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かりそめの平和を願って


「さて、集まってもらったのは皆も承知」


その場にはいずれも、姿を神聖なる紬で作られた衣を纏い

表情をほとんど隠した、秘なる存在が円形に集い

事の終結に、重い腰を上げて鎮座する


誰もが陽気でも、愉快でもない

それでも「6人」は今この時をもって、集まらなくてはいけなかった


人の領域ではない、人の足では何万年重ねてもたどり着けぬ

光乏しき空間に、それぞれの存在は独自の色彩を放つ

美しき青があり、爽快な緑があり、沈静なる土があり、猛々しい赤がある

そして一際輝く光―対称に、淵が見えぬ闇


万物の主「世界」を構成する神々

「六大精霊王」がこの場に集まる理由

それは誰に聞いても「くだらない」と語尾をつけるだろう



―かつてこの世界は、世界自らが抱いた躊躇によって

表裏一体、鏡のような存在「破壊神ラグナロク」をこの世に存在させてしまった

そしてやがて訪れようとする「灰の時代」


全ての命が、無に帰す時―


六大精霊王、だけでもなく

精霊たち、いや―人ならざる存在たちも

その時を恐れはしなかった


灰の時が訪れようとそれはやむを得ぬ、宿命さだめ

しかし人間は違った

抗おうとする、恐れる、嘆く―そしてその先に、六大精霊王は

ある一人の勇敢なる古代種に、自らの分身を託した


「本当にやれるとは思っても居なかった」


目にする事すら畏れ多き、光の精霊王「アレクシュナ」は

今この場に集い、訪れるべき運命が人と古代種の手によって変えられた事を

最初からは信じていなかった



運命は「変えられた」


灰の時代は訪れず、破壊神ラグナロクは六大精霊王の力を得た人と

たった一人の古代種

生誕してから六つの精霊の加護と寵愛を受けし「不死の魔導師」の手によって


「さて、それからだ。人間とはこんなにも浅ましいのか」


アレクシュナはそう呟いて「今」を憂いた

光が零れ落ちるというのはこういう事か―地にそそがれる結晶は一つだけでも

手に触れる事すら畏れ多く、神秘的で

恐らく人間が一生をかけても目にする事の出来ない美しさに、ほかの六大精霊王は

別に何一つ語らぬ


「磔の敗北者はただの骸。それに真の平和を証明する力を施さん―」


人間が望むは、六大精霊王の力をもってして

幾ら所業の罪深さあろうと、磔に縛り付けた骸―破壊神ラグナロクを

太陽のいずる時に裁こうとする


しかし、どの六大精霊王の力とは「言っていない」


―そこが、問題だ


「私は嫌だ、清らかな水が濁る…耐えがたきぞ」

六大精霊王「ウンディーネ」は拒む

「私は嫌だ、瞬きの風が鈍ろう…耐えがたきぞ」

六大精霊王「ガルーダ」は拒む

「私は嫌だ、母なる大地の肥やしにするつもりか…耐えがたきぞ」

六大精霊王「ラクシュミ」は拒む



各々の拒否。しかし一人。語らぬ

語ろうとしたのかどうかはさておき、その前にアレクシュナが語る


「ならば私か?光にて裁けと―御免こうむる。ハデスはどうか?」

「…人間が望まぬだろう」

「それもそうだ、お前は破壊神ラグナロクとそう変わらぬ。下らぬ問いかけをした」


するとアレクシュナは語るタイミングを逃した一人の王を見た


「…そう言えば、人間は死者を弔う時に「火」を使うそうだな」

「…」

「人間の所業など、私には分からぬが…望まれるべきはそなたの力かもしれぬ」


―六大精霊王「フレイアン」はアレクシュナの言葉に黙す

彼の不服はまだ聞けておらず、今から言おうとしても場は既に結論を導き出した


【磔に嘆く無残な骸『ラグナロク』はフレイアンの炎で裁かれん】


「…さあ、人間の望みにこれ以上頭を使う事もない。とても疲れた…各々の所に帰るとしよう」


アレクシュナの一言に、六大精霊王は一人、また一人と消える

場に残されたのは、未だ心の内で葛藤する焔の王フレイアンただ一人

定まりし結論に抗おうとも誰も耳を貸さぬ。各々の遠き処には扉もなく閉ざされて

開かれる時は同じ事、人間の尺では測れぬ永久に等しい時であろうか


「…」


そして、赤き焔が舞い上がり

フレイアンもまた消えた

太陽のいずる時。磔の骸を炎で―




















「灰…に、するか。人間よ」






























残酷なのは


「ラグナロク」か、それとも



―「人間」か―

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