『いい、愛を 込めて』
使用お題四つ
世界の空はどこまでも青く澄み渡り、大樹の生い茂る山岳地域。多くの命のざわめきが耳を流れていく。
予期せぬ来訪者にいつもより森は賑やかだったのだ。
「フクロウが賑やかしいですね」
「そうだな」
同じ家に二人は住んでいる。広くはあるが他に住人はいない。
この家は不思議なつくりをしていて、天井を仰げば、満天の星が見えるのだ。
早い話、屋根がなかった。
部屋の中央にはテーブルではなく、ででんと人を煮込むことすら可能そうな黒光りする大鍋。
まさに魔法の使い手の家としてふさわしい不可思議さを持つすまいだった。
「調合はこれでいいはずだ」
「注文のお薬ですね。さすがです。フウロ様」
大鍋に追加された木の根っこがじわりと煮込まれて溶けていく。
「いや。今宵一杯やるためさ」
「おつまみなら作りますよ」
不服そうな声に調合していた人物はゆっくりと体を動かした。
「カラベラ。お前はもう休まねばならん時間であろ」
「フウロ様がお心をくださればまだ大丈夫ですとも!」
満面の笑みと大ぶりな動きで誘惑するように体をしならせてもフウロは気にした風もなくその手を『向こうに行け』と振るのだ。
カラベラがフウロに拾われて三年の月日が過ぎていた。
きっかけはカラベラの母がカフェで忘れた荷物を当時、その街で教師をしていたフウロが拾って届けてくれたことだった。
カラベラは赤に染まった母がなぜ動かなかったのかわからなかったし、訪れたフウロは実に甘い魔力を持っていて安心させられたのだ。
あとはそのまま、フウロの家に連れてこられたので母がどうなったのか、教職をどうしたのかは知らない。
言葉数は少ないが、フウロはカラベラにとって良い教師であり、保護者だった。
「私の魔力はお前を壊しかねん」
拒絶の言葉にカラベラは不満の息を吐く。
「なら受け入れられるように調整してください。フウロ様なら可能でしょう」
カラベラの不満たっぷりな言葉にフウロは苦笑いをこぼす。
信頼とわがままの絡まる要求を『かわいい』と思う自分に自嘲がこぼれる。
「あ! フウロ様、わがまま者めって思ってますね。ひどいですよ!」
小さく笑うフウロに拗ねてもうまくかわされてしまってぷくりとカラベラは頬を膨らませる。
「今宵は特別なのだ。カーラ。お前は早うおやすみ」
なだめるように愛称を使われてほころばせかけた表情を必死に押しとどめる。カラベラのその表情はフウロに笑みと焦りをもたらす動きで。
「言いつけは守れるね」
「はぁーい」
一度、ぎゅっと体を埋めるようにフウロに抱き着いてから名残惜しげに、それでも素直に寝床へと移動するカラベラを見送ったフウロは大鍋から取り出した液体をガラス瓶に落としていく。
仰ぐ空には雲ひとつない藍と白々と世界を照らす満ち月が輝いている。
誰もいない空間で、ぐびりと液体を嚥下させる音を響かせフウロは一気にガラス瓶の中身をあおった。
そこは空。
夜気が体を撫でてゆくのをざわめく心に認識する。
なんと涼やかで心地よいことか。その悦楽は予定されていた通りに阻害される。
『フウロ。いつまで人形と戯れる』
年長者の声にフウロはいらりと鱗をがなり立てる。
カラベラは人造人間。人によって造られた人の子。魔力が切れれば朽ち果てるはかない命。
しかし、あえて口にしないことでなかったことにしたかった事実でもあった。
問われれば、そこに答えはある。本人に告げることのないであろう答えが。
『滅ぶその時まで。共に添い踊ろうぞ』
龍人であるフウロの時は長い。比べてカラベラははかない。
それでも、愛してしまえば何も関係などなく心を焦がすことを知った。
思い浮かべるのはカラベラの無邪気な笑顔。
知識を好み、貪欲に求めてくる様はフウロに好ましく、いとしく映る。
数年に一度の情欲のたぎり。
フウロはそれを戦闘欲に変えて、年長者に向かう。
クッションと毛布にくるまれ枕をぎゅうっと握りしめ、満月に猛り狂う二頭の龍の舞を見上げる。
「ちゃんと、もっとちゃんと上手に誘わなくっちゃ!」
小さな決意を当人は気がつかない。
「だって、フウロ様しか、いらないんだ」
お互いに愛をこめて身勝手に二人は生きていく。
お題は〔からだを埋める〕です。
〔「?」の使用禁止〕かつ〔色の描写必須〕で書いてみましょう。
http://shindanmaker.com/467090
タイトルお題。『いい、愛を込めて』
http://shindanmaker.com/559460
照れ屋な龍人で満月に猛り狂う話を書きます。 http://shindanmaker.com/483657
ネタは教師が攻め、 人造人間が受け、カフェで忘れ物を届けた縁で愛が芽生えるストーリーです #BL漫画・小説のネタつくったー http://shindanmaker.com/559630




