなよ?ルーク」

「うん!」


そうして僕とハンスは、エンリケが居るはずの

地下道への入り口へと向かった



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